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人間は圧倒的な力の前では無力だ。
奴は大地を割り、木々を薙ぎ倒す。
抗い、逃げ惑う人間達の悲鳴が聞こえてくる。俺は彼等の身体が潰され血飛沫が舞う様を目の当たりにしても尚、身体が動かず何も出来ないでいた。
恐怖と絶望に打ち拉がれ、その光景を目に焼き付ける事しか出来なかったのだ。
次第に薄れていく意識。目を覆いたくなる光景。漂う異臭。吐き気。
意識を取り戻した時には人の形を失った肉塊が散らばった地面に倒れていた。
身体を濡らす赤黒い体液から肌へと伝わる生温かい温度。それが次第に冷めていき、熱を出した時に感じるような悪寒と、今にも気を失いそうな程の激痛が全身を襲う。
「みんっ……っなぁ……」
声がしっかりと出ない。
どれくらいの時間が経っただろう。
俺以外に誰か生き残った人はいないのか。
何も分からない。
茫漠とした不安が心を支配し、その後に残ったのは……無力感だけだった。