第九話〜困ってる割には贅沢っすね〜
今回も楽しみながら書くことが出来ました^ ^
楽しんで頂ければ幸いです♬
僕は一体、どれ位の時間眠っていたのだろう。体感的には数時間と言ったところか、とても心地が良い睡眠だった。
目が覚めると、僕はベッドの上にいた。見慣れた天井、懐かしい自分の部屋の匂い。寝返りを打つと、見覚えのあるポスターが壁に飾ってあった。
「そうか……全部夢だったのか……」
僕は起き上がり、窓の外を見る。もう夕暮れなのか、空が赤く染まっている。それと、庭でトレーニングをしている親子が見えた。
どうやら格闘技のトレーニングをしているらしい。父親のパンチを子供が受ける。今度は子供が父親を蹴り、父親がそれを受ける。初めはゆっくり動いていたが、徐々に早くなり、遠目では追いきれなくなった。
僕はそれを見て懐かしく思う。
僕も高校を卒業して家を出る迄は、同じ様に父に扱かれた。『文武両道』を家訓にしていた父の教育は、とても厳しく、辛いものだった。
夢で見た、あの草原から脱出した時の呼吸法も、基礎中の基礎として叩き込まれた。それを僕は忘れていた。今の風景を見て、僕は思い出した。父から叩き込まれた事を全て、思い出した。久しぶりに父と組手がしたくなった。
「今なら、勝てるかな?」
窓の外を見ながら僕は呟く。鈍った体では勝てるはずも無いのに。
『組手がしたいなら相手をするが?』
不意に父の声が頭に響く。窓の外を見ると、子供がいなくなり、父親だけが立っていた。こちらを見て笑っている。
「是非」
僕はそう言って部屋から出た。
玄関の扉を開けると、眩しい光に目が眩む。僕は咄嗟に目を閉た。
「……さま……し……さま‼︎」
「し……す‼︎……だ……っすか‼︎」
遠くから声が聞こえる。どこかで聞いた事のある声。何処だったかよく思い出せない。
「瞬様‼︎ 起きて下さい‼︎」
「しっかりするっす‼︎」
僕はゆっくりと目を開ける。そこには女性が二人、僕の顔を覗き込んでいた。
「良かった……目を覚まされましたか」
「大丈夫っすか⁉︎」
そうだ。思い出した。この二人は夢で見た。僕の体がミイラの様に枯れ、意識が遠のいて……
僕は飛び起きた。急いで体を確認する。ミイラになっていた部分は元通りに戻り、痛みや疲労感も無くなっていた。
「僕は……生きてる?」
「本当にもう死んだかと思ったっす‼︎」
「もう駄目かと思いました……」
僕は辺りを見渡した。見知らぬ部屋のベッドに寝ていた。ライラとミルモは目を潤ませて僕を見ている。
「ここは? 僕は何で生きているんだ?」
「ここは私の国で、私の城にある客室です」
「凄いっすよ‼︎ この国‼︎ この部屋‼︎ あちこち金ピカで、困ってる割に贅沢っすね‼︎」
確かに。あちこちに金の装飾があり、高価そうな物がゴロゴロとある。だがまぁ、金銭に困っている訳では無いのだが、ミルモの言いたい事は分かる気がする。
「僕の体はどうなっているんだ?」
「これのおかげです」
ライラは小瓶を取り出した。中には液体の様な物が入っている。
「それは?」
「これは『命の水』と言って、生きている者の怪我や病気が、立ち所に治る水です」
「そんな便利な物があるんだな」
「でも欠点があります。この水は文字通り、この木の命で出来ています。飲み過ぎてしまうと、飲んだ者の命が溢れて若返ったり、最悪産まれる前まで戻ってしまいます」
「そうか。あまり多用は出来そうに無いな」
「そうです。しかも数年に数滴しか取れません。この瓶に入っている分で、ざっと150年分って所でしょうか」
「そんな貴重な物を僕に飲ませてくれたのか……ありがとう」
僕は頭を下げて礼を言った。
「お礼を言うのは私の方です‼︎ 自分の命を顧みず、私を助けて下さいました。本当にありがとうございました」
僕は恥ずかしくなり、下を向いた。
「でもその水を飲んでも一向に目が覚めなかったっす。なのでライラが焦って多少飲ませ過ぎたかもしれないっすね」
「なに?」
僕は立ち上がった。視点が低い。これはまさかと思い、鏡の前に立ち、自分の姿を見る。
「これって……」
「申し訳ございません‼︎ 一滴で効果が出なかったので……
その……」
「まあ、可愛くて良いんじゃないっすか? 身長も丁度私と同じっす」
『命の水』とやらを飲み過ぎたせいで、僕はどうやら10歳ほど若返ったらしい。鏡に写った姿を見ると、13歳位か。
「本当に申し訳ございません‼︎」
「良いよ。命が助かった代償としては軽い位だ。それよりも、服を貸してくれないか?」
両手を上げ、ブカブカになった服を見せながら言った。
「はい‼︎ 直ぐに見繕って来ます‼︎」
ライラは足早に部屋から出て行った。
「ミルモ、聞きたい事がある」
「何っすか?」
「僕をどうやって運んだ?」
「あぁ、それなら私が担いだっす‼︎ ほぼ骨と皮だけだったっすからね。軽かったっす」
「そうか。お前にも迷惑をかけたな。ありがとう」
ミルモは照れながら頭をかいた。
僕はもう一度鏡を見る。寝ている間に見た風景を思い出す。そこに見えた子供の姿にそっくりだ。……そうか……あれは僕だったのか。
「お待たせしました‼︎」
息を切らせて、ライラが勢いよく部屋に入ってくる。僕は礼を言って服を着替えた。
「そう言えば、さっき『命の水』の説明をしてくれた時、この木と言ったな?」
「ええ、説明がまだでしたよね。私の国は『ユグドラシル』と言う木の上にあります。と、言うかこの木が国そのものです。まだ若い木ですけど」
「草原で、ライラが指差した方向に山があったの覚えてるっすか?」
「あぁ。確かそこを目印に走った」
「あの山に見えたものが、この木っす」
「……」
相当でかい木だな。その木の中に国があり、その国の中にこの部屋があるのか。スケールが大き過ぎて全体が掴めない。
「さ、そろそろお腹が空きませんか? 食事を済ませた後、色々とご説明致します」
「そうだな」
「ご馳走してくれるっすか⁉︎」
「えぇ、もちろんです。では参りましょう」
僕達はライラの後について部屋から出た。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます^ - ^
次回から徐々にバトルパートに持って行こうかと思います♬
次回も読んで頂ければ幸いです。