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劣等剣士の物語(仮)  作者: 清乃 誠
第一巻 二話 エミリア小隊
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19ページ

 エミリア小隊は比較的に若い騎士で構成された小隊だ。一番下の年齢はフェイトで十五歳、上はエミリアやロードメルトで二十三歳。その間にちらほらといった感じで実に若いメンバーである。そのおかげなのか、フェイトが隊に馴染むのに時間はあまり掛からなかった。


 エミリア小隊の仕事は主に王都内での仕事が多く、魔物退治の任務などは週に一度あればいいくらいである。ロードメルト副隊長率いる二班は貴族地区の見廻り、ランバルト率いる三班は一般地区の見廻りが主な仕事なのだが、エミリア小隊長率いる一班だけは見廻りの仕事ではない。


フェイトは最初これが騎士の仕事なのかと驚いた。どんな仕事かと言うと……。


「おーい、洗い物干し終わったかぁー?」


 洗い終わった服や下着、ベッドのシーツなどを日当たりの良い芝生の広場に設置された物干し竿に引っ掛けているフェイトにルードが声をかけてきた。


「はーい。もうすぐ終わりまーす」


「りょーかーい。それ終わったら食事なー」


ルードはそう言って建物の中に入っていく。フェイトは最後の洗濯物である小さな服を物干し竿に引っ掛けると、ルードが入って行った建物を見上げた。


 鈍色の石壁に大小様々なステンドグラスの窓。大きな建造物の一番上には立派な尖塔があり、そこには金色に輝く大きな鐘が吊るされている。この建物は教会だ。


 一班の仕事はこの教会での仕事だった。この教会は孤児院も兼ねていて、多くの子供達が聖職者と暮らしているのだ。


孤児院の運営にはエミリアの家が絡んでいて、それが理由だと入隊して間もない頃に教えてもらった。


エミリアの家は貴族らしく、シルバーレイク家は戦争などあらゆる理由で親を亡くした子供達の為に率先して孤児院などを運営するなど力を入れているとの事だ。


シルバーレイク家の長女であるエミリアは、そんな家柄の理由などもあり、騎士でありながら孤児院の仕事を手伝っていると聞いた。


「よし、戻るか」


 先程まで大量の洗濯物が入っていた複数の籠を重ね合わせて一つにまとめ、それを両手で持ち上げる。そして教会の中に入った。


「あらあらご苦労さん」


 中に入ると黒い祭服を着た四十代くらいの女性が居て、フェイトはその女性に持っていた籠を渡す。


「洗濯物は全部干し終わりました」


「いつもありがとうね」


「いえいえ」


「食事の用意はできているから行ってらっしゃい」


「ありがとうございます」


 女性にお礼を言って廊下を歩く。しばらくすると子供の声で賑わった食堂についた。子供達はそれぞれにテーブルを囲って食事をしている。中にはもう食べ終わったのか通路で追いかけっこをしている子供などもいた。


「おーい、こっちこっちー!」


 エミリアの声だ。フェイトが視線を向けると一番奥のテーブルを囲うようにエミリアとロメルダ、ルードが座っている。ちなみにロメルダとルードは騎士団宿舎の時のようにいちゃついたりはしていない。時と場所を少しはわきまえられるみたいで、隣同士に座るぐらいだ。


