無力なままに
ケース1 嘘に優しさなんてあるのだろうか?
-2-
足音が近づいてきても、首にかけられた、力が緩むことはなかった。音が近くなるにつれ、砂埃が鼻につき、気配を感じる。丁度、僕の目先に音の主である人物のつま先だけが見える。
(…綺麗な靴だな…)
まるで、さっき箱から出したばかりですよと言わんばかりに、黒々と光っている。ふとそんな事を考える。
「ん?……まだ子供かな? これはこれは。B-2、とりあえず離してあげようか。」
「了解しました。」
そう言うと、僕を押し付けていた、首元への圧力が解放されていく。強く押さえつけられていたのか、
僕はすぐに正面の男に視線を向けることができなかった。少し視線を向けるのが怖かったのかもしれない。
「アザナァァ!!」
僕はその声に、すぐさま反応して、声のするほうへ顔をあげた。あぁ、彼も無事だった。
「……ッ……ユージン!!よ、よかった、無事なのかい?」
「大丈夫だ!俺は何ともねぇよ。」
と叫ぶ、彼の鼻からは、結構な出血の跡が。かなり抵抗したのだろう。それでも大きな怪我は見当たらないし、問題はなさそうだ。
「んー。仲間の安否を気遣うのは、いいんだけどねぇ。君達、どういう状況かわかっているかい? こちらの質問に答えてもらおう。」
口調は優しく、聞こえるけど、この人からの圧力は重くのしかかってきた。
「質問は3つかな。なぜ待ち伏せできたんだい?」
僕は、答えれることは、話そうと決めていた。
「あなたたちが、ここのゲートを通るという情報を買いました。」
「情報をねぇ。。では、次の質問。何故、こちらを敵と判断したのかな?」
「あなた達の特徴と人数、諜報部隊ということまで、わかったからです。」
ここで、この人の質問が、少しの間、止まったような感じがした。
「ん。じゃあ最後の質問。……こちらの特徴とは?」
最後の?僕はここで、戸惑ってしまった。てっきり、お前たちは何者って聞かれると予測していたからだ。
襲ってきた相手に興味がないということは。僕らのことより、情報の出処を知りたいってことなのか。
どう答えればいいだろう。そう考えていた時に、ユージンが叫んでいた。
「おいおい!この地域でな、全身、白い軍服とかありえねぇんだよ!あんたらは白い奴らはよぉ、3年前、俺らを襲っただろう!そんときに大人をほとんど殺していっただろうが!しまいに俺らの大事な先生も連れていったじゃないか!ここらへんに、そんな奴らは、いねぇんだよ!」
ユージンが声高に叫んだ。そうだ、仇が目の前にいるんだ。落ち着けるはずがない。僕だって叫べるものなら叫びたい。でも、僕にはそんな度胸というか、叫びたい想いがまとまっていない。
「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ…ぁ……はぁ……っ…」
ユージンのため息だけが、静かに聞こえてきた。
「なるほど。それは、残念だね、ほんとに残念だ。」
そういうと彼は、ヘルメットを外していた。
「残念ながら、君たちの復讐は果たせないねぇ。なにせ、俺も君たちと同じ、ほら、日本人さ。何なら、ここにきたのも今日が初めてだ。」
僕らは、何も反応できなかった。先生の手がかりをと、ようやく戦えると、意気込んでいたのに、ターゲットすら間違えていたなんて……僕らは戦う相手すら、見つけられないのかと。
ユージンも、まさかといった表情で固まっている。それもそうだ。ユージンは、僕なんかより、何倍も何倍も今日という日を、待っていたんだ。そして、それをもう果たすこともできないんだから。
「よし。じゃぁ、君たちの拠点、もしくは、隠れ家とかに、案内してくれるかな。」
「え。僕らを殺さないんですか?あなた達を襲ったのに。」
僕は、驚いたまま、普通に聞いてしまった。考えないで感じたまま、この人に向けて言葉を発していた。
「はは、襲った?いやいや、こちらは何もされていないからね。むしろ、こちらが一方的に襲ったようなものだ。なにせこちらは4人とも無傷だしね。じゃぁ自己紹介、マシロです。よろしく。」
「え?」
「間城、間に城でマシロ。マシロさんと、呼んでくれてかまわない。」
僕は、びっくりしながらも、差し出された、手に反応した。
「はい!僕は、アザナっていいます。よ、よろしくお願いします。」
この人の手を掴んだ時、僕は緊張しながらも、力いっぱい握り返して、起き上がる。ふと顔を見ると、
表情は笑っているのに、
目だけは、何故か悲しい目をしていた。
誤字、脱字ありましたら、教えていただけると助かります。