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オークの死体を避けながら、この開けた空間に入ってきた時に通った坑道を目指して歩く。すると、それは突然起きた。
壁の一部が急に崩れ、いとも簡単に砕かれた岩が地面を転がる。
『グゴォォォオオオー‼』
頭が痛くなるほどの咆哮が二人を襲った。
「__ぐぅ‼」
「きゃっ‼」
崩れた壁の周囲は砂ぼこりが舞い、岩が砕けて転がる音がしだいに鳴り止んでいく。そして、その姿が現れた。
先ほどまでのオークとは比べものにならないほどの巨体が二人と対峙する。五メートルは優にあるであろう。
肌色は他のオークよりもやや赤黒く、その威圧感は圧倒的に優っている。
「冗談じゃないぞ……」
「フェイト……。どうする?」
巨体がゆっくりとフェイト達めがけて歩きだす。その足が地面を踏む度に、地鳴りが起き、地面や壁が揺れた。
「前衛は俺がする。イレーナは後方で__‼」
「____‼」
突然の攻撃。
オークは、その巨体からは想像もできないほどの勢いで飛び跳ねてきた。
口を大きく開け、フェイト達めがけて落ちてくる。
「まずい‼ 逃げろイレーナ‼」
「フェイト‼」
『グガァァアー‼』
巨体が地面に落ち、凄まじい音が鳴り響いた。地面がひび割れ、衝撃で細かく砕けた岩が周囲に飛散する。
「きゃあぁぁぁあああー‼」
「イレーナァァアー‼」
吹き飛ばされたフェイトの耳に聞こえたのは、イレーナの悲痛な叫び声。
「ぐはっ‼」
フェイトは勢いそのままに地面に落ちる。額から血が流れ、身体中に激痛が走った。
「ぐっ……。イレーナー‼」
イレーナの姿が見当たらない。
巨体のオークは、ゆっくりと地面から起き上がる。すると、その巨体の近くで、倒れたイレーナを発見した。
「__なっ‼」
青い騎士装束は血に濡れ、力無く倒れている。
「よくも……イレーナを……」
静かに立ち尽くすフェイトは、腰に吊るしたバスタードソードを抜刀した。
「殺す‼」
グローブからワイヤーを放ち、オークの巨体に接近する。オークは巨大な腕を振り下ろしてきた。
「うおぉぉぉおー‼」
しかし、フェイトはかわさずにその拳を剣で真正面から受け止めて叩き斬った。
『グゴォオァァアー‼』
間髪いれずに何度も片腕を斬り裂き、すれ違いざまに肩を斬る。血しぶきが舞い、それがフェイトを濡らした。
一瞬、動きが止まった隙を見逃さない。オークの背中に飛び移り、バスタードソードを突き刺す。
『ガアァァアアアー‼』
たまらずオークは雄叫びをあげた。
「ぬあぁぁぁあぁああー‼」
二本の短剣を引き抜くと、足から頭に至るまで何度も何度も斬り裂き、その度にオークは雄叫びをあげる。戦闘は、もはやフェイトの一方的な殺戮と化していた。
「死ねぇぇええぇえー‼」
フェイトが首を斬り裂いたのがトドメとなり、巨大のオークは絶命し地面に音をたてて倒れる。
「はぁ……はぁ……」
戦闘を終えたフェイトは、両手に握る短剣を力尽きたように地面に落とした。
「イレーナ……」
無我夢中でイレーナに歩みよる。イレーナは意識が無く、息があるように見えない。
心臓がズキズキと痛む。呼吸すら上手くできない。
「イレーナ……。イレーナ‼」
フェイトは力無く倒れているイレーナを抱きかかえる。
「イレーナ‼ イレーナ‼」
その瞬間だった。
「うぅっ……」
イレーナの息がある。
「イレーナ‼」
「フェ……イト……」
「良かった……。死んだかと……」
「お……けが……だけど……ね……」
身体が震え、恐怖感や安堵感からくるどうしようもない感情が涙となって出てきた。
「ない……て……の……はじ……めて、見た……」
「待ってろ。すぐにここから出してやる」
「うん……」
イレーナは返事をして瞳を閉じた。だが、しかし、確かに息はある。
フェイトは、イレーナを優しく抱き上げる。そしてゆっくりと出口に向かって歩み始めた。