第七話 〜死んだかと思ったっす〜
第七話です^ ^
読んで頂けたら幸いです^ ^
二人の足元に転がっているランタンを拾う。移動した時に火は消えたようだ。
少し揺すると、中から「チャポチャポ」と音が聞こえた。油はまだ十分あるようだ。
「あの……」
ライラが不安そうに尋ねる。
「瞬様の考えと言うのを教えて頂けますでしょうか?」
「私も知りたいっす‼︎」
今ここで説明するよりも、一刻も早く抜け出す事が先決。そう思った僕は、二人の質問に答えず、逆に質問をした。
「二人は走るのは得意か?」
僕の言葉を聞いて、二人は目を丸くした。二人がお互いの顔を見て同時に頷いた。
「瞬様‼︎ それは無謀です‼︎」
「そうっすよ‼︎ この草原を走って抜けるのは無理っすよ‼︎」
二人が僕に食って掛かる。でも今は時間が惜しい。僕は強引に話を進めた。
「大丈夫だ。僕の予想通りなら、上手く行ったなら、この草原は無くなる」
二人がまたお互いの顔を見た。信じられないと言う顔で。
「僕を信じろ。上手く行ったらそこからダッシュ。上手く行かなければこの場に留まる。いいな?」
「本当に何するつもりっすか……」
「わかりました。瞬様を信じます」
決まりだ。後は上手く行くよう祈るだけ。
僕はランタンに火を点ける。火がゆらゆらと揺れている。そのままランタンを草原に向かって投げた。
遠くでランタンのガラスが割れる音がした。さぁ……上手く行ってくれ。
「二人共、走る準備をしておけ」
「ええい‼︎ もうヤケクソっす‼︎」
「私も準備が出来ています‼︎」
「もうすぐ事が動く。全力で走れ。絶対に止まるな‼︎ わかったな‼︎」
僕の予想が正しければ、この場所は草原では無い。
三人がそれぞれ走る体制をとる。どれ位の時間が流れただろう。一分? 二分? 体感では数十分程の感覚だ。
静かだった。音を立てるのは、時折聞こえる風の音だけ。その静寂を切り裂くように、その時は訪れた。今は風が吹いていない、凪の状態。
風も無いのに、一斉に草がざわめきだち、ゆらゆらと苦しそうに揺れる。
「な、何っすか⁉︎ これ……」
「わかりません……」
「無駄話をするな。気を引きしめろ」
直後
『ギィィィィィヤァァアァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎‼︎』
鼓膜を突き破るような叫び声がこだました。
ライラとミルモは驚き、慌てて耳を塞いだ。
「何をやっている‼︎ 集中しろ‼︎」
「あっ‼︎ はい‼︎」
「了解っす‼︎」
ゆらゆら揺れていた草達が、その動きにより一層激しさを増した。鋭い、高音を立てて右に左に揺れる草原。
一本一本が地面に倒れこむ程揺れた時、僕達の目の前から草原は消えた。一斉に、地面に吸い込まれるように。
「今だ‼︎ 走れ‼︎」
僕の号令と共に三人は走り出す。
ミルモとライラ、二人が前を走り、僕は二人の後を追いかける。
全力で走るのはどれ位振りだろう。覚えている限りでは二十歳の時、親父にされた「最終試験」とやらで走った以来か。ざっと五年振りだ。
走り始めて約五分が経過した。ミルモが圧倒的に早く、かなり前を走っている。変わってライラはバテてきたのか、スピードが落ちてきた。励ます余力は今の僕には無い。せめてライラに合わせて走る事ぐらいしか出来ない。
息が苦しくなる。
足が重い。
全身が何かに縛られるようだ。
気を抜くと息を吸う事を忘れてしまう。
『息を吸う。息を吐く。手足を動かす。このバランスとタイミングが何より大切だ』
僕ももう限界が近いのか、二十歳の時に親父から言われた事が頭を過る。
早く終わってくれ……
先に走っていたミルモが止まり、地面を指差し叫んでいる。
そうか。そこが終わりか……最後の一踏ん張りだ‼︎ 僕は横で走っていたライラを見る。
そこにはライラの姿が無かった。
僕は慌てて止まり、振り返る。
ライラは膝をつき、倒れ込んだ。
ライラの元へ全力で走り、背中に乗せる。
限界の体に一人を担いで走るのは流石にきつい。
もう後百メートル程の所で地面が揺れた。
うっすらと緑色の葉先が見える。
クソ……ここまでか……
僕は覚悟を決めてここに来たのだ。死んでも仕方が無いと諦められる。でも、それは「僕が死ぬ時」だ。僕の背中には女性がいる。ここまで必死で走った女性が僕を頼って来た女性が息も絶え絶えになっているそんな女性を死なせるわけにはいかない
僕は自分を奮い立たせた。
後数十メートル。ここまで来たらミルモの声がはっきりと聞こえる。
「ここから地面の色が違うっす‼︎ もうちょっとっす‼︎」
やはりそこがゴールか‼︎ スピードを上げようにもこれ以上力が入らない。
一面緑が濃くなり、下から剣を指したような勢いで草が伸びた。
僕の視界がスローになり、止まる。草は僕の膝程の長さ。
頭に親父の声が聞こえる。
『大きく吸い、大きく吐き、止める。その瞬間に全ての力を込めろ』
僕は息を大きく吸い、大きく吐き、止めた。
止めた瞬間に右足へ力を込め、地を蹴る。その後の事はよく覚えていない。
気がつくと横にはミルモがいた。倒れている僕にすがり、泣いていた。
「もう駄目かと思ったっす……‼︎ 二人共死んだかと思ったっす……‼︎」
「あぁ、すまない。どうやら生きているようだ。ライラは⁉︎」
僕は体を起こそうとしたが、力が入らなかった。
「ライラなら無事っす……そこで寝てるっすよ」
ミルモが指差す先にはライラが寝ていた。肩がゆっくり動いているのを見て僕は安心した。
「本当に駄目かと思ったっす。最後のどうやったっすか?」
「最後の?」
僕は息も絶え絶えに問い返した。
「草が物凄い勢いで伸びて来たっす。その時には瞬はまだかなり遠くにいたっすけど、次の瞬間にはここに倒れ込んで転がったっす」
「さぁ……僕も覚えていない……」
「そうっすか……何より、無事で良かったっす」
ミルモは涙いっぱいの目で僕を見て笑った。
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