表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

語られなかったもう一つ物語──童話のプリンセス達の隠された物語──

貧しい兄妹は森で運命を捻じ曲げます ──今世のヘンデルとグレーテルは転生者!?

作者: 月焔 レイ
掲載日:2026/03/11

童話シリーズ、第二弾です。


有名な童話に隠されたアナザーストーリーをお楽しみいただけましたら幸いです



「やっぱりあの子たちを森に連れていくしかない」

「そんな!だめよ、そんなことできない…」

「それならどうするんだ!俺に飢え死にしろっていうのか!」



 ヘンゼルは両親の喧嘩を「まただよ…」と冷めた心で聞いていた。「聞こえてますよー。」とアホな両親に言ってやりたい。

 

 俺らが何言っても聞きもしないアホな親父に、「父さんがダメと言ったから…」と言う母親。

 

 「ほんと、馬鹿じゃね?」眠ることもできないくらい冷たく薄い布団で寝返りを打つ。


 「ここにいるほうが地獄だっつーの。」


⸻⸻


 ヘンゼルには、前世の記憶があった。記憶を取り戻したのは3歳の時だ。

 

 初めは気づかなかったが、家の貧しさと"ヘンゼル"と言う名前に、もしや。とは思った。

 決定打は妹が生まれた時だ。妹の名前は"グレーテル"と名付けられた。

 その名前を聞いた瞬間、ヘンゼルは思わず天を仰いだ。

 

「まじかよ…普通転生って、もっとこう、チート能力とか、貴族の家とか。そういうとこに転生すんじゃねーの?」


 そう。ヘンゼルは、かの有名な童話"ヘンゼルとグレーテル"の世界に転生してしまったのだ。


 だが、悲惨にも現実は変わらなかった。

 

 日々貧しくなる家。少なくなる食事。

 もちろん、ヘンゼルだってただ眺めていた訳ではない。

 

 日々の節約術、食べれそうな森での植物、狩の効率的な方法。前世のアウトドア経験をいかし、様々な提案は行ったのだ。

 

 だが父親は、提案するたびにヘンゼルを殴るだけ。母親はそれを黙って見ているだけだった。

 

 ヘンゼルは、流石にやさぐれた。


 癒しなのは可愛い妹だけだった。

 

 妹だけはなんとか幸せにしようと、家事の合間になんとか時間を捻出して森へ連れ出し、果実やこっそり育てた野菜などを食べさせた。

 

 そのおかげで、可愛い妹はヘンゼルべったりに育った。素晴らしい。グレーテルが可愛いことだけが、この転生で良かったことだ。


 そして、話は冒頭に戻る。


「そろそろ、頃合いか?」


 あのアホ(父親)は、ヘンゼルとグレーテルを森へ連れ出す頃だろう。一刻も早くそうしてくれと、願っている自分がいた。

 好き好んでこんな場所にいる筈がない。


 だが──


 前世、大のお菓子好きだったヘンゼルは、どうしてもお菓子の家には行きたかったのだ。

 それが、この世界での最大の楽しみでもあり、目標でもあった。


「おっかしー♪おっかしー♪おっかしのいえー♪」


 楽しみにしすぎたせいで、つい鼻歌が漏れる。

 いつのまにかグレーテルまで口ずさみ始めたその歌を、小声で歌いながらゴロゴロと転がった。


「明日かな?明後日かな?早くしてくれ〜」


 父親が一刻も早く森に連れて行ってくれる日を首を長くして待つヘンゼルであった。


 ⸻⸻


「ヘンゼル、グレーテル、森へ遊びにいこう」

「はい、父さん」

「いいの?お父さん!ありがとう!」


 クールに返事を返しながらも、ヘンゼルの心の中では盛大なカーニバルが開催されている。一刻も早くいこう、気が変わらないうちに、早く!

