京都大紀行 ~一日目~
お久しぶりです。黒露殺芽、こと白雪姫です。まさか、続編を書くことになるとは思いませんでした。だが、この個性の強い姫たちが集まって研修旅行に行ったとなると、何も起こらないというわけがないのです!ということで二年に進級した私たちが、どんな成長ぶり?をしているのか。……成長の「せ」の字もないかもしれません。お暇なときにでもお読みください。
京都大紀行 一日目
大学入学から一年が経過し、私たち姫は留年することなく、無事に大学二年生へと進級することができた。ど田舎の校舎から、寄り道の誘惑の多い校舎へと移行し、相変わらずの日常生活を送っている。
そして、後期には研修旅行があり、金曜日から日曜日、二泊三日、任意で京都へと行くことができる。とはいうものの、あれだけの人数が居ながら、今回希望した人数は三十二人。金曜日の授業を取っていたとしても「研修旅行」なので欠席扱いになることはない。そして、何といっても先生方とすきに話すことができる。このとてつもなくおいしい機会を逃す手はないではないか!
ということで私、白雪、茨姫、ラプンツェルの三人で京都へと上京することになった。
京都に行くのには東京駅から新幹線を使う。集合は手っ取り早く東京駅集合。私にはそれが大問題。新幹線の乗り場、日本橋口集合。よし、約三十分前に着いた!とりあえず、駅弁を買ったのはいいのだが。
ここはどこ!改札どこ!私はどっちに歩いているの!?
取り合えず、さっきからメールでやり取りしていた茨姫に連絡。初めはやはり道に迷っていた茨姫はどうやら無事に着いたようで。彼女と電話をしながら歩き回る。
さて、あんなにあった時間はどこへやら。あと十五分。まだ大丈夫か。後十分。やばい、もうそろそろついてもいいころではないか。とりあえず駅員に道を尋ねる。後五分。茨姫から再度電話。とりあえずそこをまっすぐ来いとのこと。髪を振り乱し、間に合いはしたもののついたのは三分前。
先生には、何となく頼りないなぁ。と苦笑いをされた。
次にラプンツェルの到着。電車を乗り換えたことを後悔している。彼女には迷ったような形跡は見当たらない。これだから東京駅はいやだ。
皆が無事にそろい、新幹線の中。とりあえず、席を決めなくてはいけない。三つの席が横一列。
「窓側、酔いやすい人」
さっと手が挙がった。茨姫に決定。私は写真係なので一番通路側の席が都合が良いため、ラプンツェルが強制的に真ん中となる。
京都は初めてという茨姫は窓際をきらきらとした顔で眺めている。私はとりあえずブログにアップする用の写真を撮る係なので、班員を撮らなければならない。
「君たち、写真に協力してね」
撮ったはいいが、ラプンツェルは写真に写りたくないらしい。DSで眼切れ写真。もはや顔がDS。ここから彼女の眼切れマスターへの道が始まった。
「あぁ。でもさ、この旅行の目的は、先生のショットを撮ることだな」
と茨姫。確かにそれも目的の一つではあるのかもしれないが、私は君たちの楽しむ姿を写真に収めたいといけないのだよ、と、心の中でそう突っ込んだ時だった。
「君たちと一緒にしないでくれる?」
とラプンツェルの一刀両断。茨姫HP50のうちHP39のダメージ。だが、ラプンツェル、私たちと絡んでいるからには、他人から見れば同類とみなされてしまうもの。残念ながら、貴方だけ目的が別とはみなされない。
