いったい誰なんだろう?
私の母はネットに入り浸っていた。母はブログをやっていたから、いつもコメントしてくれる人々を「友達」と呼び、親しくしていた。
その友達の中には、「Y氏」と呼ばれる女性がいた。母が「本当のお母さん」と呼んで慕っている人物だ。
中学生の私からみても、
Y氏は危険な人物にしか見えなかった。
◇
ある日。私のパソコンに一通のメールが届いていた。Y氏を名乗る人物からだ。
内容は、母のブログのURLと「お母さん大変だよ。ちゃんとしなきゃいけないよ。」といったメッセージだった。
私は母がブログをやっているのを既に知っていた上に、そのブログの内容は、パーソナリティ障害の母の願望によって埋め尽くされた夢日記であることを知っていた。
だから、――あぁ、また騙された人がいるのか――と思った。
しかし、Y氏の素性は気になった。
母の入れ込みようが凄かったからだ。
母は、Y氏が「犬を飼いたいのよね〜」と言っていたことを聞きつけて、自身が飼っていた甲斐犬をY氏にあげてしまった。
その甲斐犬は、幼い私に「命の責任を持たせる学習」と称して、我が家で長年飼育されてきたイヌでずっと一緒に暮らしてきた家族だった。
母は私に「私(=母)がアレルギーになったからしょうがないでしょ!!?」と言ってキレ散らかしたが、単純に、Y氏への献上品として私の家族は売られたのだろう。
だから、私はY氏を調べた。
まずは、母のブログにあるY氏のコメントから個人に関するワードを調べようとした。するとY氏は、コメント欄に自身のブログのURLを貼っていた。
そのブログにアクセスすると、まだ更新が続いていた。全ての記事を読んだが、とくに変なものは見つからなかった。
かといって「犬」の存在を感じさせるような投稿もなく、綺麗なブログだった。
そこで私は、古のオタク先輩の「IDで調べる」という知識を使って検索してみた。
IDの特徴的な部分を検索欄に固定し、「犬」「ご飯を食べない」「〇〇の友達」というワードを次々に検索してみると、もう一つのY氏のブログが見つかった。
特徴的なID。見覚えのある甲斐犬の写真。
「犬の譲渡のために〇〇〇にいきました。」という記事。
おそらく、Y氏で間違いない。
私はそのブログを全て読もうとした。――が、かなりの投稿がある。私はページを、3ページずつ飛ばしながらブログを読んでいった。
すると、「赤」「連合」「ヒットラー」という単語がチラホラ目につくようになった。
「連合赤軍は間違ったことをしていない」
「ヒットラーは正しい戦いのために死んだ」
と言った話があり、「連合赤軍」という見慣れない言葉を調べてみた。テロや革命と言った単語が並んでいた。
中学生の私からすると、それらの意味はよく分からなかった。だが、「ん、多分、Y氏は怖い人」という認識が芽生えた。
◇
結局、Y氏が何者なのかは分からない。1つ目の「お彼岸でした」といった日常のブログがY氏なのか、それとも、2つ目の「闘争」「連合赤軍」「ヒットラー」というワードが並ぶブログがY氏なのか⋯⋯。
今となっては、分からずじまいだ。
それに、Y氏も母の正体が自己愛性パーソナリティ障害であり、「一呼吸一嘘」の怪物とは思ってもいないだろう。
謎の人物であるY氏。
病的な嘘つきの母。
2人は確かに関わっていた。
今こうして思い返してみると、2人が見ていた相手は「いったい誰なんだろう?」と不思議でならない。




