表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界への誘い  作者: 直井 倖之進
28/32

最終章 『魔界統一』①


              最終章 『魔界統一』


「分かってないねぇ、ミカは」

 ベルゼブブが大きく首を振る。その隣ではアスタロトが、彼女に同調するように小さく頷いた。

 ここは、王座の間。現在いるのは、皇帝、君主、大公爵のメンバーである。つまり、宰相ルキフグスはいなかった。そこで、ミカは、彼の右腕とプラチナの傷を治す魔法はないかと相談してみたのだが、それに返ってきた答えが、「分かってないねぇ、ミカは」だったというわけだ。

「どうしてですか? 何か、(いや)しの魔法みたいなものってあるはずでしょう?」

 ミカがさらに深く聞く。

 だが、ベルゼブブの困り顔は変わらなかった。

「魔界には、癒しそのものがないんだよ。いいかい? あんたの言う癒しってのは、傷を治す力のことだろ? それは、神の慈悲や天使の息吹と呼ばれるもの。魔界の魔法とは、まったくの別物なんだよ」

「でも、ルシファーさんは、お母さんを治してくれましたよ」

「あんたの母ちゃんがいるのは人間界だろ? しかも、ただの病気。それならあたしにだって治せるよ。元は天使だったんだからね。だけど、魔界の戦いで負った傷は違うんだ。そういったものに対して、癒しの力は通用しないんだよ」

「じゃあ、ルキフグスさんやプラチナは」

「自然に傷が治るのを待つしかないね。(もっと)も、それでも爺さんの腕が元に戻ることはないよ」

「そんな。私のために戦って、怪我をしたのに……」

 悲しそうにミカは俯いた。

 そこに、そっとアスタロトが語りかけてくる。

()(じょ)は、優しいのだな。しかし、ワシたちは魔物。戦いの中で生きるのが定めだ。傷を負ったり命を亡くしたりは、これまでの長い魔界の歴史の中で幾度となく経験してきた。今更、気にしなくともよい。それよりも、今ミカ殿が考えるべきは、一刻も早く母上と再会すること。そのために、魔界を統一することではないかな?」

 黙ったまま、ミカは小さく頷いた。

 広い王座の間に、暫しの沈黙が訪れる。

 すると、

「そういえば……」

 と、何かを思い返すような目をしてベルゼブブが言った。

「あんたたちさ、アスタロト城から逃げる時に、城に落ちていく赤い光を見なかったかい?」

「いや、ワシは両脇を抱えられておったから見てない」

 アスタロトが首を横に振る。

 一方、ミカは、

「あ、見ました。彗星みたいな一本の長くて赤い光」

 と答えた。

「やっぱりね。多分、あれ、呪文を詠唱せずに放ったインフェルノだよ」

「え? インフェルノは、呪文の詠唱が必要なんでしょう? それに、皇帝にしか使えないって」

 伝えられる矛盾に、ミカが戸惑う。

「あんた、抜けてるようで、ちゃんとあたしの話を聞いていたんだね。確かに、インフェルノには、呪文の詠唱が必要なはずなんだ。でも、今までそれを使ったのがルシファーしかいなくて、しかも、その時には必ず呪文を唱えていたからそう考えただけ。ひょっとすると、無詠唱で使うことができるのかもしれない。何しろ、リストちゃんはルシファーの息子だからね」

「……え?」

 さらりと告げられた事実に、ミカの動きが止まった。

 そこに、それを聞き返したのだと勘違いしたベルゼブブが繰り返す。

「リストちゃんは、ルシファーの息子。だから、皇帝と同じインフェルノが使えるんだよ」

「リスト君が、ルシファーさんの……」

 何かに()かれたかのように、ミカがそう声に出す。

「ひょっとして、知らなかった?」

 ベルゼブブが問うと、彼女は小さく首を縦に振った。

「でも、それなら、どうしてルシファーさんは、リスト君と私を戦わせようとするんでしょうか?」

 ミカがベルゼブブとアスタロトに尋ねるが、どちらもそれに答えてくれることはなかった。

 その代わり、といった様子で、ベルゼブブが口を開いた。

「ねぇ、ミカ。何にしても、あんたが人間界に帰る方法は、ひとつしかないんだ。あたしたちは、そのためならどんなことだってする。これは、あたしらが自分で決めたことなんだよ。だから、あんたも自分で決めな。リストちゃんと戦うのか、それとも、このまま魔界の住人になるのか。まぁ、どちらにしても、明日はあたしが西の城まで運んであげるから、あんたは……」

 すると、

「キュイイイイ」

 彼女の話を遮るように、屋上テラスからプラチナの嘶きが聞こえてきた。

「ほう。プラチナも、ミカ殿の手伝いがしたいと言っておるわ」

 アスタロトが目を細めて天井を見上げる。

「ありがとう、プラチナ」

 ミカは、決意固まった表情でそっと呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