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 その日もあたしは、夕闇の中に姿を現したばかりのまんまるい月を横目に、ぼんやりと電車に乗っていた。


 行き先は特にない。ただ乗り降りする人たちを眺めているだけ。


 いつもとは全然違う、つけまつげバリバリの気合いの入ったメイクして、金髪ショートのウィッグつけて、さらにその髪の毛に蛍光ピンクのメッシュ入れて、水色に黄色とピンクのハイビスカス模様のキャミソールに超ミニのデニムスカート、ピンクのスパンコールがついたピンヒールのサンダル、麦藁素材の小さなバッグっていう、普段のあたしからは想像できないスタイル。こういう格好で電車の座席に座っていると、あたしはあたしじゃなく、そこら中にいるただのちょっと派手めな私服の女子高生の一人…その他大勢の中の一人に過ぎない。


 こうしていれば、あたしだって絶対バレない。誰一人、気に止める人もいない。…何もかも投げ出したい時、忘れたい時、誰にも邪魔されず、ボーっとしたい時には最適。癒される、って感じ?


 …ただこの日はちょっと乗る電車を選ぶのを誤ったみたい。あたしの乗ってるこの車両の吊り広告、張り広告…全部、とある携帯電話会社の広告で、統一されている。


「あ、鞘根虹香(さやねにじか)。」


 誰か男の人が言う。思わずあたしは声のした方向を見てしまう。…視線は広告の中で携帯持って笑っているアイドルに向けられている。


 鞘根虹香。


 にこやかに笑うその笑顔…癒し系ってもてはやされている、屈託のないその笑顔を見ていると、いらいらしてくる。あたしには、癒されるどころか、ストレスの素だ。


 なるべく広告には目を向けず、窓の外を眺めていよう。そう思って、あたしは座っている席の正面の窓越しに目をやる。


 …月が、ビルの谷間に見え隠れする。ネオンの光とは全く種類の違う、優しい光。でもあたしにとって月の光は、優しくなんかない。それどころか、いつも冷淡で、意地悪だ。 だって、月は、月だけは、あたしがどこにいても、どんな格好をしてても、いつも見ている。あたしのすべてを、知っている。決して、逃げられやしない。


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