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#5 クワダテ (4)

「…ひょ…っっっとして…、り、つ?」


 声にならないような声が、喉の奥からかすれて出てきた。うつむいていた彼女が腕を組んでふんぞり返っている…。顔が、やっとよぉぉぉく見えた。…化粧してて、かなり変わっているけど…律の、顔だ。


「…栄子ちゃんの言ってた“心当たりがある、危険な状況でも対応できる女の子”って…律のことだったの?」


 智史が呆然としたまま栄子ちゃんに尋ねると、栄子ちゃんはますます極上の笑みをふりまいて頷く。


「いい出来でしょ? このために昨日いろんなお店探しまくって律に似合うワンピとサンダル調達したんだからぁ。ほんとは髪もエクステにしたかったんだけど、時間ないし律嫌がるし、仕方ないから演劇部でカツラ借りてきたの。」


 …栄子ちゃん、めちゃくちゃ楽しそう…。


「なんでオレがこんなこと…。」


「律、言葉づかいちゃんとして。」


 思いっきり不機嫌な律にぴしゃりと栄子ちゃんが言い放つ。ぶつぶつ文句を言う律。様子はいつもと変わらないのに。


「律さぁ…女の子っぽくすればかなりモテるよ。女の子にじゃなくて、男に。」


 智史がしみじみと言う。…ほんとに…。確かに律はオレの双子の妹なんだし、由の姉なんだから、美人なのには間違いないんだ。でもここまでオレの好みにハマってるとは…ヤバイ。オレって、ナルシスト?


「じゃあたしと大石くんはここ出て様子を見てるね。」


「逸と律はしばらくここでお茶して、テキトーにデートして、駅で別れるってことで。」


 そういって智史と栄子ちゃんはオレたちを残してお店を出て行く。律は智史が座っていたソファに座る。足閉じてよ、と栄子ちゃんに釘を刺されながら。


 …なんだか、なぁ…。キンチョーなんて、何でしてんだろ、オレ。


 しばらくオレと律はよそよそしく黙ったまんま。お店のお姉さんがオーダーを聞きに来て、二人してアイスティーを頼んでしまう。


「…落ちつかねぇ…。」


 ぽそっと、律が呟く。うん、オレも。


「でも、なかなか似合うと思うけど。さすがはオレの妹だな。」


 キンチョーばっかしてても進まないので、平常心を心がけてそう言う。ぶすっとしたまま律は長い髪をかきあげる。カツラだけど。…それがまた絵になってしまっている。


「スカートすーすーするし、ヒールって歩けねぇよ…。よくみんなこんなんで平気に歩ってんなぁ…。」


「慣れじゃねぇ? …ってか、ちょっと言葉もそれらしくしてみてよ。」


 そう言うと、律は店員さんが持ってきてくれたアイスティーを一口飲んでめんどくさそーな顔をする。


「な、この後どこ行く?」


 話を振ってわくわく顔で見つめていると、律はしゃーねぇな、と言わんばかりに嘆息する。


「…わたし、はどこでも。逸がいつも女の子とデートしてるコースでいいわ。そのほうが、犯人も追いやすいでしょ?」


「おぉぉ〜! やれば出来るんじゃん!」


 思わず感嘆の声をあげてしまった。ってか、フツーに女の子じゃん! 智史の言うように、男にモテまくると思うぞ。ひょっとしたら栄子ちゃん以上? ま、ちょっと栄子ちゃんとはタイプが違うから何とも言えないけど。あー…でもこんな律なら寄ってくる男みんなオレが排除してしまいそう…可愛い娘を持った父親の如く。心配で仕方なくなる。ってか、妹にしておくのが惜しい…って、オレ何言ってんだか。


 変な感じで律に見惚れつつアイスティーを飲み干して、とりあえず作戦を遂行するために立ち上がる。


「で、どこ行く?」


 律が尋ねる。


「う〜ん…とりあえず、ゲーセン。」


「ゲーセン? …逸、いつもデートでそんなトコ行ってんのか?」


「たまにはね。今日は、律とプリクラ撮りたいから♪」


 …あからさまに嫌〜な顔をする律。そんな律は無視して、お会計済まして、いざ出発!


 駅周辺を二人で歩く。変な感じ。いつも律と歩く時は気にしないのに、女の子たちと歩く時みたいに、歩くペースがゆっくりになる。…無理もない。律は履き慣れないヒールのあるサンダルに悪戦苦闘しながらオレについて来る。


「…歩きにくい…。」


 律が不満を口にする。しゃーねぇなぁ…。


 オレは律の腕に手を回す。


「つかまれ。」


 え〜…とまた嫌〜な顔をする律。無理やりオレの腕をつかませて歩き始めると、思いのほか楽になったんだろう、律も観念して、オレの腕に体重をかけてくる。


 …ハタから見れば、間違いなく素敵なカップルなんだろうなぁ…。


 それを裏付けるかのようにすれ違う人がみんなオレたちを見ていく。双子だなんて、思わないだろう。


 しばらく歩いて、ゲーセンでプリクラ撮って、いいかげんもういいだろ、と律が言うので駅まで戻る。もうちょっとデェトしたかったなぁなーんて。


 駅でオレたちは別れて、律は一人で改札をくぐる。


「…気をつけて。」


 思わずオレはそう言っていた。志信ちゃんたちにも噂を撒いてもらっているし、これだけ派手に(?)デートしたんだ。必ず犯人は律を狙いに来る。


「大丈夫。」


 律はにっと笑ってそう言ってホームに入っていく。ホームには、先回りして智史と栄子ちゃんがスタンバっている。オレも、少し時間をおいて二人と合流する。


 律はホームで電車を待つ。少し離れたところで、オレたちは律を見守る。…ホームにあまり人はいない。ぽつりぽつり、学生がいるくらい。


「ここでは来ないかもな…。」


 智史が呟く。犯人は人混みを狙っているはず。栄子ちゃんが律にメールする。


「電車乗って、Y駅まで行ってみて、っと。」


 Y駅はこの辺ではけっこう繁華街だから、ここよりも混みあってるはずだ。


 律が携帯を取り出して見ている。メッセージは伝わった。


 それからすぐに電車が来る。乗り込む律を見失わないように、隣の車両に乗り込む。…電車内も、それほど混んではいない。…ここも来ないかな…。


 律は何事もなくY駅に到着。電車を降りる。オレたち三人も後に続く。改札へ向かうために陸橋になった階段を昇っていく。昇って、線路を越えて、また階段を降りていこうとしたその時だった。


 律の後ろに、女の子の人影が近づいていくのをオレは見逃さなかった。


 混みあった階段。歩きにくそうな律の背後。…女の子の、腕。


 …突き飛ばそうとしている?!


「律っっ!」


 オレが叫んで律に駆け寄るのと、その腕が律の背中を強く押すのと、律がオレの声に反応して振り返るのと、全てが同時だったと思う。


 ガタァン!!!


 大きな音がした。


 …律!!!


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