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ヤビョウ  作者: 立川了一
5/5

おわり 〜夜に舞う天使〜

 浜松祭り午後の部、御殿屋台引き回しが始まり、熱気が渦巻き始めた頃。


「希心さん、お願いだから行かないで。」


 全てを知った二人は、きらびやかな掛け声ともに盛り上がる会場とは、一線引かれた場所にいた。


「正宗さんは大丈夫だよ。あの人は僕らと違うから。」


 希心はいつもの猫耳パーカーのフードを深く被り、聞く耳を持とうしない。


「だから正宗さんのことは……。」

「違う。」


 昨日から希心を説得し続け、ようやく言葉を返した。


「別に正宗さんの事はどうでもいい。」

「どうでもいいって……。希心さんはジェノに会おうとしてるの!?」

「うるさい! それに、さん付けはやめて。」


 希心は一歩ずつ、闇の深いところに行ってしまう。


「希心さんは、何を考えているの? 夜はとっても危険なんだよ!?」

「……だったら、甲斐が守ってよ。そんなに心配するなら一緒に来て。」


 一人ぼっちで、今にも泣き出しそうな迷子のように震える希心。


「ごめん、それはできないよ。僕は今でも夜が怖い。ここにいるのだって、【御守り】が無ければ……。」


 リュックの中に手をいれて【御守り】に触れる。自分の弱さに悔やみ震える甲斐。


「意気地無し。だったら、あたしから離れた方がいいよ。あたしは…………」

「僕は、あの日、光さんを殺せた。」


 甲斐は断頭台を目前にして、笑う死刑囚のような不気味な冷静さを放つ。


「光さんが僕に迫ってきたとき、女性が、正宗さんのお母さんが代わりになってくれた。その前に警察官が犠牲になってたんだ。」


 そう言って、甲斐は【御守り】を手にとった。それは警察官の使う拳銃だ。こびり付いた赤い点が目立つ。


「偶然に次ぐ偶然だったよ。殺された警察官の銃が、僕の足下に転がってたんだ。僕があの時、光さんを撃っていれば助かった人がいたかもしれない。でも、僕は逃げだした。」


 銃口を希心に向けて、静かに距離を詰める。


「僕は、たぶん希心が好きだ。だから行って欲しくない。」

「……ふざけないでよ。ふざけないで!! たぶんって何!? 銃で脅しながらの告白なんて……。」


 怒りに嘆きと表情を変えて、最後に自虐的な笑みを浮かべる。


「ありがと、あたしにはお似合いの告白ね。」


 銃を構えた姿勢のまま、急に身体全身が麻痺して動かない事に、驚く甲斐。唯一出来たのは希心を見詰め返すこと。

 

「……その銃は大切な御守りなんでしょ。取らないから、もうほっといて。あたしにはこれがあるから。」


 甲斐は希心の言うこれが分からなかった。ただ、一つ分かったのは、希心の目はジェノと同じ赤い輝きを放っていたこと。





「この日をどれだけ待ちわびた事か。」


 ポツリと呟きながら、正宗は視界に映る人影にガン飛ばす。影も正宗の存在に気付き、軽薄な挨拶の言葉を述べた。


「ヤッホー、正宗くん。」


 夜の闇に紛れる漆黒のセーラー服の少女も、赫赫く瞳で正宗を見詰める。


「よぉ、ジェノ。」


 言葉だけの挨拶を正宗も返す。


「もう二年か~。早いねぇ、時の流れって」

「じゃあ、そろそろ死んでくれるか?」


 軽口叩く口調で紡がれた言葉は、文字通りの怨念おもいが込められている。


「それは正宗くん次第。ねぇ、その刀が渾身の業物?」

「ああ、そうだ。早くお前の首を落としたくてたまらねぇよ。」


 抜刀し切っ先をジェノの喉元に向ける正宗。


「今日はジェノも本気でヤってあげる。でもその前に一つ約束して」

「あぁ? なんだよ、てめぇが約束守るのかよ。」


 一拍置いて、笑顔を見せるジェノ。


「ジェノが勝ったら、お願い聞いてね~。」

「ケッ、それはねぇから安心しろ。行くぞ!!」


 一気に間合いを詰め斬りかかる。

 いつもより刃渡りがあるぶん、正宗の猛撃は疾風怒濤。ジェノの表情かおには余裕の色の代わりに冷たい殺気だけが貼り付けられている。

 

