表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界への誘い  作者: 直井 倖之進
23/32

第五章 『一騎討ち』④

 午後四時五十五分。ミカたちは、魔界ヶ原でアスタロト軍と対峙していた。周囲には、背丈の低い草が生えているばかりで、身を隠すような場所は両軍ともにない。そこに、魔界特有の生温い風が吹き抜けた。

 前方に見えるアスタロト軍には、果し状を持って現れたサタナキアのような巨漢がごまんといる。その存在だけでも、こちらに与えられる威圧感は、並々ならぬものがあった。

 だが、こうして向かい合ってから約三十分。ミカたちはもちろん、アスタロト軍にも主だった動きはない。恐らくは、夕刻五時という時刻を律儀に待っているのだろう。

 そのような中で、ルキフグスは、

「サタナキア。サタナキアはどこだ? サタナキア」

 まるで呪文のようにそう繰り返しながら、目を血走らせている。

 やがて、決戦の時はやってきた。

「開戦!」

 アスタロト軍の後方から(たい)(せい)の号令轟き、同時に、斧や剣を手にした大男たちが大挙して押し寄せてくる。

 それに対し、

「見つけた! 見つけたぞ、サタナキアめ!」

 左手に杖を握り締めたルキフグスが、いの一番に飛び出した。

 続いて、ミカも風を切って駆け出す。今、彼女の右腕は、眩いばかりに赤く輝いていた。

 ミカには、守りたい命がある。それを奪われようとしているのに()(こまぬ)いているのは、正義ではない。誰にだって、絶対に譲ることのできない“道”というものが存在する。譲れないのなら、戦わなければならない。それは、魔物も人間も同じなのだ。

 人間として生まれて十一年。心優しく純粋なミカは、誰とでも仲よくしようと努めてきた。たとえ、それが、意地悪な子であっても、乱暴な子であっても。自分が我慢してさえいれば、よく話をすれば、きっと相手も分かってくれる。そう思っていたのである。

 だが、現実は必ずしもそうではない。自分の優しさのせいで、仲間が傷つく。仲間が悲しむ。

「そんなのは、……そんなのは、嫌!」

 鋭い叫びとともにミカは、赤く光る右腕を振り上げた。

 ところが、その途端、突然彼女の体がふわりと宙に浮いた。

「ミカ。あんた、何をしてるの?」

 呆れ口調でそう問う声が聞こえてくる。

「ベ、ベルゼブブさん! きてくれたんですね!」

 ミカを抱え上げたのは、北の城の君主ベルゼブブであった。

 喜ぶミカを箒に引き上げると、彼女は言った。

「あんたも、つくづくお人好しだね」

「え? どういう意味ですか?」

「あんなでかい奴らを全員相手にする必要なんてない、って言ってるんだよ。アスタロトさえ倒せば、それで終わりなんだから」

「……あ!」

 漸く気づいたのか、ミカは、はっとしたように大きく口を開けた。

「さぁ、分かったのなら城に急ぐよ。雑魚は、あたしの魔女たちと爺さんたちに任せるんだ」

 ベルゼブブが地上を杖で示す。

 つられて見下ろすと、そこには、

「行くぞ、サタナキア! モテない男の恨み、思い知るがよい!」

 そんな悲しい台詞を(こわ)(だか)に響かせ、突進して行くルキフグスの姿が見えた。

「何だか、戦うのを楽しんでいるみたい」

 見たままの感想をミカが口にする。

「そうかもしれないね。喧嘩しないと分かり合えないことって、どこの世界にもあるものだから」

 そう答えるとベルゼブブは、南の城に向かって一直線に飛び出した。


 城への道中でミカが言った。

「私がお人好しなのは認めますけど、ベルゼブブさんもお人好しですよね」

「ふん。あたしは、お人好しじゃなくて、“お魔女好し”だよ」

 照れた様子でそう返すと、ベルゼブブは一気に箒のスピードを上げた。

「きゃあああ」

 魔界の空にミカの悲鳴がこだまする。

 こうして、ミカとベルゼブブは、あっという間にアスタロト城へと辿り着いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