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#4 マチブセ (1)

 三日ほど前の夕方から降り出した雨は、時折激しくなったり弱くなったりするものの、止むことなく、降り続いている。ちょっと前に梅雨明けしたはずなのに、また梅雨に逆戻りといった感じだ。


 智史のストーカーは、CHISAちゃんに脅迫文を送りつけて以来、何の動きもない。ずっと雨が続いているからか、後をつけられているという気配も、智史は感じないという。


「あぁん誰かドア開けてーっ。いっちゃんだよー。」


 いつものように女の子たちからのプレゼントで両手がふさがった状態で生徒会室の前で叫ぶ。今日の収穫は心なしかいつもより少ない。ほんとは片手で持とうと思えば持てるくらいの量だ。でもクセ(?)でつい叫んでしまった。


 ガチャ。ドアが開く。開けてくれたのは、智史だった。


「サンキュ。」


 智史に笑いかけていつもの自分の席に着く。…今日もオレが一番最後か。律と栄子ちゃんはもう既に弁当を食べ始めていた。


「あれ、なんか今日は荷物少なくない?」


 智史が座りながらオレに尋ねる。あれ、智史…今日はなんか機嫌が良さそう。いつも雨の日が続くと走れないストレスが溜まってきてあんまり機嫌よくないのに。


「あ、やっぱそー思う? 雨だからかなぁ…。」


「人気落ちてきたんじゃね?」


 唐揚げをかじりながら律がにやにや笑う。くーっっっ、にくたらしいっ!


「んなわけないだろっ、いったいオレを誰だと思ってるんだっ! 稜星ナンバーワンの…」


「スーパーアイドル新藤逸、ね。はいはい。」


 くぅぅぅぅっっっ!!! 台詞とられたっ! ますます腹が立つぅっ!


 ふるふるふる…と拳を震わせていると、智史がぽんぽん、とその拳を軽く叩く。


「まぁまぁ、とりあえずメシ食おーぜ。な。」


 にこにこにこ。…うーん、やっぱり智史、今日は妙に機嫌が良い。


「…智史、なんか、あった?」


 笑顔の智史に尋ねてみる。と、律も栄子ちゃんもオレと同じ表情。


「逸もそう思う? やっぱり。」


「さっきから聞いてるのに、大石くんたら全然教えてくれなくて…。」


 なんか、あった? って…ついこないだ逆の意味で同じコト聞いたってのに。先日の憂鬱な表情が嘘のようだ。それほど晴れ晴れした表情の智史。


 …って、思ってみてから気がついた。あ、ひょっとして…。


「うん、実はさ。みんな揃ってから話そうと思ったんだ。」


 智史はポケットから何かを取り出す。まるで既視感…表情はまったく違うけど、この前と同じ光景。


 取り出したのはピンクの封筒。予想通りのものが出てきた。


「今朝またこの手紙が郵便受けに入っててさ、またかよ、と思って警戒して開けてみたら…見て。」


 智史が中の便箋を広げる。オレと律、栄子ちゃんはその便箋を覗き込む。




『ごめんなさい。もう、しませんから。』




 たった一行、同じ女の子っぽい手書きで、そう書かれていた。


「…終わったってコト? えらい急にまた。」


 律が目を上げて首をかしげる。勝手に始めて急にやめます、なんて人騒がせな…。だったら最初っからそんなことすんなって。律の思ってることはきっとこう。オレも同じ意見だから。


「うーん、何でかわかんないけど、まぁ、一件落着かな、なんて。」


 智史がのほほん、と言う。コイツ…この前はすごい剣幕でオレんちにまで怒鳴り込み(?)に来たってのに…。まるで別人…。


 あ、そうか、それでだ。きっとそれで…。


「きっとアレだよ。智史、こないだオレんちに来たじゃん。ほら、CHISAちゃんとこに脅迫文が来たって…あの時のオレらのやりとりを、ストーカーちゃん聞いてたんじゃね? 智史すごい激怒してたから、恐れをなして…?」


「…あの時の気配は湯浅さんじゃなくてやっぱりストーカーだった、って? …かもな。それはそうかも。」


 オレの推理(?)に智史も納得。てーかもう済んだことはいいよ、みたいな穏やかさで智史は頷く。ほとんど既に他人事状態に近いぞ。


「いいなぁ大石くんは早いトコ解決しちゃって。あたしなんかもう三週間目に突入だよ。」


 はぁぁ、と大きな溜息をついたのは栄子ちゃん。そうか、栄子ちゃんのストーカー問題は、まだ解決してないんだ。


「だから今度オレも協力するから捕獲作戦決行しようって言ってるじゃん。彼氏に頼むのヤなら、こいつらに手伝わせりゃいいし。」


 律が栄子ちゃんに言う。え、そんなおもしろそうな話浮上してんの? わーいやるやるっ!


「別に頼むのが嫌ってわけじゃないんだけど…。うん…そだね、話してみる。」


 栄子ちゃんが控えめに頷く。


 智史のストーカー問題が終結したので、次は栄子ちゃんのストーカー問題を解決させなきゃねー…と、この日の昼休みはそうみんなで話していた。…その時は、まさかそんなことが起ころうとは、まっっっったく考えてもいなかったのだ。





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