第五章 『一騎討ち』⑦
「痛いわね。少しは加減ってものを考えなさいよ」
ぶつぶつと文句を言いながら、覆い被さる瓦礫を杖で払い除け、床からベルゼブブが這い出した。
だが、目の前の光景を確かめるとすぐに、
「ミカ、勝ったんだ」
と微笑んだ。
「おう、ベルゼブブか。巻き込んでしまって、すまなかったな」
彼女に気づいたアスタロトが、実に清々しい顔を向けてくる。
「何が、すまなかった、だよ。あたしの綺麗な顔に傷がついたら、どう責任を取ってくれるんだ?」
「その時は、ワシが貰ってやるから安心しろ」
アスタロトは、城中に響く大声で笑った。
「まったく、久し振りに全力で暴れたからって、軽口叩くまでに機嫌よくなっちゃって。あんた、そんなキャラじゃなかっただろ?」
「あぁ。しかし、ここまで完全にやられてしまったら、誰でもこうなるぞ。ほら、見てみろ」
まるで自慢でもするかのように、大斧をベルゼブブに見せる。それは、柄が大きく曲がり、刃先がぼろぼろに欠けてしまっていた。
「へぇ、酷いもんだね。もう使い物にならないよ。まぁ、でも、今日のあたしは機嫌がいいからね、直してあげるよ」
そう言ってベルゼブブが杖を振る。たちまち、大斧は元の輝きを取り戻した。
「よし、これで再び戦える。ミカ殿、魔界統一への助けとして、ワシの力も使っていただきたい」
玉座に座るミカに向かって、アスタロトは手を差し出した。
「私こそ、よろしくお願いします」
玉座から下りるとミカは、グローブのように大きな彼の手と握手を交わした。
その時、突如、先の戦闘で吹き抜けとなった上空が眩いばかりに光り、遥か遠方から爆発音が轟いた。
「な、何?」
ミカが辺りを見回す。
「魔界ヶ原にいる魔物がやったのなら、サタナキアかルキフグス。だが、いくら奴らでもこれほどの力は……」
アスタロトが呟く。
すると、上空に二体の魔女がやってきた。
「ベルゼブブ様! 大変です!」
「緊急事態です!」
二体の魔女は、それぞれそう叫びながら王座の間へと降り立った。
「煩いねぇ。大声は下品だっていつも言ってるだろ? それで、何があったんだい?」
ベルゼブブが聞くと、魔女たちは小さな声で答えた。
「ベルゼブブ様のお城が」
「北のお城が、破壊されました」
「何だって!」
ベルゼブブは部屋中に響くほどの大声を上げた。
「ベルゼブブ様、下品」
「下品だよね」
魔女たちが囁き合う。
そこに、今度は、どこからともなく子供の声が聞こえてきた。
「もしもし、ベル姉ちゃん。聞こえるかな?」
「聞こえてるよ。リストちゃんだろ?」
険しい顔をしてベルゼブブが答える。
「正解。ベル姉ちゃんさぁ、ミカ姉ちゃんを裏切らなくてよかったね。もし裏切って北の城に籠もっていたら、今ごろ木っ端微塵になってるところだよ」
「……ふーん。ということは、あたしの城を壊したのは、リストちゃんだね?」
ベルゼブブの肩が、怒りでわなわなと震えている。
「え、どうして分かったの?」
リストは驚きの声を上げた。
「分からないわけがないでしょ! どうしてそんなことしたの?」
「だって、せっかく人間界から遊びにきてるミカ姉ちゃんが、いつになっても僕の城にきてくれないからさ、淋しくて」
「あんた、まさか、構って欲しくて私の城を壊した、なんて言うんじゃないでしょうね?」
「ピンポーン。大正解!」
「はぁ……」
ベルゼブブは溜め息をついた。
朝の投稿時に、2度目の更新をすると予告することを完全に忘れておりました。(この日本語、分かりづらいでしょう? ごめんなさいね)直井 倖之進です。
次回で五章も終わり、いよいよ最終章へと移ります。引き続き、よろしくお願いいたします。




