第4話 竜穴へ
職員室に呼び出しを喰らった次の日。
俺はアニーに電話をして、今日は学校を休むから担任に伝えてくれ、と頼んだ。
「ハア? 何言ってるの! 召喚のことで落ち込んでるんだったら、ちゃんと学校に来なさいよ! 協力してあげるから」
すっげえ怒鳴られた。受話器がぶっ壊れるかと思ったぞ。
「いや違うんだ」
「何が違うのよ。昨日呼び出されてなんか言われたんでしょ」
「す、するどいな」
「だれでもわかるわよ」
アニーはあきれたように言った。というか段々俺に対する態度が荒くなってないか。
何日か前までは敬語だったのに……年上を敬え、年上を。
「それで、結局どうなったの? 」
俺はアニーに昨日の職員室での顛末を話した。
全てを聞き終わると妙に落ち着いた声で言った。
「なるほど。あんたには時間が無いわけね。6日間で何とかしないといけないと?」
「ああ」
「今日は、実技もないから学校にいても時間を無為に消費するだけということね。分かったわ、サイト―に言っといてあげる」
なんだ意外と物わかりがいいじゃないか。
「ありが――」
「そのかわりっ!」
大声で付け加えられる。
「絶対何とかしてくること。そして六日後には全力で私と勝負することっ!分かったわね!」
そこで通話は終わった。
アニーの大声で耳鳴りのする右耳をを抑えながら、俺は苦笑した。ありがとう、アニー。
俺は自室にこもってしばらく考えた。
どうすればいいのか?
まず俺には召喚の才能がない。それは認めよう。現実逃避したって始まらない。
ならどうすべきか。俺に今できる最善をするべきだ。
思うに、俺は魔力のコントロールが苦手なのではないだろうか。
単純な魔方陣も維持できないほどに。
召喚するだけなら魔力は、ほとんど必要ない。
そんな程度の微小な魔力も扱えないとなってくると、召喚は無理ではないのか。
召喚士は、人間が持つごくわずかな魔力を用いて、魔方陣を媒介し、魔種たちの世界――幻想領域と、現実世界とをつなげる。
実はこの幻想領域について、人類はほとんど未知の領域だ。
こちらは魔方陣描いて、言い換えれば一方通行の扉を作っているだけに過ぎない。
幻想領域とは、この魔方陣の向こうにはきっと魔種たちの世界が広がっているのだろう、という推測にすぎない。
おかしく感じるかもしれないが、魔種達を生み出したのはほかでもない俺たち人類だ。
人は伝説や物語の中でそれを生み出し、後の世代がゲーム、漫画、アニメに引用した。
その当時の人類には知る由もなかっただろうが、位相を違えた空間では、俺たち人類が考えた空想が力を持ち始めていたのだ。
その空間に満ちる未知のエネルギーは、形無き空想に力を与え、空虚な存在を強固なものとして、魔種という存在を具現化したのだ。
だから魔種たちは、元となった設定に忠実で、姿かたちも設定どうりだ。
日本の、擬人化、美少女化をも生み出した変態クオリティだって反映されてるんだろう。
小田桐なんてそれが目的だしな。
俺もそういうの無いとはいわんが。
話が逸れてしまったが、魔方陣を使えないということは、幻想領域に干渉できないということ同じだ。
これではどうしようもないじゃないか。
一人悪態をつく。
「せめて、マップをモンスターがうろつくみたいに、魔種がその辺をうろついていればなあ……」
……ん? まてよ、マップ? うろつく?
ある! あるじゃないか!
わざわざ召喚しなくても、魔種がうろついている御あつらえ向きの場所が!
それもすぐ近くに!
そうと決まれば即行動。
一時間後、俺はフル装備で、バスに揺られていた。
フル装備とは野営準備含め携帯できる衣食住だ。
武器なんて持ってきていない。そもそも持ってないし。
向かう先は、竜穴。それも学校からほど近い第三竜穴。
竜穴は日本には3か所あって、今から向かうのはその中でももっとも新しくできた竜穴だ。
竜穴とは大気中に満ちる魔力の特異点のことで、魔種の自然発生が起きやすい。
竜穴自体が巨大な魔方陣の代わりをしているという。
ゲーム風に言えばモンスターがポップしやすいポイント。
人から逃げて野生化した魔種も、なぜかは分からないが集まりやすい。
友達でも探してんのかな。
要するに、魔種取り放題だぞ、やっほーい、ってこと。
でも今回、そう簡単にはいきそうもない。
いくつか問題がある。
まず一つ。
竜穴は、国が管理していて、一般人は入れない。
危険だから、というのが理由らしいが、竜穴内部の情報が全く開示されないのをみると、政府には何か裏があるのではと、俺は疑っている。
もう一つは、魔種を見つけたからと言って、はたして契約可能なのかという疑問があることだ。
通常の召喚の場合は、召喚者と魔物の周波数があっているのでぼんやりとなら、意思が伝わってくるらしいが、野生の魔種だとそうもいかない。
まあこれは、実際にやってみないとなんとも言えない。
事前に調べたところ、野生の魔種と契約したって例が一つもないってのが不安だけどな。
そうこう考えているうちに、竜穴にいちばん近いバス停に着いた。
ここからは少し歩く。
20分ほどで竜穴の目の前にたどり着いた。
看板にご親切に「ここは竜穴です」と書いているはずもないが、眼前に広がる連峰を覆うおどろおどろしい色の雲を見れば、ここがもうただの土地でないことなんて一目瞭然だろう。
竜穴周辺は4メートル程の頑丈そうな柵にぐるりと囲まれていて、入れない。
どうやって入ろうか?
最初は、雲に気を取られて気づかなかったが、すぐ近くには、詰所のような建物があり、そこからは竜穴に入れそうだった。
もっとも、人に見つからないようにしないとな。
コソコソと詰所に近づき、換気用に開けていたのだろう小窓から中をのぞいた。
呆れたことに本来見張ってないといけないはずの衛視は寝ていた。
まあ、お昼すぎだしな。俺もこの時間帯はいつも眠い。
それにしてもラッキー。
俺は再びコソコソしながら、見事(?)竜穴への侵入に成功した。