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ヤビョウ  作者: 立川了一
4/5

第三夜『夜に怯える少年』

 皐月中学校 昼休み(犬)


 男の子って恐いな。僕らぐらいの年齢になると、見た目が厳つくなる人もいるし、犯罪紛いの危険なことをして盛上るし。僕みたいに声も背も器量も小さいのは、他の男の子に脅えながら影でひっそり生きるしかないのかなぁ。


 窓側の前から三番目の席に座る明智あけち 甲斐かいはのんびりと空を見上げる。

 

 甲斐は別に仲間外れにされている訳ではない。かといって、『自ら孤独を愛してる』なんて拗らせたことを想ってる訳でもない。ただ、彼の行動は実にマイペースで、他の人は合わせにくく彼の元を去ってしまう。


 また、中学生なら興味を持つ、殺人系のゲームやちょっとした悪事自慢。それらを純粋に脅えてしまう。だから周りと話が合わなくて、ついつい一人ぼっちになってしまう。


(まぁ、平和だからいいかなぁ。)


 のんびりとアクビをする。右斜め後ろでは、女の子たちが悪口を言って盛り上がっている。


(女の子も恐いなぁ。)


 そんなことを考えながら、甲斐は机に突っ伏した。



 その日の夜、自室からぼんやり外を眺めていると、猫耳パーカーを着た少女が走っていた。


(ランニング? ……いや、でもなんか違う。)


 少女は何かに怯えている様だった。興奮してるようにも見えたのだが。


(あれ? 宵空よいあけさん?)





 翌日、ほんの一瞬の事だったけど、希心の事が甲斐の頭を離れなかった。


(昨日見たのは、宵空さんだよなぁ。夜遅くに何してたんだろう? 家出……じゃないよね。今日だってちゃんと学校来てるし。

 そういえば、宵空さんって、いつも一人でいるよなぁ。僕もだけど。女の子たちは宵空さんのこと避けてるみたいだし。あれ? 宵空さんが女の子を避けてるのかな?

 いろいろ気になるけど……。声、掛けれないよ。ちょっと恐いし。あ、でも他の人が居ないときなら――。)


 甲斐は一日中希心を目で追っていた。しかし、希心と話す機会も、勇気もなかった。帰りのSHRが終わって、真っ先に教室を出る希心。甲斐はその背中を追った。


 そして、驚いた。


(背の高い男が宵空さんの肩を掴んで無理矢理連れて行こうとしてる……。)


 犯罪の臭いがするこの状況。甲斐はたまらず飛び出した。


「な、何やってるんですか……」


 腹から声を出そうと息を深く吸い込んだが、むせ混んでしまい、弱々しい物言いになってしまった。

 希心は甲斐を見つめキョトンとしている。甲斐が見せた小さな勇気は虚しくも届かなかった。


「あぁ? なんだチビ、失せろ!!」


 男に恫喝され、簡単に震え始める甲斐。


(僕には、無理だ……。)


「行きましょう。」

「あ? あぁ……。」


 甲斐は目を閉じていたので、希心が男を引いて行くことに気づかない。真横に知らない女の影が顕れる。


「追わないの?」


 甲斐が目を開けると、フォーマルな黒い服に身を包んだレモン色の髪の女性が覗き混んでいた。


(外国人!? で、でも、今日本語喋ってたよね……?)


「折角勇気出したんだから、子犬みたいに震えてちゃダメよ。それじゃ女の子に気づいて貰えないわ。」


 女性の言葉の意味を考える。そして赤くなる甲斐。


「……ち、ち、違います!! 僕は別に宵空さんが好きとかじゃ…………。」

「あら、私は追わないのって聞いてるだけよ。少し怒鳴られたぐらいで立ち止まるの? っていう意味で言ったんだけど。」


 どんどん赤みが増していく甲斐の頬。

 女性はフフフと笑う。


「好きならば、尚更早く追い掛けないとね。彼女が一線を越えてしまう前に。」


 もう一度意味を考える。そして決意する。


「僕、いきます。ありがとうございました。」


 そう言って駆け出す甲斐。


「私は普段、花女はなじょで保険医をしてるわ。ナニかあったら彼女と来なさい。相談に乗るわよ。」


 含みのある言い方で、言葉を投げる女性。純粋純情思春期迷走少年の頬は、また更に赤みを増した。



 そして、成行で正宗宅に招かれ、成行で希心と街に行く約束。


(なんだかデートみたいだな。)


