第一話〜話があるっす〜
携帯小説を初めて投稿しました。
拙い文章ですが、読んで頂ければ
幸いです。
僕は一人山を登る。膝下まで伸びでいる草を踏み分けながら。
僕は一人を登る。明かりと呼べるものは僕が持っているランタンくらい。
僕は一人山を登る。肩から垂れ下がっている荷物を背負い直し、僕は一人山を登る。
額から汗が流れる。首筋を生温かい感触が伝う時、何とも表現し難い気持ち悪さがある。
僕は額の汗を袖で拭き、更に登る。
息も荒くなり、集中力が切れてきたのか、
岩に足を滑らせて転んでしまった。お陰でズボンと足が犠牲になった。垂れてくる血を無視して更に登る。『もうすぐ目的地に着くはずだ』そう思った矢先、山道から木々が見えなくなり、代わりに開けた丘が現れた。
僕は肩から荷物を降ろし、丘の上に寝転がった。
少し目を閉じて息を整える。汗で濡れた服が風に触れ、体温を容赦なく奪っていく。それが心地よかった。
息が整ったところで僕は起き上がり、
荷物を開けて組み立てる。何も無いところから自分で製作した望遠鏡。ランタンの明かりさえあれば容易に組み立てられる。
望遠鏡を覗くと、そこは普段の景色とかけ離れた世界が広がっていた。
青く、力強く輝く星。長く生きていたのか、オレンジ色に優しく光る星。星は誕生してから日が浅いほど青く明るく輝く。年をとるごとに大きくなり、光にオレンジを含み、優しく照らす。
夜空一面に色を添えるこの星々、そのほとんどが地球を明るく暖かく包む太陽と同じ、自ら燃え、光を放つ恒星。
僕は時々、この夜空を眺めにここへ来る。「宇宙」と言う、この圧倒的な存在に見て、触れて、自分がちっぽけな存在だと認識したいから、いや、認識する為にここに来る。
僕はこうして望遠鏡で星を見ても、姿形は認識出来るが、その中身までは見る事は出来ない。それなら、この宇宙のどこかで、この星を観察している生命体がいたとしても僕の姿までは見る事は出来ない。
何という広大な世界。
仮に宇宙を全て10畳一間に押し込めたとして、そうなれば地球のサイズはごま粒以下になる。そのごま粒以下の場所に僕らは生活している。
なんと小さな事か。
そんな小さな人間が、一体何を悩む事がある?
一体何を争う必要がある? そんな小さな人間に、一体何を媚びる? 宇宙全体を見ればとるに足らない事ばかりなのに人類は僕を含め、こんな小さな事を毎日考え、悩み、他人を気にして生きている。
何と小さくて愚かしい事か。
自分の事だけを考えている、考えてしまう内に、自分の周りが世界の全てだと思い込む。その思い込みを正す為にも僕はここに来る。
「自分の事だけを考えて生きる生き方の何が悪いっすか?」
「別に悪いとは言っていない。そんな生き方、辛いだけだと同情しているだけだ」
僕は望遠鏡を覗きながら答えた。
「同情させるのも御免こうむるっすね。何っすか? あなた、神にでもなったつもりっすか? たった一人で星空眺めて、全てを手に入れたつもりっすか?」
「全てを手に入れるのはつまらないだろう。この宇宙の全てを手に入れたとして、自分がちっぽけな存在だと、どうやって認識すれば良いかがわからなくなってしまう」
「傲慢っすね。そもそも、ちっぽけな存在だと認識する必要がどこにあるんっすかね? そこのところが理解できないっす」
「自分がどの立場で、どういう風に世界と関わっているのかを認識しなければ、何も変わらない。その世界の範囲を認識する為にも、自分の存在がどの立場なのかを正確に理解しなければならない。人間社会の中にいると、人間社会が世界の中心になってしまう。僕はそんな小さな世界でありふれた物だけを見て生活するのは御免だ。息が詰まる」
「傲慢ここに極まれりっすね」
「ところで」
僕は望遠鏡から目を離し、声のする方を見た。
「君は何だ?」
「何だ」と言う質問は我ながら的を射た質問だったと
思う。この声の主を、僕は。
「何だとは随分なご挨拶っすね。こんなに小さくて可愛い女の子を前にして‼︎」
「前にいるのか? しかし、残念な事に僕には君が見えていない」
そう。僕はこの声の主、(自称小さくて可愛い女の子)が見えなかった。
声のトーンからおおよそ性別は判断できたが、姿が見えない以上それが何かわからない。
幻聴かと思ったが、その割にははっきりと声が聴こえる。先の会話で声の主に感情がある事も把握できた。しかも、心の中を読まれた。
見えない相手との会話は初めての経験だった。人かどうかもわからない相手、だから「誰だ」ではなく「何だ」と尋ねるしかなかったのだ。
「ん? あれ? 本当に見えてないっすか? 目はバッチリ合ってるんっすけど……?」
目はバッチリ合っているらしい。ただ声がする方向を漠然と見ているだけなのだが。
「全くもって見えてはいない。気配も感じないし、匂いもしない。君は何だ」
僕は先程の質問を繰り返した。流石に二回も同じ質問をすれば答えてくれるだろうか。