「やるねぇ~」


 ジェノのは大きく後退し間合い取る。そして大鎌振るう。ケラケラとした笑みと共に。


「単細胞が! ワンパターンじゃ効かなぇよ!!」


 ジェノから伸びる大鎌を、右に、左に、洗練されたステップで裁く正宗。


「上手~、上手~。じゃ、これはどうかな?」


 大鎌でコンクリートを抉り、力任せに投げ飛ばす。

 脇に転がり避ける正宗は、一時的にジェノから視線を外してしまった。


「どこだァ!?」


 周囲を見渡す。背後に気配と首もとに迫る影。


「あぶねぇな。」


 首を跳ねようとした伸びた鎌口を、自慢の白刃で受け止めて、背後に佇むジェノに回し蹴りをおみまいする。

 いち早く正宗の行動に気付いたジェノは、正宗を軽く飛び越えて躱す。

 標的を失った正宗の蹴りは、背後にあった建物にドゴッという衝撃とともにヒビを作った。


「うっわー、正宗くん足大丈夫? 骨折してない?」

「骨折しようが、お前を殺せれば本望だ。それに案ずるな、特殊加工安全靴だ。」


 正宗は大鎌の餌食になることに物怖じせず、ジェノの懐に突進する。するとジェノの間合いから外れ、隙も生まれる。


「死ねぇ、クソ悪魔!!!」


 悪態と供に繰り出された正宗の渾身の一撃は、ジェノの腹部に突き刺さる。ズボォッと雪の中に足を沈めるような感覚を手に感じ、正宗は口元を緩ませた。


「痛いよ! 痛いよ、正宗くん!!」


 言葉とは裏腹に、ジェノは恍惚とした表情を浮かべてる。


「だったら、もっと苦しめよォ!!」


 正宗はジェノの腹部に刺さる刀を強く押す。ついには血に染められた刀身が、ジェノの背部から顕れた……にも関わらず、ジェノの興奮と笑顔は絶えない。


「凄いよ!! ジェノ、初めて出血したよ。正宗くんにジェノの初めてを奪われ……」

「気持ち悪い事言うんじゃねぇよ!!!」


 何度も蹴りあげる正宗。

 うへへ、と締まりのない笑みを浮かべるだけのジェノ。いつしか口からも血が垂れてる。


「くそっ、ふざけやがって……。」


 正宗がジェノに向けて拳を振り上げたと同時に声が飛んできた。


「我らの天使、シャムハザ様の言った通りだ。化け物は負傷している。」


 様々な組の、法被を着た若い集団が、わらわらと近寄っていた。集団にまつりを純粋に楽しんでいる様子はない。だけど、どこかピントの合わない笑みを浮かべる。


「誰だ、てめぇら!?」


 法被の集団を睨み付ける正宗に、ジェノは耳打ちする。


「光くんと同じだよ。【毒リンゴ】を与えられた哀れな白雪姫ちゃん。」 

「はぁっ!? なに言ってんだ?」

「でーもー、光くんも元々密売の手伝いをしてたからな~」


 昨日、甲斐が言ったことを思いだした。

 ショックを受けてる正宗に追い討ちをかけるジェノ。いつの間にか正宗の刀を抜き取っていた。


「男はどうする?」

「ただの人間に用はない。」

「いや、シャムハザ様は仲間にしろと。」

「なら【リンゴ】を……。」


 男の一人が、淡黄色の液体を孕んだ注射器を持って、正宗に近づく。


「あーあ、本当なのかよ……。くそっ!!」


 ジェノから刀を取り返すと、法被の集団を睨む。


「正宗くん、何考えてるの~? 正宗くんまで犯罪者になることはないよ。……あ、もう銃刀法違反か。」

「うるせ、光の敵を討つだけだ。いくら毒されてたからっていっても、お前が光を殺した事に代わりはない。まだ標的だということを覚えておけ!!」


 正宗の話を全く聞かず、ジェノは制服の破れたところを弄っていた。キズはもう消えていた。


「あ、ごっめ~ん、何? あ、危ないよ。」


 五人がかりで正宗を捕らようとする法被集団。


「ホントはさ、光くんも助けてあげたかったんだけど、ジェノは【毒リンゴ】を食べたお姫様を救う王子様じゃないからね。」


 ジェノが法被集団を大鎌の餌食にしようとしたとき、二人の影が遮った。


「こんばんわ。」


