第五章 『一騎討ち』⑧
「ねぇ、そんなことよりさ、ミカ姉ちゃんもそこにいるんだろ? 話をさせてよ」
リストがミカを指名する。
ミカは、方向定まらぬままに口を開いた。
「あの、天音ミカです。初めまして」
「あ、ミカ姉ちゃん。僕だよ、リストだよ!」
嬉しそうな少年の声が、王座の間に響いた。
「リストさんって、西のお城の?」
「そうだよ……って、そのリストさんってのは止めてよ。リストでいいよ」
「じゃあ、リスト君」
「うん、それでいい。話し方も普通でいいよ。それでね、ミカ姉ちゃんには、一度僕の城に遊びにきて欲しいんだ。僕ね、ベル姉ちゃんやアスタロトのおじちゃんより強いんだよ。きっと楽しい戦いになると思う。何だったら、全員まとめて相手してあげてもいいよ。じゃあ、待ってるからね」
そう一方的に話すと、音声はそこで途絶えた。
「まったく、あの“構ってちゃん”は……」
呆れた様子で、ベルゼブブが溜め息を吐く。
その途端、もう一度リストの声が聞こえてきた。
「あ、言い忘れてたけど、そっちの城も一分後ぐらいに破壊されるよ。もう魔法を使っちゃったから取り消せないんだ。……ごめんね」
「ごめんね、じゃないでしょ! この、馬鹿リスト!」
相手の見えない空間に向かってベルゼブブは怒鳴った。それから彼女は、杖を振って新しい箒を出すと、ミカの手を取りそれに跨った。
「皆、逃げるよ! あんたらは、アスタロトを運ぶんだよ。いいね?」
二体の魔女に彼女が命令する。
だが、
「え、あれを運ぶんですか? ……重そう」
「……汗臭そう」
魔女たちはちらりとアスタロトを見てからそう囁き合い、露骨に嫌な顔をした。
「あんたら、死にたい?」
杖先を向けてベルゼブブが脅す。
「い、いいえ、とんでもない!」
「ダイエットだと思って、頑張ります!」
慌てて両脇からアスタロトを抱え上げると、魔女たちは一目散に上空へと逃げ出した。
「さぁ、あたしたちも行くよ」
ミカを後ろに乗せたベルゼブブが箒を宙に浮かす。屋上から上空へと抜けると、そのまま北に向かって矢のような勢いで飛び出した。
さほど間を置かずして、後方のアスタロト城が轟音とともに崩壊する。
その直前、ミカは、城に向かって彗星のように流れて行く、一筋の赤い光を見た。
ミカたちは、魔界ヶ原に降り立った。そこでの決戦は、ミカとアスタロトの一騎討ちが始まった時点で既に終わりを迎えており、サタナキアに勝ったルキフグスが、その武勇伝を鼻息荒くミカに語って聞かせた。
ベルゼブブとアスタロトがミカの魔界統一を助けることを宣言すると、双方の配下の魔物たちもそれに従うことが決定した。
「さて、最後の評定は、城に戻って行うとしましょうか」
そうルキフグスがミカを促す。
「あのお城も、狙われるんじゃないでしょうか?」
ミカが、遠方にそびえる東の居城を指差した。
「いいえ。リスト様は、あの城には決して手を出しません。何故なら、誰よりもそれを欲しがっているのは、他ならぬリスト様なのですから」
こうして、城を失くしたベルゼブブ軍とアスタロト軍も引き連れて、ミカは、最後の決戦を前に、一度居城へと戻ったのだった。
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これにて第5章も終了。次回から、最終章となります。当然のことながら、最後はリスト戦です。
日々、朝晩の冷え込みが厳しくなり、気温差も大きくなっているようです。
風邪など引かれませぬよう、ご自愛ください。