 そんな内心は覆い隠し、そそくさと準備をする。この日に備え、出来る限り準備したナイフなどもこっそり荷物に忍ばせた。


 父親の後をついて森へ入ると、こちらを振り向きもせず、どんどん父親は進んでいく。ヘンゼルとグレーテルは、ついていくだけで精一杯だ。


「よし、ここら辺でいいか。」


 歩き続けて早3時間。

 一度も休憩を挟まないなんて、この父親は本当にアホなんじゃないだろうか。俺はともかく、グレーテルなんて顔色が悪くなっている。

 どうしてくれるんだこのアホ。


「それじゃ、少し父さんは仕事で離れるから。ここを離れるじゃないぞ」

「はーい、頑張ってね」


 ニコニコと手を振りながら見送る。「二度と会わねーよ、ばーか。」姿が見えなくなった途端、消えた方向に向け、あっかんべーをした兄にグレーテルは大きな目をぱちぱちさせている。本当に可愛い天使だ。


「よし!じゃ、行くか!」


 お菓子の家を探しに!という言葉は流石に飲み込み、一応とばかりに持たされたパンを齧りながらグレーテルに呼びかける。


「え?でも、父さんはここで待ってろって…」

「大丈夫大丈夫、兄様に任せろ!幸せにしてやるからな!」

「ふーん。まぁいいけど。」


 なにかおかしな返事が聞こえた気がするが、気のせいだろう。俺の可愛い妹があんな言葉を発する訳がない。


「んじゃ、レッツゴー」

「れっつごー」


 ほら、かわいい。俺の妹最高!


 るんるんとした足取りで、今まで生きて来た中で最も幸せな時間を過ごしながら、小道を歩き始める。鳥の囀りに癒される。平和だ。


 道なりに、てくてくとグレーテルと並んで歩く。

 物語どおりなら、そろそろ見つかるはずだ…


 クンクンクンと匂いを嗅いでいると、「え、きも…」という幻聴が聞こえた気がする。後ろを振り向いてもニコニコしているグレーテルしかいない。やはり気のせいだろう。


 しばらく進んでは嗅ぐ動作を繰り返していると、甘い匂いがし始めた。


「グレーテル、あっちだ!」


 少し明るくなった方向を指さすと、「え?犬なの?探索犬なの?」という呟きが聞こえた気がする。なにかおかしい。でも、今の俺の頭はお菓子の家でいっぱいだ!待ってろ!お菓子の家!お待たせ!もうすぐヘンゼルさんが行きますよー!


 もはや頭の中はお菓子の家でいっぱいで、小走りに甘い匂いの方へ向かう。


「あ、あったぞ!あれだ!」


 美味しそうなチョコレートに、サクサクしてそうなビスケット。窓は飴だろうか?太陽が反射してキラキラしている。


「凄い!本物だ!本物のお菓子の家だ!あったぞ!行くぞ!グレーテル!」


 グレーテルの返事も聞かずに、お菓子の家に飛びつき、ガジガジと齧り続ける。今世に転生してから、殆ど食べていない甘味だ。少しの甘味もたまに見つける森の果物ばかりで、殆どをグレーテルへ渡していた。甘い。甘すぎる。幸せだ。前世の蟻はこんな気分だったのだろうか。


 ヘンゼルは一心不乱に食べ続け、喉が渇いたら庭にわいているオレンジジュースやチョコレートドリンクを飲む。そこはまさに天国だった。


「ふう。食べた食べた。一年分は食べたな。」

「え?そんだけ食べといて、一年分なわけ?」


 聞き馴染みのある声で、想像もできないような内容が聞こえて来た。恐る恐るそちらに目をつけると、ドン引きしたようなグレーテルが、家の外の柵から頬杖をついてこちらを見ている。


「え…?グレーテル…?」

「行動的にそうかなー。って思ったこともあったけど、確信がなかったから言わなかったんだけど。さっきの反応的にあなたも転生者だよね?」


「はー、幼女のフリするのも楽じゃなかったわ。」と、いつもの可愛らしい口調ではなく、サバサバとした高校生のような口調で話すグレーテルの姿に頭がショートする。


「グ、グ、グ、グ」

「何?ほんとキモい。」


 誰だこいつ。俺の可愛い妹、どこ行った?