 猫耳フードを深く被った希心は、出来るだけ自然な笑みを繕って挨拶をした。その後ろには不気味なほど冷静な顔つきの甲斐もいる。


「部外者だ。」

「部外者はどうする?」

「シャムハザ様は殺せと?」

「いや、仲間に?」


 法被集団の内輪揉めには目もくれず、甲斐は暗い夜空に手を伸ばした。手には拳銃が握られている。


「お前ら、何してる? にげ……ろ? おい、ジェノ!?」

「だ~め、正宗は目を閉じて。」


 正宗の背後から目隠しをするジェノ。

 一発の銃声が、正宗の鼓膜を振るわせた。

 

「おい、何をした? おい!」

「びっくりしちゃダメだよ~」


 そんな忠告と同時に目隠しが外された。


「……あぁ?」


 正宗は状況が理解出来なかった。

 法被の集団が全て倒れていた。

 険しい表情を浮かべ、思案に暮れるが答は導き出されない。


「正宗さん、ごめんなさい。来ちゃいました。」


 甲斐は謝罪した。手には硝煙を上げる銃が重々しく握られている。


「甲斐、お前が撃ったのか? いや、でも……」

「銃を撃ったのは僕ですが、やったのは彼女です。」

 

 夜の学校のような不気味なオーラを放つ希心。


「猫ちゃん! やっぱり、猫ちゃんはサリエルの半身なんだね。」


 そう言われて希心はスッキリしたように笑った。





(いつから、あたしは人を避けてたんだろう?)


 電気も点けずに、暗い部屋で希心は考える。


(小学生の頃は普通に友達がいた。)


 希心はふと鏡を見る。寂しそうな自分の顔が写ってる。

 今度は目に力を入れて見てみる。寂しそうなのは変わらないが、瞳から赤い光を放っている。


(やっぱり、この力が宿ってからだ。)


 瞼の上から目玉を強く押す。


(こんな力、入らない。)


 以前、よくじゃれてくる黒い野良猫がいた。いつもと同じように頭やお腹を撫でていたとき、ふと野良猫と目があった。

 そして、呆気なく死んだ。猫を殺してしまった。


(もし、殺したのがヒトだったら……。)


 そう思ってから、友達を避け始めた。そして中学に上がり、完全に孤立した。


(それでも、人殺しになるよりまし。)


 そう思うことで、なんとか心を抑えた。

 目の力を制御する練習もした。鏡をじっくり見て、込める力を変える。すると、僅だが三段階の変化に気付いた。


 一段階は動きを止める。

 二段階は意識を奪う。

 三段階は命を奪う。


 練習の為に鳩を三匹殺してしまった。近くの飼い犬も殺してしまった。一匹殺してしまうたびに、部屋に籠り、どれだけの涙を流したことか。


(お母さんには心配かけてばかりだ。)


 その結果、完璧に制御できるようになった。けど、万が一の事を考えると、不安で胸が締め付けられた。

 

 そんなとき、SNSという指での会話に出合った。ヒトとのコミュニケーションに飢えていた希心はどっぷりとはまった。

 そして、リアルの世界に否定的になってしまった。


(この数日で大きく変わったな~。)


 甲斐や正宗の存在。一番はジェノという異形の者。


(あたし以外にも化け物がいて嬉しかった。)


 だから会いたいと思った。もっとジェノに近づきたいと思った。


(でも、ジェノに近づきたいと思う理由は他にあった。)


 甲斐が調べた内容と、昨日のジェノ発言からそれに気付いた。

 サリエルには【邪視】という力がある。一目見るだけで、命や動きを奪ってしまう。

 ジェノは力と記憶を無くしていると言っていた。その無くした力が【邪視】だったんだ。


「あたしも【夜に舞う天使】だ。」


 自分の口から落ちた言葉に顔が綻ぶ。

 自分の存在が肯定されたような気がした。


 ピロンという着信音と共に、甲斐からのメッセージが表示された。


『明日、絶対に街に行かないでね。ジェノがきっと解決してくれるから。』


(この言葉は、月成さん家から帰ってから何度目だろう?)


