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#6 タガタメ (1)


 昨日の一件で見つかった糸口。でもまだまだそれを手繰り寄せても真相は見えてこない。てーか手繰り寄せたら糸切れちゃいそうなくらい、ごくごく細い糸口。まぁでも全く何もないよりはいいか。


 今日もオレの周囲は静かだ。相変わらず女の子たちはオレに近づくのに躊躇してるみたい。…ちょっと慣れてきた自分が嫌かも…。


 一応志信ちゃんとひろみちゃんには昨日の報告をして、彼女たちのネットワークに、変なバイト(ってかゲーム?)には乗らないよう注意を呼びかけてもらった。…今オレに近づいてくる女の子がいないから、狙われることも狙うこともないだろうけど。


 女の子たちが寄ってこないので、無駄に学校にいても仕方ない。さっさと家に帰ってゲームでもするか…と靴箱で靴を履き替えていると、靴箱の裏で聞き慣れた声がした。


「…あ、じゃぁ今事務所にいるんですか? それなら今から向かいます。…え、わかってますよ! 別にそのために行くんじゃないですって!!!」


 …智史だ。


 くるりと靴箱を周って声のするほうに行ってみると、智史が携帯で誰かと話している。


 …事務所? ひょっとして、ゼロプロ…なわけないか。きっと、相手は智史の叔母さん…紫さんだ。ってことは事務所ってKMミュージックプロダクツ。え、今から行くの?


 通話を終えた智史ににこにこして近づいてみる。気づいた智史は苦笑い。


「…KMミュージックプロダクツ今から行くの?」


「うん、昨日のゼロプロの件で…紫さんが知ってる人なわけないだろうけど、なんか手がかりないかなぁと思って…。」


 うんうん、やっぱり? オレはにこにこしたまま智史を見つめる。尻尾振り振りってイメージで。


「…連れてってやってもいいけど、Diana To Moonのメンバーはいないよ。」


 オレの思考を完全に読み取って、智史はそう言った。…なんだぁ…SHIYAちゃんもCHISAちゃんもいないんだ。残念…。


「でも行く。ゲーノー事務所なんて行ったことないし。スカウトされちゃったりして♪」


 きゃぴっ、と笑うと智史は溜息。


「…ありえない。」


 …まぁそんなわけで智史とともにKMミュージックプロダクツに向かうことに。




 …そこは思ったより小さな事務所だった。雑居ビルのワンフロア。こじんまり…というより、せまっ!!!…って感じ? 山のようなダンボールや雑誌、その他いろんなグッズなどが所狭しと積み上げられている。なんか、イメージと違う…。


「…そんないいもんじゃないだろ?」


 智史がオレの心を悟ったかのように、つぶやくように言った。うぅん…そーかも。


 その、山のようなダンボールの中のデスクで、オレたちが来たことにも気づかず一心不乱にパソコンに向かって何か仕事をしている後姿の女性が一人。…長い黒髪を無造作に束ねて、ポロシャツにジーンズといった、ラフすぎる格好。


「こんちはー。」


 智史がその女性に声をかける。ってことはこの人が紫さん…Diana To Moonの敏腕マネージャー?


「あぁビックリした! もう来たの?」


 本当に驚いた、って感じで振り返る。智史の叔母さん…ってことは智史のお父さんの妹さん…だよな? 兄妹、年離れてんのかな…。それともゲーノーカイの水ってヤツ? 叔母さんなんて言うのは失礼なくらい、若々しい。きっとこんなラフな格好だから、メークもしてないと思われるけど…全然気にならない。


「紫さん一人なんだ。」


「そぉよぅ。今日はみぃんなオフなのよぅ。私だけ仕事溜まっちゃっててさぁ…やな感じよねぇ。」


 ぶー、と子供のようにふくれる紫さん。そしてその時智史の背後にいたオレに気づいたみたい。


「あれ、智史のお友達?」


「うん、幼なじみの…」


 オレが紫さんに自己紹介をしようとした矢先に、紫さんが「あぁ!」と大きな声を上げた。


「ウワサの自慢の幼なじみくん! わぁい会いたかったのよぅ〜!!!」


 じ…自慢?


「別に自慢なんかしてねぇよっ!」


 慌てて智史が訂正する。そぉかぁ…こいつオレのこと自慢なんだぁ。その大急ぎの否定の仕方がCHISAちゃんのことをからかった時の反応と似ている。おもしれー。


「初めまして、新藤逸です。智史がいつもご迷惑かけてすみません。オレも会いたかったんですよ、紫さんに。」


 オレが丁寧に紫さんに挨拶をすると、紫さんは嬉しそうにはしゃぐ。


「きゃ〜かわいい!!! 確かにアイドル系だわぁ…。ウチにもっとお金があって、ジャニーズみたいな事務所だったら即デビューなのにっっっ!」


「マジっすか? オレ歌はSMAPの中居くんより上手いですよ。」


「…KMはバリバリロック系の音楽事務所じゃん…。“エレキの神様”京月冬夜(きょうづきとうや)…社長さんの名前汚すなよ…。」


 智史が溜息…。一人テンション低っ。


「冬夜はロックにこだわりすぎてんのよ。頭カタイったら。きょーびロックだけじゃ売れないって。」


「…京月冬夜のおっかけの果てに無理やりのようにこの事務所に就職したくせに…。」


「なっ…なんで知ってんのよ! 兄貴のヤツ、息子にそんなことまで話してんの?!」


 智史と紫さんの掛け合い…マンザイみたいでおもしろい。思わず吹き出してしまった。


「…それはともかく、紫さん忙しいんですよね? さっさと本題入りますよ。」


 そう切り替えして智史はポケットから例の名刺を取り出す。紫さんが覗き込む。


「この名刺って、本物ですかね?」


「なぁに、これ。」


「実は昨日…」


 智史が事情を説明し始めようとするが、オレが割って入る。智史は本当のことを話すつもりだ。なんか、それじゃマズい気がする。


「実は昨日、オレ、この人にスカウトされたんですよねー。でもこんな名刺一枚なんて誰でも作れるじゃないですかぁ。変なコトに巻き込まれんのやだし…紫さんなら本物かどうかわかるかなぁと思って、智史に頼んだんです。」


 呆然とオレを見る智史に心の中で任せとけって言って頷いてみせる。智史はそのまま黙る。


 紫さんは智史から名刺を受け取ってまじまじと見る。


「…この人…」


 右下の顔写真に紫さんが反応する。…見たことある人…?


 しばらく間を置いて、紫さんが目を上げる。そして、オレと智史に告げる。


「この人、ゼロプロの人に間違いないわ。しかも…よく見たことある。」


 その続きの台詞を聞いて、唯一のこの糸口が、ますます先の見えない、絡まった状態になってしまった…。


「鞘根虹香のサブマネージャー…ってかお付きの人、って言ったほうが近いのかな? とにかく、いつも鞘根虹香の傍にいる子よ。間違いないわ。」





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