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#3.5 モノローグ

 深夜零時過ぎ、あたしは誰もいない家に帰ってくる。当たり前のことだけど、真っ暗で、静寂が、しぃ…んと耳から耳を突き抜ける。耳を澄ましていると、外から雨音が、静かながらに聞こえてきた。


 …そうか。雨だから、月明かりがないから、ますます暗く静かに思えるんだわ。


 照明のスイッチを入れ、部屋を明るくすると、散らかったままの部屋が視界に入るけど、無視してソファに雨に濡れてしまったバッグを構わず投げ捨てる。


 ふぅ。短く嘆息してあたしは冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、ペットボトルから直接飲む。ごくごくと一気に飲みほすと、乾いていた喉が潤う。…喉は潤うけど、なんとなく、あたしの心は潤わない。強風に吹きつけられた皮膚のように、がさがさと、乾いたままだ。雨のせいで湿度は高いはずなのに…あたしの体だけ、砂漠のようだ。


 空のペットボトルをゴミ箱に捨て、さっきバッグを投げ捨てたソファにどかっと身をゆだねる。


 …疲れた…。


 しばらく目を閉じて倒れこんでいたけど、つけっぱなしだったパソコンがメールを受け取ったようだ。電子音に反応してゆっくりと体を起こす。そういえばしばらくパソコンのメールチェックしてなかった。…面倒くさいけど、処理しなきゃ。


 パソコンの前のスツールに座って、受信トレイを開く。未読メールは二百件近い。そのほとんどが広告メールと迷惑メール。その中から、稀にある必要なメールを探すのは、けっこう労力がいるので、ついつい後回しにしてしまう。


 …未読メールの中から、あたしはそのメールを見つけた。


 件名は、“先日の件”。…それを見た途端、乾いた砂漠の心に、オアシスか、あるいは蜃気楼か、幸か不幸か紙一重の複雑な感情が発生する。安堵なのか胸騒ぎなのか、何故か少し緊張しながら、あたしはそのメールを開く。




 『最近携帯繋がらないけど、忙しいのかな?

  …まぁ今回も添付あるからPCのほうが都合よかったんだけど。

  この前の写真、あまりはっきりしてなかったね。わかりにくかった?

  今度はちゃんと撮れてるから写真を送ります。

  間違いない?

  確認したら、メールか電話をください。

  香居の誕生日に間に合うように、手に入れるからね。』




 …一方的な短い本文に、あたしは苦笑いするしかなかった。…なんていうか…さすがあの男の血を今この世にいる誰よりも濃く受け継いでいるだけある。その一方的さもそうだけど…、あたしが“お願い”した、どう考えても無理難題な“探し物”を…いったいどんな手を使って見つけ出したのか…。


 …あの男の血筋…、か。


 あたしはその言葉を頭の中で繰り返して後悔する。苦笑いが、笑いが消えて苦いだけになる。あたしにも、その血は間違いなく流れているんだった。


 自虐的な気持ちのまま、三個ついている添付ファイルの一個目を開く。


 …あれ?


 あたしは自分が見間違えたかもしくは勘違いかと思って、次の添付ファイルを開ける。そしてその次も。


 …違う。


 何度も何度も三つの添付ファイルを開けては見、開けては見てみたが、どれも違う。…あたしが頼んだ“探し物”は、これじゃない!


 あの男の血筋だもの、狙った獲物を間違うはずなんかない…わけがわからなくなってあたしはそのメールを閉じ、前に来たほうのメールを見てみる。確かに前のメールには、不鮮明ではあったけれど、あたしの“探し物”が写ったデジカメ映像が添付されていたはず…。


 前のメールを開けて、添付ファイルを確認する。


 …目を疑った。…間違えたのは、あたしのほう?


 不鮮明なデジカメ映像には、両方、写っていたのだ。あたしの“探し物”と、…その横に、新たに来た三個の添付ファイルに写っているのと、両方…。よく見ると、どちらかと言うとあたしの“探し物”じゃないほうにピントが合っている。


 あたしの、ミスだ。あの時は“探し物”の映像を目の前にして、舞い上がっていたんだ…。あたしは片方しか見てなくて、時間もなかったし、すぐに『そう! これ!』と返事を送ってしまった…。


 自分の注意力のなさに落ち込んでいる場合じゃない。早く伝えなきゃ。違う、こっちじゃないって。


 慌てて携帯をバッグの中から取り出して登録メモリを捜す。でもふと手を止める。今何時…? くるりと首をひねって真後ろの壁にかかっている時計を見る。…午前一時を回ったところだ。…さすがに、電話は非常識よね。


 少し落ち着きを取り戻して、仕方なくあたしは返信をクリックする。


 …さっきより雨足が強くなってきている。メールを打ちながら、雨の音をBGMにしていると、ほんとに孤独を感じてくる。メールの向こうに相手はいるけど、今現在、あたしは独りだ。


 もしも本当に、この“探し物”が手に入ったら。


 …こんな雨の夜も、孤独を感じずに済むのかもしれない…。







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