第1話 魔種と人と
初投稿です。過度な期待はしないでください。
時々改訂していきます。
不定期更新です。
※序章ではヒロインは登場しません。世界観の掘り下げが主となります。
魔物という存在がある。その名の通り彼らは魔の物。ありえない姿をし、ありえない生態を持つ。だが彼らは存在していない。ごく限られた世界をのぞいては。
あなたはR P Gをプレイしたことがあるだろううか。
ほとんどの人がハイと答えるだろう。そこでは数多くの魔物たちが創作され、跋扈している。
小説や漫画にだって彼らの姿はみられる。彼らは時として冒険者を襲い、時として英雄譚に色を添える。もはや彼ら無しでは幻想は物足りないとさえ言える。
しかしそれは幻想であり、現実ではない。人の無限の想像力が生み出した虚構に過ぎない。だからこそ、人は魔物という存在に惹かれ続けるのかもしれない。
本のまえがきはそんな言葉で締めくくられていた。
「まさかこの作者も、こんなことが現実になるとは全く思ってなかっただろうな」
俺、檜山小次郎は、先ほどまで開いていた本を目の前の書架へゆっくりと返した。本のタイトルは、「ファンタジーと魔物」半世紀も前に書かれた本だ。
ある春の休昼下がり、俺は、学校が与えた約2週間の春休みの使い道を真剣に思案していた。
書店から出ていく俺を防犯対策の「カーバンクル」がじっと見つめていた。額の赤石がきらりと光ったが、眠そうにあくびを一つすると子猫ほどの小さな体をレジカウンターのそばでまるくした。
店番犬ならぬ番カーバンクルというわけか。後ろで寝ているおっさんが店主なのだが、おそらく彼の魔種だろう。「彼の」というのは彼が召喚し、彼が手懐けたという意味だ。
21世紀も末になって人が魔種を使役するのも珍しいことではなくなった。
人類が初めて魔種に遭遇したのは今から50年も前になる。ほかでもない我ら日本国のある研究チームが召喚に成功した。
これは意図したことではなく全くの偶然の産物だが、研究チームは直ちにこの事実、すなわち魔種(当時の呼び方では魔物)の存在を全世界へと公表した。
当時は世界中が驚愕に包まれたことだろう。当時を少し見てみたい気分。
そこから10年もしないうちに人類は魔種を召喚する技術を開発した。科学技術の停滞という犠牲を払ったにしろ、これは驚異的といえるだろう。
人々がこんなにも魔種の研究を推し進めたのには理由がある。
ひとつは、魔種の存在が人々の好奇心をかき立てたからであるが、もう一つの理由はもっと切実で利己的だ。
それは、当時問題となっていたエネルギー枯渇問題への一助とするという思惑だった。
魔種たちが行使する魔法は、従来のエネルギーよりもずっと扱いやすい。
そしてその思惑どうり、人類は現在、召喚技術の恩恵を享受している。
「明日はいよいよ、召喚の日だ」
自室のベットの上で独りごちる。思わず口に出してしまうほどわくわくが止まらない。まるで遠足前日の小学生のようだ。
期待感が「今夜は寝かせないぜ」と、ニヒルな笑いを浮かべている。
結局、昨夜は全く寝られず、入学式の日に配られた召喚学の教本を三周してしまった。
だが無理もないと、自分に言い訳する。
俺はずっとこの日を楽しみにしていた。小学校の頃、社会科見学でいった竜穴跡地で、遠目ながらドラゴンを見て、この道を目指そうと決意した。
その日から俺は図鑑を読みふけり、召喚し同士の対抗試合を見るなどして、期待を膨らませていった。
いつか自分がその舞台に立つことを夢見て。
ついに今日、その夢に大きな一歩を踏み出すことになる。
国立宮田高等学校。国内随一の召喚学科を設け、全国から召喚学を学ぶために優秀な生徒たちが集まってくる。
ちなみに、宮田高校は首都圏からはかなり離れている。これは召喚を行うには特定の立地が重要であるからだ。
竜穴特異点と呼ばれるその土地でないと召喚は行えないのだ。したがって宮田高校も日本に三か所ある竜穴の近くに創設された。
俺は、おろしたての制服に身を包み、学生寮を出た。宮田高校が実家から離れていたことと金銭的事情とが俺が学生寮住まいにに決めた理由だ。
大きな欠伸をひとつかみ殺し、一人さびしく門をくぐったところで、後ろから聞き覚えのある声で俺の名前が呼ばれた。
「おっ、小次郎じゃねえか。なんだよ、一緒に学校行こうぜいっ」
振り向くと髪を金に染めた男子生徒が、ニッと笑いながら片手をあげて近づいてきた。
こいつは、小田桐。同じ中学から唯一宮田高校に進学した友人だ。俺とは腐れ縁の気の置けない間柄で、昔はよく二人でばかやっていた。
「なんだ、起きてたのか。またいつものように遅刻かと思ったぞ」
「おいおい。いくら遅刻常習犯の俺様といってもな、初授業の日くらい早起きするんだよ」
へえ。こいつにしては珍しい。
まあこんなふうにぎゃあぎゃあ騒ぎながら登校するのは、中学からそのまま引き継がれるらしい。
学校につく前の上り坂で、前を歩く小さな女子生徒に俺は見覚えがあった。
同じ制服を着てなかったら小学生にも間違われるんじゃないか?
小田桐も気付いたのか、にやりと口の端を吊り上げて、さっそく駆け足で近づくと、がしっと女子生徒の肩をつかんだ。
「ひゃうっ」
当然だが、いきなり肩をつかまれた女子生徒のほうは短く悲鳴を上げた。
おいおいそれはちょっとしたセクハラなんじゃないのか。通報されてもしらね。
「なっ、何するんですかっ、小田桐さんっ」
「おはよー。にー番」
小田桐の軽い挨拶に、女子生徒がキレる。
「誰が二番ですか、だれが」
「んー。いやー。入学試験第二位のアニー・コーニッシュさんのことですけどお」
「だまりなさい。あなたのような野蛮人によばれると、私の名が汚されます」
「誰が野蛮だ、誰が」
さっきから小田桐とじゃれ合っている?少女はアメリカからわざわざ日本までやってきた留学生だ。
名前をアニー・コーニッシュといって、結構な資産家の娘らしい。
らしい、というのは、俺たち三人が出会ってまだたった2週間だからだ。
出会いは合格者説明会の日に遡る。
一口メモ ◇カーバンクル 〇カテゴリ 魔獣
カーバンクルは子猫ほどの大きさで額に赤い宝玉を持つ。カーバンクルとは赤い宝石をさす言葉で、この魔種の名もそこから来ている。
原点は16世紀のフランス人が、パラグアイで目撃した生き物に由来する。
額の宝玉は幸運を呼ぶとされる。
召喚は比較的容易で、召喚士見習いたちの初めての召喚に用いられることも多い。
スキル 〇幸運 〇火属性魔法<小>