お昼には早いが、着くのがお昼前だと予想して十時ごろに昼食をとった。せっかく駅弁を買ったのだから、と弁当の見せ合い。写真を撮ろうということになった。私の弁当は、パンダ弁当。パンダがご飯で作られている、軽くキャラ弁のようなお弁当。そして茨姫のはカルビ弁当。とりあえずご飯の上に肉が乗った弁当だった。それ以外に説明しようがないのだが、言い換えれば「緑の見えない弁当」だ。ラプンツェルは家からホットサンドとじゃがりこを持ってきていた。が、買ったものではないからとホットサンドは写真に撮らせてはくれず、彼女の写真上での弁当はじゃがりこだ。それらを私たちはおいしく頂き腹ごしらえ。先生たちはどんなお弁当を食べていたのだろうか。見ておかなかったことが今になって悔やまれる。
前日から期待を抱いていた京都に着き、旅館のバスに荷物を預け、班ごとに観光していった。一つの班に一人の先生がつく。全部で七班がそれぞれの観光場所をまわった。
まず初めに私たちは京都御所に歩いて向かう。道はそんなに広くないものの、塀と歩道の間に大きな溝があった。京都の特徴だろう。歩道が混んでいたので溝を歩きたい気分に襲われたが、そんな事をしている人が居ないとなると、常識的に、やっぱりしてはいけない事のだろう。が、帰りにどこかの中学生が溝の中を歩いているのを見かけた。あれは地元の子、だったのだろうか?…そんなわけはないか。混んでいる道を先生は器用に先へ先へと進んで行った。
京都御所はとてつもなく広く、入るまでには結構な距離を歩いた。若干雨も降ってきたが、気にせず中へと進む。どうせ家から傘を持ってきていない。こういう時に限って折り畳み傘が見つからなかったのだ。茨は上着代わりのポンチョがあるからと持ってこなかったようだ。ちゃんと持ってきているのはラプンツェルくらいだった。
先生は、飾ってある屏風、建物の名称、ここは何をするところなのか、など詳しいことを解説してくださった。教室でおとなしく授業を受けているより、はるかに勉強になる。たまたまなのかはわからないが、特別展示が各観光名所でやっていたので普段は公開されていない部屋や屏風を見ることができる。
私はひたすら写真を撮ったのだが残念、やはりラプンツェルは相変わらず楽しそうに眼切れている。
そして面白いのは先生の足の速度。初めは先生の詳しい説明付きで中を見て回っていたのだが、途中からどんどん先へと進んで行ってしまう。カメラが追いつかない。
「先生、あそこにも建物がありますが」
「ああ、あれ?あれね、実は江戸時代に増設された建物なんだ。だから僕の専門外。アウトオブ眼中」
とさらりと言い捨て、私が写真を撮り終わるまで少し先で立って待っていた。
なんとか撮るものを撮って外に出る。
そのあと、目的地はなぜか「やらと」、つまり「とらや」へ。なんと、ありがたいことに、先生がおごってくださるというのでおとなしく付いて行った。メニューを渡され、好きなものを頼んでいいよ。といわれ何にしようか選ぶ。先生は、その間。
「ビールはないのかな」
と真面目に呟いていた。三人で口をそろえてはっきりと、「ありません」といったのだが。そのあとも口惜しそうに何度か「ビール……」と呟いているのが聞こえた。先生はお酒が好きなようだ。
結局頼んだのはきれいな和菓子と抹茶のセット。さすがとらやの和菓子とお茶は一級品。見た目もきれいで、とても美味しい!
