第三章 『魔界の歴史』⑥
「さて、その賢きミカ様の、魔界統一へのサクセスストーリーにございますが、実際に敵するは、各城の城主、ベルゼブブ、アスタロト、リスト様です。他の魔物については、正直に申し上げて雑魚。相手にする必要はありますまい」
「分かりました。それで、その方たちの特徴は?」
「ベルゼブブとアスタロトは三代目ということもあり、容姿が初代とはだいぶ違っております。先ず、“蠅の王”との異名があるベルゼブブ。初代は名前のとおり蠅の姿をしていたのですが、孫は箒を使って空を飛ぶ魔女となりました。配下も同様の特徴を持っており、つまりは魔女の軍団にございます。当代の君主ベルゼブブは、人間の年齢にしてまだ十六と若いものの、したたかで侮れません」
「魔女も魔界の魔物なんですね」
「はい。次に、大公爵アスタロト。かつては獣にまたがり天界を駆け回っておりましたが、現在はその獣と同化し、身の丈三メートルはある屈強な戦士となりました。それゆえ、従える魔物たちも筋肉質な輩がそろっておりまして、ベルゼブブ軍と比較すると華がなく、むさ苦しくもございます。またアスタロトは、魔界では珍しく義を重んじる魔物。人間界ならば、少し頑固な中年親父といったところでございましょう」
「聞くだけで強そうですね。私が勝てるんでしょうか?」
ミカが不安そうな顔になる。
「もちろん、勝てますとも。ルシファー様のお力を使えば、何ら問題はありません」
「もし、使わなかったら?」
「その場合は、アスタロトの持つ大斧にて、刹那のうちに真っ二つでしょうな」
何が可笑しいのか、ルキフグスが肩を揺すって笑う。
「そんな……」
ミカは二の句が継げなくなった。
「まぁ、そう心配なさらずとも。ルシファー様の魔力の前に、屈せぬ魔物はおりませんから。このルキフグスを信用してくださいませ」
「……はい」
そうとしか返事のしようがなく、ミカは頷いた。
「それでは、残された最後の城主、西のリスト様について説明させていただきます。先ほども申し上げましたが、リスト様は十歳ほどのお子にございます。さりとて、子供だからと軽んじてはなりません。その魔力は、単独でベリアルの軍勢に勝利したほどに強力です。人間に近い容姿で、可愛らしいお顔立ちをされておりますが、性格はまったくの正反対。魔界のどの魔物よりも残忍で冷酷です。遠い未来の話となりましょうが、ルシファー様亡きあとの魔界の覇者は、リスト様に間違いないでしょう」
「そうですか」
「はい。それゆえミカ様、ご自身のお力を試す意味でも、城の攻略は北と南から。ベルゼブブとアスタロトを先に倒すのが賢明かと存じます。そして最後に、西の城のリスト様を」
「分かりました。そうします」
ミカは、ルキフグスの提案に素直に従った。
「では、本日の評定はこれまでと致しましょう。お疲れでしょうから、ゆっくりお休みくださいませ。それから寝室ですが、ルシファー様のお部屋をそのまま使ってよいとの許可が出ておりますので案内いたします。どうぞ」
こうして、ミカは、ルキフグスに先導され、皇帝ルシファーの私室へと向かったのだった。
王座の間と同じ階に位置するルシファーの私室。ここも一般的な部屋として考えるには不自然なほどに広かった。バスケットボールの試合ぐらいならばできそうなほどである。
部屋の中央には、キングサイズを更に二×二で並べたような巨大なベッドが置かれ、室内よりつながるドアを開けると、浴室やトイレまでもが完備されていた。
自宅二階の八畳の部屋で満足していたミカにしてみれば、快適などころか逆に落ち着かない場所であった。
まるでお化け屋敷にでも入ったかのように、恐るおそるベッドへと歩み寄るミカ。すると、その上に、ひと揃いの着替えが用意されているのが分かった。
「これは、ルシファーさんのかな?」そう彼女は思った。黒で統一されたブラウスやズボンと一緒に、病院の屋上で見たあのマントが置かれていたからだ。
しかし、よくよく見てみるとそれは違った。マントはルシファーが身に着けるにはあまりにも小さく、ブラウスも女性用として作られていたのである。
「じゃあ、これって、私の?」
そう呟くと、ミカは服を手に取った。同時に、そこに挟んであった一枚のメモ紙が舞い落ちる。彼女は、それを確認した。
『気に入るかどうかは別として、替えの衣服を準備した。戦時、マントは必ず着用すること』
メモ紙にはそう記されていた。差出の名前がなく誰が書いたのかは分からないが、恐らくはルシファーであろう。
どこかで聞いているかもしれないと考えたミカは、天井を見上げて謝意を伝えた。
「ルシファーさん。ありがとうございます。あ、それから夕食もありがとうございました。とても美味しかったです」
だが、返事が聞こえてくることはなかった。
その後、浴室でシャワーを浴びると、彼女はそれに着替えた。下着までが用意されていたことに気づいた時にはさすがに困惑したが、最長四日にもなる魔界滞在中、ずっと同じパンツというわけにもいかず、大人しくそれを穿くことにした。ただ、マントについては、室内で着るものではないような気がして、ベッドの上にそのまま残した。
そして、洗面所で歯磨きをすませたミカは、どれだけ寝相が悪くとも落ちることはないであろうベッドに横になり、すでに重くなり始めているそのまぶたを閉じたのだった。
ご訪問、ありがとうございます。直井 倖之進です。
これにて、第三章も終わりです。物語全体は六章構成になっていますので、前半が終了したことになります。
次回より、第四章。引き続き、よろしくお願いします。
どうやら、“環境依存文字”を使用すると、携帯電話で表示する際、その文字が脱字となってしまうようです。気づいたら直すようにしますが、全てを把握するのは難しいです。ご不便をおかけします。
また、本小説から、切れる箇所は短く切って更新するようにしています。『ムーン・インパクト』では一話一話が長すぎましたので、その反省からです。どちらがよいのかは分かりませんが、『魔界への誘い』についてはそうしていこうと思います。




