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劣等剣士の物語(仮)  作者: 清乃 誠
第一巻 一話 魔狩りと騎士
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5ページ

 渓谷に流れる川のせせらぎと、時折聞こえてくる鳥や虫の鳴き声。そして木々が風に揺らされる音。


任務中でなければ、日差しの良い場所で昼寝をしたいほどの心地良さだ。


そんな渓谷に生い茂る木々の中を、フェイトは颯爽と飛んでいた。


 フェイトの両手に装備した籠手は普通の籠手ではなく、《ワイヤーグローブ》と呼ばれる装備だ。高速で伸縮するワイヤーを備えた籠手で、その機能は不限石である《動力石》を使う事で可能にしている。


 ワイヤーの先端には鏃を付けていて、ワイヤーを発射させて突き刺し、そのワイヤーを巻き取ることによって高低差を無視した動きを可能にした珍しい装備だ。


 魔石には二つの種類がある。


【不限石】


 不限石とは、魔力と呼ばれる不可視体エネルギー《マナ》の秘めたる量が膨大で、一度に全ての魔力__一定以上の魔力を継続して使わない限り半永久的に消滅しない魔石である。


 代表的な魔石は、浮遊石や動力石だ。


浮遊石は主に飛空艇にしか使われてないが、動力石は様々なものの動力として使われて、フェイトのワイヤーグローブもそれに含まれる。


主なものとしては、飛空艇などの乗り物だが、その他にも電気、水道、ガスなどライフラインを支える施設の動力原として利用されており、いわば人々の生活に必要不可欠なものだ。


【有限石】


 マナの量は様々だが不限石ほどの魔力がない石で、魔力には限りがあり、使用限界がくると消滅する石で、基本的には魔導石と呼ばれる。


 自然や人間以外の生物はマナの干渉を受けていて、人間はマナの干渉を受けないのだが、魔導石からマナを取り出し体内に宿すことはできる。


魔法とは、その過程で魔導石からマナを体内に取り込み、魔力を己が力として行使したものなのだ。


しかし、人間が魔導石からマナを体内に取り込める量は人それぞれで、わずかしか取り込めない者もいれば、膨大なマナを取り込める者もいる。


 ネグロイト村が所有する魔石採掘場は渓谷の奥深く、山のふもとにあるらしい。


 周辺を警戒しながら木々をぬうように飛んでいると、それらしい場所を見つけた。


 切り立った崖を囲うように木々の空けた場所で、周辺は木材で造られた低い壁で囲われている。崖には大きな穴がいくつもあり、その穴は木枠で補強されている。おそらく採掘場の入り口だろう。


 木組みの建物や井戸なども見当たり、一見すると一つの小さな集落みたいだ。


 フェイトは木の枝上で止まり、しゃがみ込んで採掘場を偵察を始めた。だが、ここからオークの姿は確認できない。


「中に居るな……」


 しばらく偵察したが、特に動きがなかったので枝上で休むことにした。


 時折、採掘場に視線を向けたりしながら休んでいると、騎士達が採掘場に通づる道を歩いてきてるのが見えた。


「来たな……」


 ワイヤーグローブを使って枝上から地面におりる。そしてイレーナ達と合流した。


 騎士達は一応に嫌悪感に満ちた表情をフェイトに向ける。


「なんでこんな奴と……」


 そんな事を呟いているオーガスタにいたっては今にも殴りかかりそうなほどの剣幕な表情だ。


「待たせたわね」


 小隊と少し距離をとって立っているフェイトに歩み寄るイレーナの言葉に、フェイトは無言で頷く。


「オークの姿は確認できなかった。おそらく採掘場の中だな」


「なるほど__となるとちょっと厄介ね」


「ああ。細く狭い通路であの巨体と対するのはリスクが高い」


 オークは大きいもので三メートルにもなる魔物であり、その巨体からは想像できない速度で攻撃をしてくる。


採掘場の狭い通路で道を防ぐように立ち尽くすその巨体と戦闘になればこちら側が圧倒的に不利。ましてや前後を防がれ、挟み撃ちにされれば一溜まりもない。


逃げることは疎か、攻撃をかわすことさえもできず消耗戦になってしまう可能性が高いだろう。


「どうする?」


 無意識に前髪を人差し指でいじるイレーナにフェイトが問いかける。イレーナは無意識に前髪をいじる癖をしていたことに気付き、とっさにいじる手を下ろした。


「そうね……」


「俺が偵察をしてこようか?」


「それは駄目。フェイトはほっとくと無茶をするから」


「小隊長__少しよろしいですか?」


 そう言って歩み寄ってきたのはオーガスタだった。


「どうしたの? あっ__彼はこの小隊の副隊長なの」


 オーガスタに返事を返したイレーナは、オーガスタについてフェイトに軽く説明した。


「彼が一人で中に入ると言ってますので、この際彼にオーク共を採掘場の外におびき出してもらうのはどうですか?」


 提案するオーガスタの顔は実にいやらしい顔をしている。他の騎士達もクスクスと笑っていた。


「なら、貴方が一人でその役目を担ってみる?」


「なっ__俺は無理ですよそんな自殺行為」


「ならその提案は却下よ」


「ですが小隊の多くは彼とは行動したくないと言っています。オークではなく、そこの仲間殺しに殺されかねないと」


 オーガスタがそう言いきると、他の騎士達がこらえていたのを吹き出すように笑いだした。


「ちょっと貴方ね‼」


 イレーナが怒鳴りだし、怒りに満ちた表情でオーガスタに歩み寄る。


「なっ____」


 イレーナを制止するフェイト。


 オーガスタを見つめるフェイトの表情は一見すると無表情のようだが、まるで森の暗がりから静かに獲物を狙う狼のような静かな殺意と冷たさのようなものを感じさせる。


「……なんだよ」


 わずかに顔を引きつらせたオーガスタがフェイトに言った。


「俺がおびき出すからお前達は外で待機していろ」


 フェイトは一言だけそう言うと、採掘場に向かって歩き出した。


「だってさ」


 笑みを浮かべてそう言うオーガスタと、笑いだす他の騎士達。


「えっ__ちょっと待ってよ‼」


 イレーナは振り返るようにフェイトを見て声を上げた。そしてフェイトを追いかけ出す。


「小隊長__どこに行かれるんですか⁉」


 オーガスタの言葉を聞いたイレーナはとっさに足を止める。


「少しの間、隊の指揮は貴方に任せる。私は彼と共に行動するわ」


「なっ__何を言ってるのですか‼」


「これは命令よ。逆らえば命令違反で貴方を小隊から外します」


「ぐっ__了解……しました……」


 悔しさをにじませたオーガスタが渋々といった感じで返事をする。


 返事を聞いたイレーナはすかさずフェイトを追いかけた。


「あんな奴に……」


 オーガスタは怒りを抑えきれず、道端にころがる石を足で蹴って怒りをぶつけた。

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