お手洗いに行くというので私は茨姫とラプンツェルについて行った。しかし、トイレまで来て前を行く二人の足が止まる。ひょいっと間を除くとそこには同じ扉が並んでいた。
「どこにトイレがあるの?」
と、立ち入り禁止区域の扉に入ってはいけないと、慎重に扉を見て回っている。
お二人さん、それ全てトイレです。確かにあまりにもきれいな、普通のご家庭にある扉みたいでわかりにくいですが。
そこから京都御所の近くにある冷泉家へ。ちなみにここは予定にはなく、先生のお勧めで行くことになった。
冷泉家は唯一残っている公家屋敷で、普段は公開していないが特別公開で見られるようになっていた。中では先生曰く大学生のボランティアの方々が簡単に説明をしてくれる。ドラマでみたようなものが出てきたり、本物の書物が展示されていたり、西行法師の句が書かれた掛け軸がかけられていたり、大きな蔵があったり。京都でしかお目にかかれないものがたくさん見られる。
お土産が売っている出店で先生がポストカードを買っていた。授業で使うのだろうか。ほかにもいろいろと売っていたのだが、その中に定家の書物のコピー?があった。それを見て茨姫。
「うん、やっぱり字が下手……」
「え」
「もう何言ってんのよ!」
字が下手だといったのは自分のくせに、私に突っ込んでどうする。意味がわからない。
「あ、いや、ほら。あれだ。私たちにはちょっと解読しにくいかなぁっていう字?」
「言っていることは同じ」
「え、最初に言い始めたのは私じゃないもん。書誌学の授業の先生だもん。だから私は悪くない」
開き直った。挙句の果てに責任転嫁。
「言ったんだから同罪」
後から来たラプンツェルにその会話を話したところ。
「うん、下手だね」
とばっさり切り捨てていた。茨には突っ込むことができるのに、本当の事をためらいもなく、ズバッという彼女にはなぜか時々突っ込むことができない。きっと定家がここにいたとしても、遠慮なく毒舌を吐くだろう。あきらめて、先生に、定家の字の事を言ってみたところ、まぁねぇと笑っていた。やっぱり定家の字って誰から見ても……いや、なにも突っ込むまい。
また予定に戻り廬山寺へ。
ここは紫式部邸跡地だ。廬山寺をこの土地に持ってきた後、よくよく調べてその事実が発覚したらしい。仏像はもちろんのこと、すごく古そうな掛け軸や資料がある。源氏物語の屏風は、古いものだが、とてもきれいでよくできていた。各物語が絵で見事に表わされている。見ていて楽しいものだ。
庭はとてもきれいで、枯山水なのだが、緑の苔は、よく屏風に描かれている雲を表しているらしい。確かに言われてみるとそう見える。入口で預けた荷物の中にカメラを入れっぱなしだったので残念ながら写真を取ることができなかった。
ちょうど先生の分野なのでここでは源氏物語について詳しい説明を聞くことができた。こんなきれいな屏風、家に眠っていたりしないかなとか思ってもみたが、まあそれも無理な話で。絵巻物の次に好きなのは屏風かもしれない。古風な絵が私の好みらしい。とても惹かれるものがある。
次に来た下賀茂神社。調べによれば、縁結びの神様がいるらしい。あとは京都七不思議の一つとされている御神木だ。二本の木が途中から一本の木になっている。言い伝えによれば、縁結びの神様がそうしたのだとか。しかも、その御神木が枯れるとその境内にある糺ノ森から、新たに同じような木がみつかるらしい。
私にしてみれば、縁結びの神様なんて今は必要ない。彼氏もいまは特に必要としていないし、なにより、茨姫やラプンツェルのような友達が増えたらたまったものではない。私の腹筋を返してほしいくらいだ。
ここでは、ラプンツェルの靴に細かい砂利が入り込んだ。実によくある話である。そして、ここにきて、先生が熱燗を飲みたいと連呼。お酒はいまはやめてくださいと茨姫。
「あぁ、もう無理。熱燗ないと動けない」
「先生、熱燗がなんだというんですか」
「僕の燃料」
「…先生、燃費悪いですね」
そんな会話。茨姫と先生のコントなんてめったに聞けるものではない。録音機などを持ってきておけばよかったなどとこの時に思った。
糺ノ森を通り、長い道のりだが、歩いてバス停へ。