 自分で考えて赤くなる甲斐。

 

(でも、夜か……。)


 二年前の浜松まつりの夜、甲斐は街にいた。偶然見かけてしまった惨劇。頭が全く働かなくなっていた。光とも目が合った。殺されると、思った次の瞬間、知人と思われる女性が飛び出していった事により助かった。


(あの女の人が、正宗さんのお母さんだったんだ。)


 惨劇は夢で繰り返され、すっかり夜が怖くなってしまった。いや、選択を間違えた自分の後悔に責められるからかも知れない。


(あのとき、僕は…………。)




 翌日、最寄りのバス停で二人は、午後五時に待ち合わせをした。先に着いた甲斐は、アクビをしていた。


(昨日、全然眠れなかった。)


 目的はどうであれ、女の子と二人で街に行く。そのことだけで、悩みの種は幾つも満開に咲き乱れる。


(服はどうしよう? 普段着で大丈夫かな? ラフすぎなのもダメだし、カッコつけすぎても引かれそうだし。髪型は……、ワックスとか使った方がいいのかな? でも、使った事ないのに使って、失敗しないかな? お金はどれぐらい持っていこう? 夜ご飯食べるとしたら、男が出した方がいいよね? あ、でも、そんなにお金もないな……。)


 それ以外にも夜やジェノについても悩んだ。

 ジェノについては下調べをし、変わった犯罪者だと分かった。夜に対する恐怖は【御守り】で解決した。


「お待たせ。」


 黒い猫耳パーカーのポケットに、両手を突っ込んだ希心が現れた。


「ぜ、全然、待ってないよ。僕も今来たところ。」


 本当は街まで行くバスを、既に五本見送っていた。


「それにしても、宵空さんは勇気あるね。僕、家でジェノについて調べたけど……、なんか怖くなっちゃった。」

「希心でいいって。それに、怖くなったのに来てくれてる甲斐の方が勇気あるよ。」


(僕には【御守り】があるからね。)


 その言葉を飲み込んだところで、バスが停留所に到着した。


「行こう。」


 乗車券を取って二人は乗る。バスはわりと混んでいて、なんとか二人がけの席に座れた。


(ち、近いよ……。)


 甲斐は真横にいる希心の、柔らかいシャンプーの香りに、赤面シドロモドロ。

 希心は平然と澄まし顔。ジェノに会うことが楽しみらしく、口許は僅かに緩んでいる。

    

(希心さんは、何とも思ってない……よね。僕だけ変に意識し過ぎなのかな?)


 小さな溜め息を一つ。

 会話はなく、バスの揺れと睡眠不足で甲斐は眠ってしまった。



「――もう街だよ、起きて。」 


 真上から振ってきた希心の声で目を冷ます。


「ご、ごめん! 寝ちゃってた。そ、それに……」


 甲斐の頭は寸刻前まで、希心の肩の上にあった。


「気にしないで。降りるよ。……なんだか弟が出来たみたいで可愛かった。」

「え、えぇ!?」


 甲斐の頬の赤みは一向に引くことを知らない。

 からかう小悪魔笑顔の希心に、甲斐の胸は高鳴った。


「ほら、行くよ。」


 希心に言われて、ようやく甲斐は動き出した。


「そういえば、どうやってジェノを捜すの?」

「テキトーに歩く。」


(だよね……。)


「それに、どこに居るか分かってたら、正宗さんがとっくに殺してるでしょ。」


(殺す……か。)


「希心さんはスゴいなぁ。命の危険がある所に、向かっていけるなんて。」

「呼び捨てでいいって。それに別に凄くない。ただの好奇心。あと……」


 言いかけて止める希心。その表情は、喜怒哀楽全てを盛り込んだお面のようだった。


「……じゃ、甲斐は何で来たの?」


 希心は小悪魔のお面を選んだ。


(何で……、何だろう?)