 逆にネタフリじゃないかと思うほど聞いている。ただし、一度も希心は答えなかった。


「あたしも【夜に舞う天使】なんだし、やっぱり明日は街に行かなきゃね。」


【夜に舞う天使】という使命感から、存在意義が生まれ、冬から春になった気分だ。





「結局、何が起きたんだ?」


 ただ、ただ、困惑するだけの正宗。


「甲斐の銃声で注目をあたしに集めました。そしてサリエルの力【邪視】を使いました。」

「サリエルの力って……。サリエルはジェノだろ? どういうことだ?」


 希心の答えは更に困惑が上乗せした。


「あたしもジェノ……です。」


 まだ納得していない正宗を前に、甲斐が割って入る。


「僕らは昨日、月成さんの家を訪ねました。」


 淡々とした口調で甲斐は語る。


「そして、シャムハザという存在を教えてもらいました。」


 サリエルと同じエノク書の、ある箇所では高位の天使として、また別の箇所では人間に魔術を教えた堕天使として言及されるグリゴリの指導者。

 グリゴリとは、禁忌を犯した二百人の堕天使の一団。


「それらをヒントに、犯罪組織【栗鮴グリゴリ】が作られたんだ。そして組織とっては邪魔な存在、ジェノを消すために彼らが送られた。」


 希心の力で眠らせた法被の集団を、指差す甲斐。拍手をするジェノ。


「正解だよ、ワンコくん。君って見かけによらず、行動力あるね。」


 正宗は納得してないでいた。


「ワケわからん。それに月成はシャムハザの存在をなぜ警察に言わなかったんだ? 甲斐たちには簡単に教えたくせに。」

「そ・れ・は~♪」


 ジェノはポケットをあさり、黒渕メガネを取り出した。瞳の赫赫が消えたとき、そこにいたのは花女のブレザーに身を包んだ少女だった。


「……お前、月成美音!?」

「そうだよ、正宗くん。警察に言わなかったのは、無能ばっかだからって事もあるけど、美音が自分で解決しようと思って~。」


 美音は正宗を抱き締め、耳元でそっと囁く。


「本当にごめんね。光くんを助けられなくて。」


 耳をくすぐる美音の声音に、身体を捩り耳をかく正宗。


「なんで今まで言わなかったんだ? 光の敵がシャムハザと分かっていたら、最初からお前と戦う必要はなかった。」

「ジェノなりのスキンシップだよー。それに美音は強い男の子が好きだし♡」


 溜め息をつく正宗は、『光みたいにめんどくさい奴』と僅かに笑みを浮かべた。


「一旦、この場を離れましょう。【邪視】の効力がどれぐらい持つか分かりませんから。」


 希心が言うと、美音は不思議そうな顔をする。


「サリエルの【邪視】は『止』か『死』だよ。眠らせることは出来ないはず。」

「あたしの【邪視】は三段階です。止と死の中間で、意識を奪うことが出来ます。」


 目を赤く光らせたジェノは、今度は希心に抱きついた。


「スゴい! スゴいよ!! サリエルにはそんな事できなかった……と思うよ。それを人間の猫ちゃんがやっちゃうなんて。」


(人間? あたしもジェノでしょ?)


「猫ちゃんは違うよ。偶然サリエルの力が宿っちゃっただけ。そうそう記憶の方もどこかに落としちゃったんだよねー。」


(あたしは、普通の人間なの?)


 希心は内蔵を抉られる思いをした。


(今まで、化け物だからと思って友達を避けていたのに。ただの人間だなんて……。)


 辛い記憶、悲しい思いが走馬灯のように流れ、目眩そして吐き気に襲われる。


「人間としての優しさがあるから、希心は一人で堪えてきたんでしょ!?」


(人間としての優しさ?) 


「ワンコくんの言う通りだよ。ジェノも美音でいるときは、色んな感情が流れて楽しいよ。天使の感性は人間とは全く違うからね。」


(わかんない。)


「おい、場所を変えるぞ。そこの奴が動いた。


 正宗が指差すように、希心の力が切れはじめたようだ。


「天使と人間の違いを教えてあげるよ。」


 ジェノは大鎌を降るって夜に舞う。遠くから聴こえる祭り囃子に合わせるように、愉しみながら、血飛沫を散らす。

 ジェノが踊った後には、首を無くした死体と、真っ赤な一本道が作られた。


「猫ちゃんは、最初からこの人たちを殺そうと思わなかったでしょ? それが人間という証拠だよ。」 


(分からなくなる一方だ。)