まぁ、子供達が大勢いる食堂で勝手にいちゃつかれても困るし、教育上問題だろう。フェイトはエミリア達に歩み寄って席に座った。


 食事はパンに豆を使ったスープ、野菜炒めなどで栄養の取れる温かい料理だ。


「ご苦労さん」


 エミリアからの一言。フェイトは短く返事をしてスープとパンに手をつける。


「だいぶん慣れてきたんじゃない? フェイト」


 ロメルダが笑みを浮かべながら言ってくる。


「そーですか?」


「けっこう良い感じじゃん。家事ができる男はモテるよーフェイト」


「茶化さないで下さいよ」


「あ! ロメルダがフェイトに色目を!」


 勝手に一人で焦り出すルード。


「もう、そんな事ないよルーったら」


 目の前で軽くいちゃつきだすロメルダとルード。


「やれやれ。あんまり子供達の前で変な事しないで下さいよ?」


 フェイトは冗談交じりに言ってあげた。


「そういえばエミリアさん」


「どうしたの? フェイト」


「ネメリアさんからの伝言で、子供達が勉強に使っている紙や鉛筆がそろそろ補充しないと不足しそうとの事です」


「うん、わかったわ。家の方に申請書送るわね」


「お願いします」


 ネメリアという聖職者の女性からの伝言を伝える。その後も仕事の話や軽い雑談を四人でしながら食事をしていると、一人の女の子がフェイト達に近づいてきた。


「おねーちゃん」


 白髪はくはつの可愛らしい少女で、声をかけられたのはエミリアだった。


「どーしたの? イレーナ」


 白髪はくはつの女の子の名前はイレーナ。歳はフェイトよりも三歳年下で孤児院の中では年長者の方だ。エミリアとは長年の付き合いがあるだけで血の繋がりは無い。


「この後の自由時間なんだけど……」


 イレーナはやや下を向いてもじもじとしている。


「大丈夫よ。練習に付き合ってあげる」


「やったー! ありがとーおねーちゃん!」


 イレーナは嬉しそうにはしゃいでいる。よほど嬉しかったのだろう。練習というのは剣術と魔法の練習の事だ。エミリアいわく、イレーナは剣術に興味があるみたいで、ある日突然教えてほしいとお願いしたそうだ。その過程で風魔法の素質がある事が分かり、魔法も教えていると聞いた事がある。


 この孤児院では昼食の後は晩御飯までの間自由時間になる。勉強は午前中だけ。その自由時間を使ってエミリアはイレーナに教えてあげているのだ。


「絶対だからね⁉︎ 外で待ってるー!」


 イレーナはそう言い残してはしゃぎながら外に出て行く。


「こらこらー! 気が早いよー!」


 そんなイレーナに向かってエミリアが声を出すのだが、イレーナの姿はもう消えていた。


「イレーナちゃんは今日も元気ですねー」


 ロメルダのその言葉にルードは無言で頷いている。


「まったく仕方ない子ねー。フェイト、後片付けお願いして良い?」


「わかりました」


「ありがとね」


 エミリアはそう言って立ち上がると食堂から出て行った。その後、食事を終えたフェイトとロメルダ、ルードは子供達が食べ終わった食器の片付けやテーブルの拭き掃除などをする。それが終わると自由時間に外で遊ぶ子供達の見廻り警護だ。


子供達は基本的に教会の敷地内でしか遊んではいけない。敷地の外は危険だし、フェイト達を含め大人達だけで見て回るのにも限界があるからである。


 フェイトはロメルダとルードの二人と別れて教会の敷地内を歩く。道中で子供に声をかけられて一緒に遊んだり、怪我をした子がいたら教会まで背負って連れて行った。聖職者は治癒魔法に秀でた人が多いので、軽い怪我ならすぐ治せるのだ。


一通り巡回して安全を確認したフェイトは、興味本位でエミリアとイレーナが普段練習に使用している場所に向かってみようと思った。その場所は教会の敷地内の端に位置する小さな森の中だ。フェイトがその場所に向かうと二人の練習に勤しむ声が聞こえてきた。


「その調子よ! もう一回!」


「うん!」


 エミリアとイレーナはお互いに木刀を持っていて、その木刀を交えている。剣術の練習のようだ。フェイトはその光景を見ながら日陰を探し出すと、一本の木の下で座った。


「よし、少し休憩しましょーか」


「えー! まだやりたいよー!」


 エミリアの提案に駄々をこねるイレーナ。


「えーい駄々っ子はこうだー! エア!」


 エミリアがそう言うとイレーナの身体の周りに風がまといだした。そしてイレーナの身体が地面から離れて浮かびだす。エアは風魔法の基本の一つ、浮遊魔法だ。術者が自分や行使した相手の身体を浮かせる魔法で移動手段として使われる。


エアは騎士や衛兵として働く者には必須な魔法で、特に重たい鎧を着込んだ衛兵にとっては一番に重宝する魔法でもある。エアが使えなければ重い鎧を着て動き回るのはきわめて辛いだろう。