 言われてから改めて悩む甲斐。


(希心さんを守りたいと思ったのかな? でもこの感情が恋なのかと聞かれても分からない。)


「ご、ごめん、答えれないや。」

「ならこの話はもう終わり。動機なんて何でもいい。」


 夕暮れの街は人の入れ替え戦。帰宅する人、これから遊び出す大人たち、祭り前の練習に向かうラッパ隊の子供たち等々、ほじくられた蟻の巣みたいに蠢いている。


「夜の街は人が多いね。」

「当然でしょ? しっかり目を光らせといて。」


 希心に言われた通り、道行く女子高生を注目する。しかし纏われた制服は、ブレザーだったり紺色のセーラー服だったりと、お目当ての物は見つからない。


「あ、あそこ!」


 一点を指差し、希心は走り出した。


「ま、待ってよー。」


 一拍遅れて甲斐も走り出す。


「……見失った。」

「い、いたの? ジェノが!?」

「うん、こっちを見て笑ってた。完全に遊ばれてる。」


 希心の口許は緩む。それから、ジェノとの鬼ごっこが繰り返された。



「――ねぇ、もう今日はやめにしない? 僕、疲れたよ……。」


 二時間ほど走り回ったのち、甲斐は根をあげた。

 希心の方も大分息が荒いが、深呼吸をして整える。


「あと、五分。」


 睡眠時間を要求するような口調で述べ、また走り始めた。笑う膝に鞭を打ち、甲斐も必死に後を追った。 


 翌日もバス停で待ち合わせ、相席で街まで向かう。甲斐の意識は真横にいる希心の他に、昨日の疲れやジェノについて考え分散していた。


 一方で希心は、スマホのマップと睨めっこ。昨夜はジェノを追ってがむしゃらに走り過ぎ道に迷ってしまった。家に着いたのは二十二時を回っていた。


「ねぇ希心さん。」

「呼び捨てでいいって。」


「あ、ごめん。えっと、ジェノの事だけど……、何か意図があるのかな? 僕たちと鬼ごっこすることに。」

「そんなの知らない。でも彼女と一度きちんと話す必要があるの。」


(何をって聞くのは愚問かな?)


 そう思っても甲斐は疑問を口にした。


「秘密。」


 希心は少し怒ったように答える。あまり触れてほしくないようだ。


「……ごめん。」


 それから、お互いに無言になってしまった。二日目もジェノの影を追うものの、距離を詰めれることはなく、ただ疲労感だけが積もっていく。


 そして三日目の夜――――。

 

「ハーロー、こんばんわ~。」


 心労が見えはじめる二人の前に、暢気な挨拶を述べるのは漆黒のセーラー服の少女。


「……ジェノ。」


 目を見開き、希心が呟いた。


(この人が夜に舞う天使? 間近で見ると犯罪者を殺す、狂犯罪者にはとても見えないけど。)


「三日間、何を探しているの? あ、子供だけでも入れるホテルならこの道の裏にあるよ~。」


(な、何言って……!ホテルって……。)


