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#3 ヒトカゲ (3)


「ただいまぁっ! …由、シャワー使えるー?」


 今日も一日なんやかんや授業を切り抜け、帰宅。汗だくになった制服のシャツのボタンを外しながら、ドタドタと廊下を歩く。


 …居間からピアノの音…なんだっけ、この曲。とにかく弾いているのは由だ。


「…なんだったっけ、この曲。」


「あ、いっちゃんおかえりなさい。」


「おかえりなさい、逸さん。」


 居間に入ると由の手が止まる。くるりとオレのほうに顔を向けてそう言うと、ほぼ同時にソファに座っていた真咲も同じような反応をする。


「ドビュッシーの“月の光”。真咲くんのリクエストなの。」


 由はそう言って、続きを弾き始める。


 オレは真咲の横にどかっと腰を下ろす。真咲はちらりとオレを見て微笑んで、また由のピアノを弾く姿に視線を戻す。


「…由ちゃん、上手ですね、ピアノ。」


 真咲がつぶやくように言う。


「3歳から習ってるからな。」


「あんなに弾けたらきっと気持ちいいですよね…。」


「真咲はピアノとか…音楽やるの?」


 真咲、お金持ちの坊ちゃんだから、ヴァイオリンとかやってそうだよなぁ…。なんて思って、聞いてみる。すると真咲はふるふる、と、首を振る。


「…僕は全然…。でも、姉はピアノ、上手でした。」


「姉? 真咲、お姉さんいるの?」


 初耳な内容にちょっと驚いた。真咲にお姉さん…? 想像してみる。きっと、めちゃめちゃ可愛いぞ…。うわぁ紹介してくんないかなぁ…。


 …でもちょっと待て。上手でした、って、過去形じゃん。…あ、ひょっとして、悪いこと聞いちゃったかな…。


 瞬間的な妄想(?)のあと、我に返って真咲を見る。少し寂しそうな表情…やっぱり、あんまり触れないほうがいい感じだな…。


「姉は…三年前に失踪して…まだ、行方がわからなくて…。」


 ほらやっぱり。


「…ごめん、悪いこと聞いたな。」


 謝ると、いえ、と真咲がはにかんで笑う。由のピアノの音が、静かに消える。


 ぱちぱちぱちぱち、真咲が拍手をすると、由が照れ笑い。照れ隠しのように、オレに話し掛ける。


「いっちゃん、シャワー浴びるんだっけ?」


「あぁそうだった。シャワー浴びてから、また出掛ける。聖マリアの女の子たちと待ち合わせしてるんだ。」


 そうそう、今日まっすぐ帰ってきたのはそのため。聖マリアの制服可愛いから、みんな可愛く見えちゃうんだよね。


「あ、じゃあ駅行くよね? よかったぁ。真咲くん、一緒に行けばいいよ。」


「…真咲どっか行くの?」


 由の台詞を受けて真咲に問う。真咲が頷いて、答える。


「湯浅さん…あ、僕の後見人なんですけど、こっちに来てるらしくって…ロイヤルガーデンホテルまで…」


「ロイヤルガーデン…ならオレの待ち合わせ場所と同じ方向だよ。おっしゃ、連れてってやるよ。その前にシャワーだけ…。ちょっと待ってな。」


 オレは鞄を再び持って、自分の部屋に戻る。着替え持って、シャワーシャワー、っと。鼻歌まじりで階段を下りる。


 洗面所入ってさぁシャワー浴びてすっきりするぞぉ! と制服のシャツを脱ぎ捨てる。これだけでもけっこう涼しい。シャワー浴びたらもっと極楽だっ。


「ただいまぁ! あっちーっ…シャワーシャワー!」


「あぁっ、りっちゃん待って! シャワーは…」


 なんか騒がしいなぁ…と思いつつズボン脱いでトランクスに手をかけた瞬間。


 バタンっっっ! ドアの開く音。


「うわわわぁぁぁっ! 入ってるなら入ってるって言えよっっ!!!」


 バタンっっっ!!!


 なんなんだよっ! 人が気持ちよく服脱いでんのに邪魔しやがって! 仕返し(?)してやるっっ!


「きゃあぁぁぁぁっっっ律のえっちぃぃぃっ!!! 覗いたわねっ!」


「覗いてねぇし見たくもねぇよっ、バカ逸!」


 ばすんっっ、洗面所のドアを蹴る音と共に、律が怒鳴った。





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