「匂いだなんて、何がか変態チックな事を言ったっすね」
「……」
「ひょっとして……変態さんっすか……? こりゃあヤバイ相手に声を掛けてしまったのかも知れないっす……」
僕は苛立ちながら三度同じ質問を投げかける。
「君は何だと言う質問には答えてくれるのか?」
「あれ? ひょっとして怒ったっすか? ちょっと遊びが過ぎたみたいっすね。いやぁ、失礼したっす」
その言葉遣いが怒らせた相手に対して失礼極まりないのだが、僕は黙って次の言葉を待った。
「私の事覚えてないっすか? と、言っても見えないんじゃお話にならないっすね」
僕にはこの声を聴いた覚えもない、さらに言うと、見えなくなるような人間に知り合いはいない。いい加減にして欲しい。もううんざりだ。
「私は、以前ここであなたに埋葬されたリスっす」
いよいよ僕は頭がおかしくなってしまったようだ。
確かに二ヶ月ほど前、この場所で息絶えたリスを埋葬した事があったが、それが見えない姿で話し掛けて来るなど、頭がおかしくなったとしか思えない。明日朝一番に病院へ行こう。
「あ、ちなみに言うと私は幽霊じゃないっす。幽霊なんて非科学的っすからね」
では見えない姿で話しかけて来るのは科学的なのか? 僕はそう言いたい気持ちより、早く帰りたい気持ちが勝り、急いで帰り支度をした。
「ちょ‼︎ ちょっと待って欲しいっす‼︎」
「何だ? 僕は早く帰って寝て、起きて病院へ行きたいんだ」
「病院? 何しに行くっすか?」
「決まっているだろう。精密検査をしてもらうためだ。頭がおかしくなったようなのでな」
僕は帰り支度の手を止めず、望遠鏡を鞄に戻し、肩に掛けた。
「マジで⁉︎ マジで待って欲しいっす‼︎ 何で帰ろうとするんっすか⁉︎ もっとお話しがしたいっす‼︎」
「悪いが僕が君に話す事は何も無い。では失礼する。もう二度とここには来ないだろう」
僕は元来た道へ歩き始めた。二、三歩進んだあたりだろうか、望遠鏡が急に重くなった。いや、これは重くなったと言うより、何かに引っ張られている感触だ。鞄を見ると、望遠鏡の一番細い部分を挟むように凹んでいる。
「私はこの時をずっと待ってたんっすから‼︎ そんな事言わないで欲しいっす‼︎」
「ずっと待っていた? そんなファンタジー小説に良くあるような事、現実に起こる訳無いだろう。僕は一刻も早く帰りたい。離してくれ」
僕は、無理矢理引にでも引っ張れば、簡単に引きはがせるだろう、そう思って力を入れた。だが、荷物はピクリとも動かない。いや、逆に元いた場所に引き戻されている。どんな馬鹿力だ。
「へっはいひ‼︎ ははははいっふ‼︎」
おい、ちょっと待て。噛んでいるのか? 僕の大事な荷物を噛んでいるのか⁉︎ 何故噛む⁉︎ 掴んだままで良かったじゃないか⁉︎ それよりもそんな事をすれば中が‼︎ 僕の望遠鏡が‼︎
鞄からミシミシと嫌な音が聴こえてきた。このままでは僕の大切な物が壊れてしまう。
僕は僕の宝物が壊れるのが一番嫌だ。腹が立つと言うより、悲しみでいっぱいになる。やばい。泣きそうになってきた。こんな訳の分からない状況で宝物を壊すくらいなら、いっそのこと話くらい聞いてやっても良いのでは?否、聴くしか助かる道は無い。
「わかった‼︎ 聴く‼︎ 話を聴くから離せ‼︎」
「ははひをひいへふへふんっふは⁇」
「聴くからとっとと離せ‼︎ それと離してから話せ‼︎ 何を言っているのか全くわからない‼︎」
「ぷはぁ‼︎」
荷物が軽くなり、僕は後ろによろめいた。慌てて望遠鏡を確認する。どうやら無事のようだ。じっとりと湿ってはいるが……やはり噛んでいたのか。
「いやぁ‼︎ 顎が外れるかと思ったっす‼︎」
「で、一体何のようだ? 手短に話してくれ」
「あ、ちょっと待って下さい」
「何だ? この後に及んで話す内容が無い、なんて事じゃ無いだろうな?」
「違うっす。お話しする事は沢山あるっす。待って欲しいのは別の理由っす」
僕は首を傾げた。
「あっ‼︎ 来た来た‼︎」
空を見て欲しいっす。そう言われて空を見上げると、一筋の光が空の一番高い所から地平線の彼方まで流れた。
流れ星。
ほうき星。
僕は随分と前から、ここで夜空を観察しているがこんなにも大きく、力強い物は初めて見た。
「随分と立派な流れ星だったな。こんなに立派な流れ星は初めて……見……た。…………え?」
僕が空から目線を元に戻すと、
そこには小さな女の子が立っていた。
「あれ? ビックリしちゃったっすか?」
「ああ。ビックリした。姿が見せられるのなら、もっと早くそうして欲しい」
「違うっす。私は、あなたに姿が見えるようになりたいって願ったんっす」
「願った?」
「あれ? 知らなかったっすか?」
目の前にいた女の子はにっこりと微笑んでこう言った。
「流れ星は願いを叶えてくれるんっすよ」
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