第二話 〜暖かかったっす〜
前話に引き続き拙い文章ですが、
読んでいただけると嬉しいです‼︎
流れ星には、流れているうちにお願いをすると叶う。そのような言い伝えがある。各地域で三度願い事を言う(ハードルはかなり高くなる)や、心の中で唱える(口に出さずに心の中で願う)等の差はあるが、誰もが一度は願ってみたいと思った事だろう。
流れ星はそもそも、なかなか観れる現象では無い。一晩中夜空を眺めていれば観れる可能性はある。仮に観れたとして、流れている時間はコンマ数秒有るか無いかで、願い事をする時間など無い。
僕は頻繁にこの山上にある丘へ天体観測の為足を運ぶのだが、それでも流れ星を観るのは久しぶりだ。具体的にどの位かと言うと、丁度二ヶ月ぶりだろうか。
日中は汗ばむ程の陽気だが、夜になると急に冷え込む。そんな気温変化が激しい季節だった。この山上の丘では標高もあり、更に冷える。
確か、リスを埋葬したのもその日だった。その日も大きくて明るい流れ星を観る事が出来たのでよく覚えている。
息が白くなる程の寒空の下。僕がこの丘まで来ると、力なく、目も開かない程弱っているリスを発見した。リスを傷付けないように手の上に乗せた。そのリスはとても震えていた。
寒いのかと思い、僕が手の中に包み込み暖めると、震えが止まり、少し目を開けて僕を見た。その後すぐにまた目を閉じ、そのまま息を引き取った。僕はこの丘で一番星空が見える場所に埋葬した。
その直後、星空を半分に分けるような巨大な流れ星を観た。本体の大きさはまるで月の様な大きさで、尾の部分は虹色に光り、虹の絨毯を敷く。まるで彗星の様な流れ星。これだけ大きな流れ星なら、ニュースになるかと思ったが、翌日の話題には上がらなかった。
目の前に居る、正確には居たが見えなかった自称リスの、元リスの女の子。
身長は僕の胸位、僕の身長が175センチなのでだいたい150センチ位だろうか。元リスなので歯が出ているかと思ったが、そんな事は無く、綺麗な歯並びをしている。髪はショートで、星明かりで見る限りでは栗色、
所々白い髪のラインが入っている。「元リスです‼︎」と言われてリスの特徴を残しているのは、100歩譲って髪位だった。尻尾でもあれば別だが、正面を向いているので確認が出来ない。
「尻尾は無いっす」
「……」
そうだ、こいつは考えが読めるのだった。
「考えている事を読むのは止めてくれないか?」
考えを読まれるのはいい気がしない。そう思い僕は言った。
「全部読める訳じゃないっすよ? 強く思った事だけ、自然と頭に流れて来るっす。だから止めたくても止められないっす」
呼吸と同じっすね、と笑顔で言った。僕はそんなに強く尻尾の事を考えていたのか?
「呼吸と同じと言う事は、止めようと思えば止められるのではないか?
「止めようと意識すれば出来るんっすけど、少しでも気を抜けば元通りっす。呼吸ってそんなもんっすよね?」
「そんなもんか……」
「そんなもんっす」
「……」
「……」
そこから何故かしばらくの沈黙。何だ? 何だか気まずくなってきた。何か話したい事があるのではなかったのか?
「あるのではなかったのか」と言う表現は何だかんだ矛盾を抱えていて面白いが。
「いや……全然面白く無いっす……」
「また考えを読んだのか」
「笑えないっす……つまんないっす……」
そこまで否定しなくてもいいだろう。
「ふふふ」
彼女は急にクスクスと笑い出した。何だ? 僕のわからない事で笑われるといい気がしない。
「いやぁ、失礼したっす。ちょっと……ふふふ。本当に優しいなぁって思って、つい」
「僕が優しい?」
「えぇ‼︎ とっても優しいっす‼︎ さっきの面白く無いネタも、話を切り出しにくい私の為に言ってくれた事っすよね? なかなか話を切り出さない私の為に」
「いや、決してそう言うわけでは無いのだが」
「そうっすか? バレバレっすよ?」
僕は急に恥ずかしくなり、我慢できずに話を切り出した。
「そろそろ話を進めてくれないか⁉︎ 先も言ったが、僕は早く帰りたいんだ‼︎」
「そうっすね。そろそろ話を進めるっす」
そう言うと、彼女はその場で膝を折り畳み、頭を地面につけた。両手を頭の横に添え、手のひらを地面につけてこう言った。
「私を……私の死を看取って頂き……埋葬して頂き……どうもありがとうございました‼︎」
「……どういたしまして」
昔から人と関わるのは避けてきた。当然、友達と呼べるものは存在しない。少しの親切心でとった行動が、人から感謝される事は多々あった。その時はいつも「ありがとう」と言われたら、「どういたしまして」と返事をするようにしていた。決まり切ったやりとりをする方が色々考えなくていい。
彼女がとった姿勢、謂わゆる土下座は、謝罪と感謝を表明する最上級の姿勢。そこまで感謝される覚えは無い。
「僕は僕の思った事をしただけだ。そこまで恩を感じる必要は無い」
僕がそう言うと、彼女は地面につけていた頭を上げて僕の目を見つめてこう言った。
「いや、別に恩を感じてる訳じゃないっす」
「……」
恩を感じているわけでは無いらしい。僕は自分の言葉が恥ずかしくなった。
「ただ、嬉しかったっす。私は親から離れ、迷子になったっす。食べ物も無くて、寒くて、疲れて、どうしていいかわからなかったっす。『もう駄目だ、このまま震えながら死んでいくんだ』って、そう覚悟してたっす……」
そう話している彼女の声が次第に震え、目が潤み、やがて涙が溢れてきた。
「孤独で……寂しかったっす……その時はもう……絶望しか無くて……し、死んだらどうなるのか……わからなくて……」
「……」
僕は黙って次の言葉を待つ。
「そんな時……そんな時暖かい何かに包まれて……目を開けると、そこにはあなたの顔があったっす……あなたの暖かい手に包まれていたっす。それが私には嬉しくて……嬉しくて……嬉しくて……」
最後は言葉にならず、彼女は大声で泣いた。僕はその場に跪き、彼女の頭をクシャクシャと撫でる。彼女は大声で泣き続けた。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
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