「違います。あたしは、ただ気になっただけ。あなたは何者ですか?」


 即刻否定で甲斐な心は僅かに痛んだ。

 今の希心に甲斐の姿は僅かにも映ってない。


「う~ん、何者ねー。ジェノは天使サリエルだよ。あ、でーもー、サリエルって名前は、人間が勝手に付けただけだから……、うん、ジェノはジェノという存在かな。」

「つまりあなたは天使ではないということですか?」


 希心の放つ言葉に、笑みを浮かべるジェノ。


「今のジェノは天使としては不完全なの。力と記憶を落としちゃったんだ。手元にあるのは、大鎌と悪い魂を導けって命令だけ。」


 ジェノの容姿は普通の女子高生だ。ただし赫赫瞳だけは、俗世の住人であることを否定している。


「正宗さんがあなたを捜しています。あなたは二年前に何をしたんですか?」

「光くんを殺したよ。」


 悪びれも躊躇いもなく『殺した』と述べるジェノ。ジェノの取り巻くオーラは夜の学校のような不気味さがある。


「だって、光くんは悲劇の白雪姫。ジェノは王子さまじゃないから、光くんを楽にさせる方法は眠らせるしかないじゃん。」


 童話をモチーフにした比喩で、観点を濁すジェノ。


「毒リンゴを……食べていた?」


 甲斐は思ったことを口にした。その言葉にジェノは舌で唇を拭った。


「いいね~。さて、その毒リンゴとはなんでしょうか?」


 ジェノは赫赫瞳で甲斐を捉える。見つめられて甲斐は肩をビクビクと奮わせる。


「ま、毒リンゴよりも、それを与えた悪い魔女に注目して欲しいんだけどねぇ。」


 ジェノは甲斐から視線を外し、希心を捉える。


「正宗くんに伝えて。ジェノは明後日、光くんの命日に絶命した場所に行くって。」


 そのまま夜の闇に姿を眩ませようとするジェノ。


「待って!!」


 ジェノを呼び止めた希心。


「あたしは…………」

「猫ちゃんは、夜が好き?」

「…………」


 答えれないでいる野良猫少女。

 先輩猫はお手本を見せるかの様に、夜の闇に消えていく。野良猫少女が後を追うのを、子犬少年が止める。


「希心さんは行っちゃダメだよ。あの人と僕らは、住む世界が違うんだ。僕らは正宗さんに伝えるだけでいいんだよ。」


 そう言う甲斐の手はカバンの中の【御守り】に触れていた。


「呼び捨てでいいって! それに、あたしは……違う。」


 二人はバス停に向かって歩き出した。

 明日は学校だ――。





 ゴールデンウィーク真ん中の、平日の昼休み。ちょっとした事件が起こった。事の発端は、女子グループの噂話。


「宵空さんってエンコーしてるらしいよ。背の高い男の人の家に入ってくの見た人がいるんだって。」


 希心は何も言わず、寝た降りを続け傍聴していた。


「ち、違うよ。希心はそんなことしてない。それに、その男の人もいい人だよ。」


 甲斐が再び見せた勇気は、またしても大きく空回り。火に油を注いでしまった。


「呼び捨て!? しかも下の名前を?」

「そういえば明智くん、宵空さんと夜の街にいたよね?」


 偶然にも女子グループの中に、二人を目撃した人がいた。


「あ、俺らも見た。なぁ?」

「ああ。見た見た。確か、ラブホの近く~?」


 目撃情報が段々と集まり、クラス中の視線を二人で独占していた。希心はまだ寝た降りを続けている。


「ねぇ、二人は付き合ってるの?」


 女子グループの一人が、小馬鹿にしたような笑みで問う。

 

「えっと……あの、その………。」

「うるさい! 甲斐もこんな奴の相手しなくていいよ。」


 口ごもる甲斐を横目に、希心は吐き捨てるように言う。衝撃の静寂が教室を支配したのも束の間。


「明智くん可哀想。付き合ってるんじゃなくて、何か弱味でも握られてるんじゃない?」


 女子の一言がバッシングのトリガーを引いた。

 包装などされない、陳腐で鋭い悪口の凶器が希心を滅多刺しにする。倒されたドミノは起き上がることはない。


「宵空さんって、ちょっと怖いね。」


 本来なら全く接点のないはずのクラスメートまでも、希心の心をツラツラす。

 希心はたまらず教室を飛び出した。


「ま、待ってよ、希心……さん。」


 甲斐も後に続いた。

 残されたクラスメイトは、希心の陰口と、意外なカップル誕生にざわめき続けた。


 野良猫少女は学校も飛び出した。それをひたすら追い続ける子犬少年。希心の脚が早いのか、甲斐の脚が遅いのか、二人の差は一向に縮まらない。


「ついて来ないで!!」


 希心の張り上げた声は明確な壁を造る。

 

「どこに行くの? 家に帰るの?」


 甲斐の問いに、俯きながら『……知らない』と答える。


(きっと、卑怯な手口だけど。)


「ねぇ、正宗さんのところに行こう。」


(正宗さんには迷惑をかけてしまう。)


「僕らが、こんな時間にうろついてたら補導されちゃう。」


(僕は、知りたい。全てを……。)


