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魔界への誘い  作者: 直井 倖之進
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最終章 『魔界統一』③

 王座の間から廊下を左に、さらに左手の階段を上がる。

 リストとミカがやってきたのは、屋上テラスだった。

「ここは危ないから、下にいて」

 テラスで待っていたプラチナに、そっとミカが伝える。

「キュイ」

 小さく鳴くとプラチナは、真下に見える城庭へと降りて行った。

 リストへと向き直り、ミカは尋ねた。

「それで、呪文の詠唱が残っているのが、どうして神様や天使を恨んでいることとつながるの?」

「それはね、呪文とういものが、そもそも神や天使に対する呪いの言葉だったからだよ。そして、詠唱とは歌うという意味。つまり、呪文の詠唱で、魔物は、神や天使への呪いの言葉を歌っているんだ」

 リストに言われ、ミカは、これまでに聞いた詠唱の言葉を思い出した。


「漆黒の炎、絡みて齎すは、死の抱擁。神の慈悲なきうちにして、我が仇を滅せよ」

「紅蓮の炎、縒りなし集え。集いて奏でるは、死への序曲。我、闇に忍びしも、讒に伏さず。今、塵埃払わんが如く、神を滅さん」


 確かに、それらは、神や天使への呪いの言葉に聞こえた。特に、インフェルノに至っては、「神を滅さん」と、はっきり言い切っている。しかも、その呪文は、誰を敵として使っても同じ言葉だ。それは、魔法というものが本来、神や天使を滅ぼさんとするために作られたものなのだという何よりの証拠でもあった。

「ということは、呪文は、天界を壊したいほどに憎んだ魔物が作った呪いの歌」

 ミカがそう結論を出すと、リストは大きく頷いた。

「そういうこと。魔法は、魔と法に分かれる。魔というのは魔界で、法とは(おきて)のこと。つまり、魔界の掟は、天界を滅ぼすことにあったというわけさ。それなのに、パパたちは、そんな天界をほったらかしにしている。神や天使と戦うことを恐れて、逃げているんだ。でも、僕は違う。絶対に天界を許さない。消し去ってやるんだ。そして、天界が消えたら人間界も滅ぼす。神の力がいかに無力だったのかを、人間どもに教えてやるんだ」

「駄目よ。そんなことは、人間の私がさせない!」

 こちらを見上げるリストを、ミカは(しっ)かと睨み据えた。

 その時、

「ミカ。こっちは全部終わったよ。あとはリストちゃんだけ。手伝おうか?」

 そんな声を上げながら、ベルゼブブが城庭に入ってきた。近くには、プラチナの頭を撫でているルキフグスやアスタロトの姿もある。

 (とっ)()にミカは叫んだ。

「こっちにきちゃ、駄目!」

 しかし、それは僅かに遅かった。

「僕の邪魔をする奴らは、許さないよ」

 鋭くそう告げると、リストが赤炎魔法を放ったのである。

 ベリアルの時と同じ赤い光が、城庭へと向かう。

 一瞬の出来事だった。

 城をも揺るがす爆発音とともに、城庭の地面は大きく(えぐ)られ、全てを巻き込み、吹き飛んだ。

「い、嫌あぁぁっ!」

 テラスから身を乗り出し、城庭へと手を伸ばしてミカが悲鳴を上げる。そんな彼女の顔に、土が、石が、そして、誰のものとも分からぬ肉片がぶつかり、落ちて行った。

「うわああああぁ!」

 両眼を大きく見開き、ミカが叫ぶ。彼女の心の中で、“何か”が切れた。

 ルキフグス、ベルゼブブ、アスタロト、プラチナ。ミカを支えてくれた仲間が、導いてくれた仲間が、今、跡形もなく消えた。

 残された地の底見えぬ大きな穴を、ミカが見下ろす。

 その隣でリストは、

「これは、おまけ!」

 と、両手の十本の指から、幾度となく小さな赤炎魔法を上空へと向けて発射した。

 直後、城の向こう側より断末魔の叫びが、屋上テラスまで聞こえてきた。

 それは、ミカに従い、ついてきてくれた魔物たちの、見ること適わぬ最後の姿であった。

 瞬きさえも忘れ、じっと城庭にできた大穴へと視線を落とすミカに、リストは言った。

「これで、魔界は僕とミカ姉ちゃんだけになった。僕はこれから天界に行く。僕を皇帝だと認めるんだったら、ミカ姉ちゃんもついてきていいよ」

「……」

「ねぇ、ミカ姉ちゃん。聞いてるの?」

 ゆらりとリストへと向き直り、ミカは答えた。

「仲間を大切にできない魔物を、何もかもを敵だと攻撃するような魔物を、皇帝だなんて私は認めない。皇帝は、私よ。私を信じてくれた皆のためにも、これだけは絶対に譲らない!」

「じゃあ、ミカ姉ちゃんにも死んでもらうしかないね」

 リストの体が、赤く輝きを放ち始めた。対するミカも、その全身に赤色の光を纏う。

「リスト君。本当の皇帝の力、教えてあげる」

 そう告げると、ミカは呪文の詠唱を始めた。

「我、魔界の皇帝ミカの名において命ずる。紅蓮の炎、縒りなし集え。集いて奏でるは、死への序曲」

「インフェルノだね。でも、僕はそれを無詠唱で使えるんだ。残念だったね」

 挑発するように言うと、リストは力を込めた。それに呼応するかのように、彼の全身を覆う赤い光が、右腕へと集まる。

「インフェルノ!」

 ルシファーが使った際は、魔女を殺さぬため飛散させた赤炎魔法。それを、リストは、ミカ目がけて真っ直ぐに放った。

 城をも破壊したリストのインフェルノが、今、一筋の赤い光となってミカに襲いかかった。

 赤光はミカにぶつかり、次第に赤い光の玉になっていく。

 ところが、それは、ドッジボールほどの大きさまで膨らんだところで急速に(しぼ)み、(つい)には、何もなかったかのように消えた。

「ど、どうして……」

 理解できずにリストは戸惑う。だが、彼の疑問に答えてくれる者はいなかった。

 そこに、小さく、だが、はっきりとミカの声が聞こえてくる。

「我、闇に忍びしも、讒に伏さず。今、塵埃払わんが如く、神を滅さん。……インフェルノ!」

 ミカは、右腕を高く突き上げた。

 次の瞬間、一条の赤光が魔界の空へと駆け昇り、巨大な赤い光の玉を縒りなす。

 ミカが放ったインフェルノは、ルシファーのそれと同じく、赤き太陽が如く魔界全土を明るく照らした。

「ご、……ごめんなさい。皇帝は、ミカ姉ちゃんでいいから、許して」

 恐怖に顔を引きつらせ、リストが懇願する。

 静かに首を横に振り、ミカは言った。

「私にも、許せないことはあるのよ」

 赤炎魔法インフェルノが、リスト目がけて飛んでくる。

「うわああああ」

 赤光にリストの姿がかき消され、その悲鳴だけが周囲にこだました。

 直後、爆風に弾かれ、ミカは気を失った。

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