「あはははは! ちょ、おねーちゃん!」


 エアをかけられて浮かぶイレーナは楽しそうだ。


「はい、休憩するよー」


 エミリアはそう言ってフェイトに歩み寄ると、すぐ横に座った。イレーナはこちらには来ず、浮遊魔法で浮かんでいる事をいいことにその場ではしゃいでいる。


「ほんと若いわー。若さ怖い」


 笑みを浮かべるエミリア。


「何言ってるんですか。エミリアさんだって若いですよ」


「いやーあの子には体力的に負けるわ」


「それはそれは」


「あの子、吸収が早いわ。魔法のセンスもあるし将来抜かされるかもね」


「ご冗談を」


 そんな他愛のない話をしているとイレーナが浮遊したまま近づいてきた。


「あ! おねーちゃんといつも一緒にいる騎士さんだ!」


「こんにちは」


 フェイトはイレーナに挨拶をする。イレーナの無邪気な笑顔を見ていると何故か自然と笑みがこぼれた。


「騎士さんはどんな魔法が使えるの?」


しかし、イレーナのその言葉で表情が固まってしまう。愛想笑いも難しい。その様子に気づいたエミリアは二人の間に割って入った。


「フェイトはねー剣術が凄いんだよー?」


「え、そうなの⁈ おねーちゃんよりも上手い⁈」


「私よりも上手いかもね」


「すごーい!」


「あれだったら、このお兄さんと一緒にここで見ててあげるから素振りしてごらん」


「わかった!」


 イレーナはそう返事をして離れた場所まで移動すると、持っていた木刀で素振りを始める。合間に突き攻撃なども行なっていて、さすがはエミリアの教え子だと思った。


エミリアはエストックという突き攻撃に特化した剣術の使い手なのだ。そのエミリアが剣術を教えるとなると、自然とエストックの剣術を身につけるもの。


「この前の魔物狩りの任務の時の話、ロードメルトから聞いたわ」


 エミリアが何か言いたげに話しだした。フェイトは無言でその言葉を聞く。


「支援魔法をかけようとしたら貴方に謝られたって」


「…………」


「魔法が使えない事……気にしてるのね」


「それは、その……」


 エミリアの言葉は深くフェイトに突き刺さる。自分が悩んでいた事を的確に言ってきたからだ。


「貴方が小隊に来る前ね。一人無茶苦茶な奴がいたの。とんでもなく無茶苦茶な男」


「無茶苦茶な男……ですか?」


「そう。私とロードメルトの同期でね。自己中心的でやりたい放題。いつも注意してたんだけど、ある日それが原因で隊の仲間が危険な目にあってね」


「…………」


「上に掛け合ってその男を脱退処分にしたの」


「それは仕方ない事だと思います」


「うん。それでね、補充する人を決めようとしていた時に戦闘試験を受ける貴方を見たの」


「________!」


「ロードメルトの案でね。どーせなら新人を見てみるかって誘われて戦闘試験を見学してたの。驚いたわ。戦闘試験で魔法を使わずに勝った人なんて見た事も聞いた事もなかったもの」


「それは、その……運が良かっただけです」


「そんな事ないよ、凄かったもん。それでロードメルトと二人揃ってあの子だ! ってね」


「…………」


「私達はね……フェイト。貴方の剣の腕に惹かれて貴方を小隊に入れたいと思ったのよ?」


「________!」


「魔法が使えないならそこは私達がカバーする! 貴方はその磨かれた剣の腕で仲間を護る! それでいいじゃない。お互いに足りないところを補い合う、それが仲間でしょ?」


「エミリアさん……」


「貴方はもっと自分に自信を持ちなさい! 私達は貴方の剣術を頼りにしてるんだから! もーそんな暗い顔しないのー!」


 エミリアはそう言って両手で頭をゴシゴシと雑に撫でてきた。無邪気な笑顔で。まるで何も心配ないよと言っているかのように。


「ちょ! エミリアさん⁈ わかりましたから! ごめんなさい!」


「ほんとに分かったのかー⁈ こんにゃろめー!」


「どーしたのおねーちゃん!」


 イレーナが気になったようで歩み寄ってくる。


 エミリアの言葉はフェイトの心の中にあった悩みを一気に吹き飛ばしてくれた。とても暖かい言葉で……とても嬉しい言葉で……。


揉みくちゃにされるフェイトは、笑顔いっぱいの表情になってエミリアに謝罪の言葉を繰り返すのだった。

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