第三章 『魔界の歴史』②
魔界での地位は、宰相。先ほどは、城庭にひしめく魔物たちを大声一喝で従わせた。
だが、そんなルキフグスであっても、ルシファーの前では、猫に弄ばれる鼠に同じ。
ミカは、皇帝が持つ権威の底知れなさを感じ、ただ石のように固まっていた。
そこに、
「それから、ミカ」
と、その皇帝ルシファーより直々に声がかかる。
唐突に名を呼ばれた彼女は、声のするほうへと大体の見当をつけて返事をした。
「は、はい」
「貴様には伝えておかねばならないことがある。聞く用意はあるか?」
下手な受け答えをすれば、自分もペットボトルの刑。それを恐れた彼女は、緊張しながら頷いた。
「大丈夫です」
「そうか。では、先ず、貴様が承諾した魔界の統一だが、期限を決めておく。今日を含めて、四日だ」
「よ、四日? どうしてですか?」
「日数に大した意味はない。ただ貴様の母親の命、それが、本来ならば残り四日であったことからそうしたまでだ。それに、例えば期限を四年と定めたとて、そのような長い期間を魔界ですごすつもりは貴様にもなかろう」
「それはそうですけど」
同意しながらも、ミカが不安げな表情を浮かべる。
それに気づいたか、ルシファーは言った。
「案ずるな。貴様には我の魔力を与えているのだ。その気になりさえすれば、四日といわず、一瞬で片がつく」
「……はい」
胸にある正直な気持ちのまま、ミカは首を縦に振った。それは、自らの身体を以て皇帝の力の片鱗を確かめたがゆえの、確信とでもいうべきものであった。
「よかろう。では、次に、貴様も気になっているであろう人間界の現状を教えておく。現在、我は先の契約どおり、貴様の母親の病を治した」
「ありがとうございます!」
実際に確認したわけでもないのに、微塵の疑いもなくミカは頭を下げた。
「礼は要らぬ。代わりに我は貴様を貰い受け、魔界へと誘った。全ては契約に基づくものだ」
「それなんですが、私が人間界に戻れるって話、本当なんですか?」
ミカが核心となる質問をする。
ルシファーは即座に答えた。
「真だ。それが証拠に、貴様をそちらへと送ってすぐから、人間界の時間は止めてある。齢十一の小娘の行方が四日も不明となれば、さすがに不都合あるだろうと考えてな」
「あ、えーと、ありがとう……ございます」
ミカは、曖昧に謝意を伝えた。時間が止まるという状態はなんとなく想像できるのだが、経験がないため、実感が湧かなかったのである。
「構わぬ。だが、それも四日だ。もし、四日のうちに魔界の頂点に立てねば、貴様は人間界に戻ることができぬ。未来永劫魔界の住人としてすごすことになるのだ。努努それを忘れるな」
「はい、分かりました」
「では、今後の詳しい話は、そこに倒れている爺が話して聞かせるだろう。さらばだ」
そう告げると、王座の間からルシファーの気配は消えた。
恐るおそるミカが玉座から下りる。彼女は、そっとルキフグスへと歩み寄った。
「あの、大丈夫ですか?」
ぴくりとも動かないその体を、小さく揺すってみる。
すると、ルキフグスは、いきなりがばりと起き上がった。
それから、手近にあるペットボトルを引き摑み、
「ミカ様、お飲み物でございますね。どうぞ!」
と、仰々しくそれを彼女に差し出した。どうやら、先ほどの一件がよほど堪えているようだ。
「ど、……どうも」
何となく申し訳ない気持ちになりながら、ミカはペットボトルを受け取ったのだった。
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