そしてどのバス停のバスに乗ればいいのか迷う。
やっと目的の車に乗ることができ、やって来たところは吉田神社。ここは茨姫御所望のところだった。どうやらとある小説にでてくるらしい。大きな赤い鳥居が印象的だ。ちなみに写真を撮るために、少し道を戻ったら、道案内をしていたナビゲーション、機械に怒られた。
「お前方向音痴だな。ちゃんと道案内してやってるんだからその通りにいけよ」
と言われた気がした。写真くらい撮らせてくれてもいいと思う。
ここで先生は限界に達したらしく、煙草を吸いたいので先に行けという先生の命で、私たちは階段を上り先に行く。ここにはあまり人がいなかったが、茨姫はここでおみくじを引いた。結果小吉。非常に微妙だ。
そこから交通機関を駆使し、旅館に戻ると私たちの班が一番先に戻ってきていた。この旅館、なんと私が中学にとまった旅館で、私たちがいる部屋は、以前に泊まった部屋のちょうど真下だ。一番端の部屋で、部屋の横には「非常袋」と表示されている。人数の少ない班はよくここに回されるのだ。フロントで鍵をもらい、部屋に行く。
ほしい写真があるとおっしゃっていたので、先生を呼びに行ったが、返事がなかった。なんと先生は部屋を間違えていたのだ。先生が居るべき部屋に行ってみても返事がないのは当たり前のことだった。そこからは部屋でのんびりして夕食。
一日目は夕食兼コンパだ。夕食は鍋。
私は、昨日の夕食が鍋、朝が鍋。とくにおなかもすいていないので、二人に好きなだけ食べてもらうことにしたのだが、食べるスピードが速かった。まずはもとから入っていたものを食べる。野菜を入れて食べる。残りを入れて食べる。
最後の締めのうどんを入れて食べる。周りを見ると、食材のなくなるスピードが一番早い。先生よりも早いのだ。茨姫が厨二病くさいセリフを吐きまくっていた。確か「闇のチョップスティックが云々」、だったか。
ワタシハイイセリフダトオモイマスヨ、イバラヒメ。
え、そんなこと思っていないだろって?いや、思っておりますよ。ただ、笑いをこらえるのに必死なだけです。
今日私たちに引率してくれた先生はビールを飲んで満足げだ。これで明日の燃料は確保できただろう。ここでもカメラで写真を撮りまくる。三人しかいない班なのだが、やはり真面目に写ってくれるのは一人しかいない。ラプンツェルは隙がなく眼切れる。夕食後のコンパではカラオケ大会。みんな歌が上手い。先生もみんな歌ったがかなりの歌唱力。とある先生は歌ではなくフルートを聞かせてくださった。とても素敵な響きだった。まさか研修旅行にまでフルートを持ってきているとは思わなんだ。カラオケ大会があった分、撮った写真の量も多く、六十枚以上。カメラの電池が無くなりそうな勢いだった。
楽しい夕食も終わり、部屋に戻る。風呂にも入り、後は寝るだけ。寝る前に一度馬場抜きをした。結果、ラプンツェルが早く上がり、私がその次。結局ばばをひいてしまったのが茨姫だった。
茨姫は、朝布団剥ぐなよ!?とラプンツェルに釘をさしている。ちなみにラプンツェルは家から持ってきたスウェットを着ているが、私たちは備え付けの浴衣だ。浴衣を着て寝るという行為に慣れていないと、朝起きた時に悲惨になっていることは予想ができる。今日の話題と部屋で見た動画の話で盛り上がって、非常ににぎやかだった部屋。それが、まぁ、何ということでしょう!今ではすやすやと寝息をたてて、私のキーをたたく音が聞こえるようになったではありませんか!本人たちが寝ているところをカメラにおさめたいな。とか思ってみたり。そんなことをしたら、私の寝ている間に茨姫の棘で刺され、ラプンツェルの髪の毛で首を絞められ殺されそうなのでやらないが。明日はどんな観光が待ち受けているのか。
それぞれ今日の夕食の残りの蜜柑を枕元に置いて、おとなしく寝ることにした。
さて、いかがだったでしょう?私たちの「成長」は見られたでしょうか?
先生も個性的で面白い、私たちの自慢の先生です!よく私たちについてきてくださいました!ありがとうございます!そしてここまで読んでくださった方、ありがとうございました!もしよければ、二日目、三日目、おまけがあるのでそこまでどうぞ。