置いてきぼり
女の子らしい、丸っこくて読みやすい字でびっしりと書きこまれたノート。
色とりどりのペンでマークして、先生の無駄話まで書き込まれている、可愛らしいチェックの表紙のノート。
やはりテスト前は早紀のノートを借りるのが一番だ。見やすいし、授業を聞いていなくてもこれを読めばだいたい理解できる。
半分以上は写し終わったものの、全て写し終えるまでにはまだまだ時間がかかるだろう。
後何ページ位あるのだろう、ふと思ってノートをパラパラとめくってみた。
1、2、3……と、順に数えていた手をとめる。
中に挟まれた1枚の紙。
プリント、だろうか?
けれど、これは厚紙みたいだし、厚紙のプリントなんて貰った覚えがない。
怪訝に思いながら裏返すと、下手くそな字で書かれたシンプルな8つの言葉が目に入った。
付き合って下さい
見てはいけないものを見てしまったような気がして、私はパタンとノートを閉じた。
そういえば早紀、私に貸す前にも誰かに貸していたんだったっけ。
確か、隣のクラスの……そう、間宮とかいう男子。がっしりした体格で、柔道部の部長か何かだったはずだ。
そうか、間宮が。
私はくるくると鉛筆を回した。
別に間宮のことが好きなわけでもないのに何となく気に入らない。
男子に告白された早紀に妬いているのだろうか、私は。
ううん、違う。きっと逆だ。
なんだか、早紀が遠くに行ってしまう気がするのだ。
毎日、馬鹿話をしてわいわいやっている今の日常が、遠くなる気がする。
よく分からないけど、そんな気がした。
私はもう一度ノートを開いた。多分、早紀はまだこの手紙を見ていないだろう。
8文字だけが書かれた厚紙を抜いて、ぐしゃりと握りつぶした。
ぐしゃぐしゃになった紙屑はゴミ箱に捨てて、またノートを写しはじめる。
ほっとしたような、情けないような、よく分からない気持ちが私の中で渦を巻いている。
それに気付かないふりをして、私はノートに書かれた文字にだけ意識を集中させることにした。