#4 マチブセ (3)
それから四時間目まで、どんな授業をどんな風に受けたかてんで覚えがない。頭の中は今朝のショックと、「何で?」ってクエスチョンマークの嵐。
「逸? 授業、終わったぞ。生徒会室行かねぇの?」
隣の席の岩井に肩叩かれて、やっと気がついた。あぁ、四時間目終わったんだ…。
「ん…あぁ、行く。」
のろのろと立ち上がって、ふらふらと教室を出る。
「…大丈夫か? 逸、何か変じゃない?」
「…逸の周辺、妙に静かだしな…。」
「いつもなら女の子たかってんのになぁ。」
教室から、クラスメイトの男どものそんな声が耳を通り抜ける。…あぁ、やっぱ、ハタから見てもそうなんだ…。余計ふらふらになってくる…。
…廊下を歩いていても、階段下りてても、女の子が寄ってこない。それどころか、ちょっと離れたとこでなんかひそひそ話してる気もする。
…何? オレ、なんかした?
どおぉんと重くて暗い空気を背負いながら、やっとの思いで生徒会室に着いた。いつも女の子たちに呼び止められていろいろもらったりしてここまで来るのに時間かかるけど、今日は誰にも声かけられずにここまで来てしまった…。かかった時間はいつもより長かった気がする…。
ガチャリ。…ぎぃぃぃ…。
「うわ、ビックリした! なんだよ逸っ! 亡霊がやってきたかと思ったじゃねぇかっ。」
いつもは大声あげてドアを開けてもらうのに、自分で、しかもめちゃくちゃ陰気に、オレが入ってきたので、律が飛びのいて驚く。
「逸くん、今日は手ぶら? …めずらしーね。」
「…なにそのどんよりした空気…。梅雨の中心にいるみたいだよ。」
栄子ちゃんと智史もオレの様子を見て眉をひそめる。オレはろくに返事もせずに、惰性で自分の席にたどり着く。そして、よろよろと椅子に腰掛ける。
オレ以外の三人はオレを訝しい目で見ている。…しばらく無言が続いた後、ようやく口を開いたのは、律だった。
「…なんか、あった、の?」
…こないだからその台詞ばっかりだなこの生徒会室。そんなことをぼんやり思いつつ、オレは大きな溜息を吐く。一呼吸ついてから、やっと言葉を口にする気力が出てきた。
「…律の言う通り、オレ…人気、落ちてきたのかも…。」
はぁ? と三人、顔を見合わせる。オレの言葉を理解しきれていないみたい。無理もない。オレだってまだ、わけわかんない。
「…実は、さ…」
暗い空気のまま、オレは今朝からのことをみんなに話す。気分がすぐれないので、すごく時間がかかった気がする。
オレの話を、三人は弁当も食べずに真剣に聞いてくれていた。そゆとこ、こいつらのすごくいいところだと思う。口に出して言わないけど、友情とか信頼とか、そーいう感じかなぁ、なんて。
「…うー、ん。」
話し終えると智史が腕組しながら唸った。
「…栄子ちゃんのストーカー問題といい解決したけどおれのストーカー事件といい、最近生徒会、災難続きだなぁ…。」
「なんにもないのオレだけか…。てかなんで急にそんなことに? 逸、女の子のタコ足配線、ショートしたんじゃねぇの?」
「…タコ足じゃすまないでしょ逸くんの場合…。ムカデでも足りなかったりして…。」
「…栄子ちゃん、言い過ぎ。」
散々な言われようなのに反撃する元気もない…。再び大きな溜息が自然と出てくる。
「なんも心当たりないからわけわかんないんじゃん…。」
言ってて涙出そうになる。こんなにヘコむこともなかなかないぞ…。ぐったり、机の上に突っ伏してしまう。
その時だった。
「逸先輩っ! 逸先輩いますかっっっ?!!」
バタンっっっ! ノックもなしに突然ドアが開いて、大騒ぎで志信ちゃんと比呂美ちゃんが生徒会室に入ってきた。ビックリして急に体を起こしたもんだから背中が引きつった。い、痛い。