想うより他に望みはしない
※同性愛
好きだとか、愛してるとか、そんな陳腐な言葉を並べ立てても何の答えも見つからない。
そういった言葉は、世の女性を喜ばせる為の決まり文句のようなものだ。
つまり、今の俺には必要のない台詞。
俺が気になっている人物は男なのだから。
この歳になるまで、同性に恋愛感情を覚えたことなんて、これっぽっちもなかった。
高校時代、クラスには女みたいに綺麗な顔の男子もいたが、そういうやつにだってちっともなんともなかったのだ。
女遊びだって、していないとは言い切れない。いや、どちらかと言うと結構遊んでいる方だろう。
異性に興味がなかったわけでも、同性に興味があったわけでもなかったし、今だって言い訳のようにとれるのかもしれないが、自分はそういう類の人間ではないように思うのだ。
今自分が抱いている感情もそれが恋愛感情なのか、はっきりとはわからない。
もしかしたらそれは、ただの友情の延長線にあるのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
その境目はひどく曖昧で、自分でもはっきりと線を引くことは出来ない。
今自分ではっきりと分かっている事は、それこそ好きだとか愛してるだとかそういったパターン化されたようなものにはおよそ当てはまらないものだ、ということだけ。
ただそれだけだった。そしてこれからも自分にはこれ以上のことは分からないのだろう。なんとなくそう確信していた。
だから、考えるのはやめにしよう。何度そう決めたかしれないが、今度こそ、もうやめにしよう。
ああだこうだと考えたって、答えなど出るはずもないのだ。
それに、この想いを伝える気もない。伝える言葉も、伝えられるだけの勇気も持ち合わせていない。
きっとこんなことを伝えても彼は困るだけだろう。
彼は優しすぎるほどに優しいから、悩ませてしまうだろう。
清んだ瞳を曇らせて、考え込んでしまうんだろう。
そんなことは望まない。
あの笑顔を近くで、今のところ一番近くで見ていられるというだけで充分だから。
唯一無二の親友という今のポジションも、それなりに気に入っている。
たとえ伝えられなくても、想うだけならどれだけだってタダだよな、そう自嘲気味に呟いて目を閉じる。
まぶたの裏にぼんやりと、いつもの優しい笑顔が見えた。