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#2 アコガレ (5)


 部活を終え、制服に着替え帰路に着く。


 途中のコンビニで智史にハーゲンダッツのカップをおごってもらい(とゆーか半ば強制的におごらせて)、歩きながら食べている。やっぱりハーゲンダッツはクキクリ(クッキー&クリームの略)だよなー…。美味い。


「やっぱり智史さんて、走ると顔つき変わりますよねぇ。すごくかっこよかったです。」


 真咲がアイスを食べる手を止めて、溜息つくように言う。智史はスプーンを口にくわえたまま照れ笑い。


「そだな、走ってるときはかっこいいよな、智史は。ま、オレはいつでも何してるときでもかっこいいけど。」


「…逸さんもかっこよかったですよ。」


「真咲、逸に気なんか遣わなくてもいいよ。さらりと流しとけばいいんだから。」


「智史ヒドイ…気ぃ遣ってよぅ。」


 そんなことを言いながら、だらだら夕日の中を歩いている。夕方とはいえまだまだ暑い。じりじり、コンクリートの地面から熱が伝わってくる。陽が傾いているから直射日光じゃないだけ昼間よりはましだけど。蝉の声も、止む気配はない。


 しばらく歩いていると、智史が急に立ち止まって後ろを振り返った。


「? どした智史。」


「…いや、今、誰かにつけられてる気がして…。」


 智史が気にする方向を、オレも見てみる。けど、誰もいない。


「気のせいだろ? あーもう、昨日からこんなんばっかだよ。智史も栄子ちゃんからストーカーの話聞いたのか?」


「聞いたは聞いたけど。」


「だから過剰反応になってんだよ。オレも昨日気になって、後ろ振り返ったら真咲がいた。な、真咲。」


「…気のせいかなぁ。」


 智史が首をかしげる。気のせい気のせい、そうあしらって歩き出す。


 アイスも食べ終わって、近くの公園に寄り道してゴミ箱にカップを捨ててまた歩き出した頃、真咲が遠慮がちに智史に問う。


「あの…智史さんは、彼女とか、いらっしゃるんですか?」


 あまりにも唐突な真咲の問いに、智史はまるでコントのように石に躓く。


「へっっ??? か、かのじょぉ?」


 智史声裏返ってるぞ、変な声っ。思わず吹き出してしまった。そして智史の代わりにオレが答える。


「そんなもんいないいないいないっ。智史そーいうことにはてんで疎いからっ!」


「…でも、あれだけ走ってるとこ素敵なんだし、なんといっても生徒会役員だし…モテますよね? 彼女の一人や二人や三人…いてもおかしくないじゃないですか。」


 真咲の真顔に、やっと平静を取り戻した智史が苦笑い。


「彼女の一人や二人や三人て…逸じゃあるまいし。」


「オレは一人や二人や三人じゃすまないけどね。なーんてっ。」


「逸さんはたくさんいらっしゃるんですか? 彼女。」


「…なんか、人聞き悪いなぁ。それじゃまるでオレが遊び人みたいじゃん!」


「あれ、そーじゃないのか? てっきり逸は遊び人なんだと思ってた。」


 智史が仕返しのようにオレにそう言う。智史のイヂワルっ。オレは智史をにらみつけて返す。


「…違いますぅ。特定の彼女はいないよん。みぃんなお友達、お・と・も・だ・ちっ。…そーいう真咲は? 彼女とか、好きな女の子とか、いないの?」


「はぁ…、そういう人は、いないです。」


「好きな芸能人とかは? 理想のタイプとか。」


 たたみかけて聞いてみる。と、真咲はう〜ん、としばらく考えて、思いついたようにつぶやく。


「…鞘根虹香、とか…かなぁ。」


「鞘根虹香かぁ。…真咲、なかなか趣味いいじゃん。オレもけっこう好きかも。新曲もいいよね〜。智史は…CHISAちゃんのほうが好き?」


 また智史をからかってみようとそう振ってみる。が、無視して話変えやがった。


「…そういえば真咲、ちょっと鞘根虹香に似てるよね。目とか。」


 仕方ないのでその話に乗ってやる。無視されたのは気に障るけど、オレって寛大だから。


「言われてみるとそーかも。パッチリ二重のくりくり大きい目だよな。」


「えぇえ、そうですか???」


 …そんなくだらない会話をしながら、ようやく智史の家の近くまでたどり着く。


 あと十数メートルで智史んち、ってところだった。ずっと普通に会話をしていた智史が、また立ち止まって振り返る。


「…今フラッシュ光らなかった?」


「へ? 気付かなかったけど。」


 きょとん、として智史を見る。と、智史は周囲を気にしながら小声で返す。


「…過剰反応なんかじゃない気がする…誰かにつけられてないか?」


 う〜ん…そう言われても…。とりあえず、辺りを見回すが、誰もいない。気配も、感じられない。


「逸のストーカーとかじゃなくってさ。真咲って、身の危険があるかもしれないから逸んちに来てるんだよな?」


 智史が少し険しい顔をして言う。そうだった。真咲は莫大な遺産相続のトラブルに巻き込まれないためにうちに来たんだった。


「でも僕がこっちに来たのまだ昨日のことだし…こっちにいること弁護士の宮武先生と僕の後見人の湯浅さんしか知らないし…。」


「まぁ、警戒し過ぎるに越したことはないんじゃない? 逸、気をつけて帰れよ。」


 気をつけて…っていっても智史んちからオレんちまで、歩いて五分なんだけど。しかもここは住宅地。道細いから車通りも少ないし。


 でもまぁ真咲は狙われててもおかしくないので、智史の言う通り、警戒し過ぎるに越したことはない、か。


「わかった。」


 そうして智史の家の前で智史と別れ、真咲と二人、新藤家に帰るわけだけど…。


「…真咲?」


 さっき智史が立ち止まった場所を真咲はじっと見つめていた。オレが声を掛けると、我に返ったようにオレの顔を振り仰ぐ。


「どうか、した?」


「…いえ、なんでもないです。」





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