「なんてことしやがった!? コイツらも光と同じ被害者だろ!!」

「そう。だから、一生シャムハザという悪魔を、天使として崇めるよりましでしょ? それにサリエルの使命は哀れな魂を導く事だから。」


 根本的な考え方の違いを明確に見せ付ける。

 希心の口元は緩み、声をあげて笑いだす。


「アハハ、ますます分からなくなりました。だってジェノの舞を美しいって思っちゃった。ねぇ甲斐、こんなあたしでいいの?」


 唐突に名前を呼ばれて驚く甲斐。


「さっきの返事。告白してもう忘れたの?」

「えっ……、えぇー!?」


 ジェノの瞳よりも真っ赤に火照る甲斐。


「えっ、いや、その……。さっきのは止めるために勢いで言っちゃったて言うか……。」

「じゃあ嘘なの?」

「そ、そうじゃないけど……。」


 二人を愉快そうに見詰めるジェノと、頭を抱えている正宗。


「死体の前で何をやってるんだよ……。」

「ねぇ正宗くん、美音と付き合って。」

「はぁ?」


 美音の姿に戻ったジェノはケラケラ笑う。


「さっき約束したでしょ?  ジェノが勝ったら、言うこと聞いてね~って♪」

「途中で邪魔が入って、勝敗なんてねぇだろ。」

「じゃ、なぁ~に? ジェノに勝てるの?」


 ジェノの姿に戻り、鎌口を正宗の首筋に這わせる。


「動いたら切れるよ~。はい、ジェノの勝ち♪」

「ふざけるな!! なんでお前の彼氏なんかに……。」

「いいじゃ~ん。美音みたいな可愛い彼女が出来て嬉しいでしょ?」


 正宗は鼻で笑う。


「殺人鬼の彼女なんかいらねぇよ。」

「もう~、天使の彼女だよ!」


 甲斐も正宗も答え出さずに、先に場所を変える事になった。 

 夜に惹かれたいた猫は、もう野良じゃなくなった。




 焼きそばや、ポテト、りんご飴などの屋台が立ち並ぶメイン街。


「やっぱり、スゴい人の数。」

「俺はパス。もう帰る。」

「だ~め、今からイチャイチャするのー♡」

「希心さんの事は好きだけど……。まだ早いって言うか……。」


 わちゃわちゃとした雰囲気に四人も呑まれる。

 レモン色の髪の女が四人に近付く。


「あら、月成さん。」

「あ、濡羽ちゃん! 見て、美音の彼氏だよ。」

「引っ付くな、鬱陶しぃー!」


 美音は正宗の言葉に耳を貸さずに、がっちりと腕を組む。


「フフ、カッコいい彼氏ね。」

「でしょー? あ、あそこにいる子たち友達なの。正宗くん自慢しに行くよー!。じゃあね、濡羽ちゃん。」

「おい、離せ、コラ!」


 組まれた腕は、正宗の力ではびくともしなかった。


「ハメ外し過ぎないようにね。あと、濡羽先生でしょ?」


 濡羽が言うより先に、美音たちは行ってしまった。


「あ、あの、この前はありがとうございました。」

「あら、あの時のボウヤ。偶然ね。フフフ、上手くいったみたいね。」


 甲斐一人だけ、夏場のように汗をかいている。


「避妊はちゃんとしなさい。あの二人にも伝えておいて。じゃあね、ボウヤ、ノラちゃん。」


 そう言い残して、濡羽は絢爛な人だかりとは真逆、漆黒の闇の深い方へと向かっていった。


「そ、そんな、避妊なんて……。僕にやましい気持ちは……。」


 わたわたする甲斐を横目に、希心はヴァローナの方を向き呟いた。


「……ノラちゃんって言った?」





 シャムハザは、さっきまで四人がいた場所に来ていた。そして赤い一本道を見つめ呟く。


「ノラちゃんが居なければ、私の力でなんとかなったのにね。」


 道に発火性の薬品を振り撒くシャムハザの瞳は、深紅に染まる。


「サリエルの行動にはついては知ってるつもりだったのに、とんだ【記憶】違いね。」


 メラメラと燃え上がる炎に、豚肉と牛肉を混ぜたような焼ける臭い。


「フフ、私は天使になろうとした、ただの人間。悪魔ではないわ。」


 焼けていく人だったモノを暫く眺め、シャムハザは夜の闇に再び消えた。






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