「だから、一緒に行こう?」


 手を差し出そうとしてやめる。

 羞恥心もあったが、希心の瞳がわずかに潤んでいたから。




「――まぁ、だいだいは分かった。俺はゴールデンウイーク中ずっと休みだし、それに、ジェノの件で貸しがあるからな。」


 突然現れた二人に、驚きながらも自室に招き入れ正宗。甲斐はジェノについてもう一度聞きたいといった。


「だがその前に、義務教育の内はサボるのはよくない、と形だけでも説教しておく。そりゃ人付き合いに正解はないから難しい。だからといって逃げ出すのはよくないな。」


 二人は俯きながら小さな声で『ごめんなさい』と謝った。


「まぁ、説教はこれぐらいだ。まぁ、ジェノについて教えろと言われても、俺自身も知らないことが多すぎるんだよな……。」


 正宗は腕を組んで考える。甲斐はポケットから、手帳を取り出した。


『サリエルとは、エノクの書に記載される七大天使の五番目、大鎌を振るい汚れた魂を狩るといわれる死を司る天使。

 ひと睨みで人間を殺す邪視という力を所有する反面、月の支配者でありながら秘密を人間に漏らすなど、人間に対して何を思うのか、その真意は露知れず。神への反逆者として糾弾され、自らの意思で墜ちることを選んだ変わり者。』


「ネットで調べた事を纏めただけですが、何か役立てればと思って……。ジェノが投稿したと思われる殺人動画のURLもあります。」


 甲斐から咲くジェノに関する知識に、希心も正宗も驚かされた。


「他にも、ジェノの目撃情報があった場所や、被害者についても調べたんですが……、正宗さん、パソコンかスマホを借りれますか? クラウドデータに保存してあるので。」


 正宗からノートパソコンを借り、甲斐のトークは四月の桜吹雪の如く降りそそる。玉響たまゆらの出来事で甲斐に対する評価は反転した。


「お前、スゲエな。なんかボーッとしてる奴だと思ってたが、本当は色々考えてたんだな。」


 希心はサリエルの特に邪視の部分に見入っていた。


「てか、お前はこんだけ調べあげて、何を知ろうとしてるんだ?」

「全てです。」


 光さんが毒リンゴを与えられたという言葉の真意も。毒リンゴを与えた魔女についても。


「全ての真実を知りたいんです。」


 甲斐の中である仮説が出来ていた。


(でも、まだピース足りないパズルだ。)


「まぁ、情報は武器になるが、ジェノは明日死ぬ。」


 正宗はベットに向かい布団を捲る。そこには、刃渡り一メートルはある太刀が寝かされていた。


「急な来客で隠しちまったが。これが俺の最高傑作だ。これでジェノを殺す。」


 正宗の目は本気だ。ジェノに対する怨念からか、刀を握る正宗の手は震える。


「あ、あの、光さんについても教えてください。」


 正宗の殺気は消え、はてなマークが浮かぶ。


「なぜだ?」

「ジェノが言った『毒リンゴ』とは麻薬を指してると思います。」

「光がクスリに呑まれて事件を起こした……と、いいたいのか?」

 

「調べていく内に【栗鮴ぐりごり】とい会社に当たりました。光さんの父親が所属していた表向きは製薬会社です。ですが、裏があると言われています。」



「探偵ごっこでも楽しんでいるのか!? だが、光は薬物検査を受けていた。光と仲が良かった俺まで調べられた。勿論、潔白だったがな!!」


 正宗はベットに腰掛けると、深く息を吐いた。


「悪いな怒鳴って。光がジェノに殺された、その事実だけで殺す理由は十分だ。向こうがわざわざ居所を知らせてきたんだしな。」


 甲斐は少しの間固まっていた。


「ごめんなさい。でも知りたいんです。……僕が納得したいから。」

「はぁー、教えれる事って言っても、たかが知れてるぞ。」


 そういって光について語る正宗。トリッキーな珍エピソードを話しながら感傷に浸る。


(光さんと本当に仲が良かったんだ。そして光さんがおかしくなったのは、やっぱり父親をジェノに殺された日からなんだ。)


「もしかしたら、あいつなら何か知ってるのかもな。」


(――あいつ?)


「光の隣に住んでいた奴だ。挨拶程度はしてただろう。」


 正宗の口から月成 美音の名前があがった。


「まぁ期待はするな。俺が話せるのはこれぐらいしかないぞ。」


 正宗は話疲れて喉が乾いたと部屋をあとにした。


「ねぇ希心さん、僕と一緒に月成さんの所に行ってくれない?」


 しばらくパソコンを弄っていた希心だが、耳だけは会話に傾けていた。


「……いいよ。」


(それは、肯定なの?否定なの?)


「一緒に行ってあげる。」


 希心は悟ったような顔をしていた。



 そして、二人は月成美音に出会い、全てのピースが揃った。




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