「これさ、早く逃げないと魔女、来るんじゃないの?チート能力とかなんにもないし、早く逃げようよ」


 その言葉にハッとした。確かに!お菓子の家が最終目標すぎて、全くそこを考えていなかった。だって俺の目標はお菓子の家だったのだから、今、達成してしまったのだ。


「ほら、早く行くよ。魔女の相手とか、ごめんだから」

「え、グレーテルは食べなくていいの?」

「こんな山の中にあるお菓子の家に、齧りつけるあなたの衛生管理能力を疑うわ。賞味期限切れでも食べたタイプでしょ?」

「賞味期限は流石に食べなかったぞ。消費期限切れは食べてたけどな。」

「はいはい、もういいから、早く行こ。」


 くるっと身を翻し、スタスタと歩いていくグレーテルの後ろ姿を慌てて追う。


「ね、どうするの?今から」

「は?あなた、そんなことも考えずにお菓子の家目指してた訳?」

「俺のこの人生目標、お菓子の家だったし。たった今、目標は達せられた。」


 胸を張って答えると、前世で俺のことを馬鹿にして来た幼馴染のような目でこちらを見られた。つまりは、馬鹿にされたのだろう。


「あなた、馬鹿だって言われなかった?」

「猪突猛進と褒められはしていた。」

「多分それ、褒められてないわね。」


 「んー。じゃ、どうするかな。」とグレーテルは歩きながら、顎に手を当て、空を見上げて考えている。そんなグレーテルの姿は、過去の誰かの姿に重なった。


「どこ向かってんの?これ」

「今?え、本当に何も準備してなかったわけ?森の奥にある街に向かってるわ。そこなら大きい街だし、孤児院の一つや二つあるでしょ。

 そこで勉強して、私は商人になるの。夢だったのよねー。昔から、異世界で商人になるの。」


 その言葉に、「異世界で知識チートを駆使して大商人になりたい!」とベッドの上でジタバタしていた幼馴染の言葉を思い出す。


 そう思うと、聞かないという選択肢は浮かばなかった。


「──あのさ、名前なに?前世の」


「なによ、突然。そんなこと聞いてどうすんの?

 "長谷川 結"よ。」


 その言葉に、隣の家の可愛い幼馴染が浮かぶ。ショートカットで、運動神経抜群で、口は悪いが、なんだかんだと優しかった彼女の姿が。


 思わず、今は小さくなった身体に抱きつく。


「…ゆいっ!ゆい!」

「え、何?まじキモい。変態!ロリコン!」

「俺だよ!俺!中村翔太!お前の隣の家の翔ちゃんだよ!」

「は?翔…?


 …言われてみれば…そのアホで馬鹿でどうしようもない言動は理解できる…?」


「そういえば、ヘンゼルとグレーテルの話、幼稚園で読んだとき、ヨダレ垂らしてたっけ…」とぶつぶついっている結の身体に頭を擦り付ける。


 会えた!会えた!

 前世では伝え損なったけど、会えた!


 …ん?でも、グレーテルってことは…妹?


「Noーーーーー!」

「何よいきなり!耳元で叫ぶな!」

「せっかくまた結と会えたのに、兄弟じゃねーか!」

「何が問題なのよ!?別にいいでしょ!」

「良くねーよ!俺お前のこと好きなのに!」


 しまった、うっかり口が滑った。こういうところがバカだって言われるんだろうな。と恐る恐る顔を見ると結の顔は真っ赤になっている。


「ば、ばっかじゃないの!そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!ほら!行くわよ!」


「先にこれから先の筋道立てるのが先!」と足早に歩き出す姿に微かに希望を感じる。あれ?これ、意外と押せば行けるのでは…?頑張れ!今世の俺!前世で達することが出来なかった夢を叶えるんだ!


「ねーねー、結、俺、新たな夢できた!」

「そう、良かったわね。生きる目標が出来て」

「だろだろ?気になる?」

「気になる訳ないでしょ、もう!本当早く行くわよ!日が暮れる!」


 もはや小走りになっている結に合わせて、俺も早足になる。

 今世も楽しくなりそうだ。ま、結と一緒ならなんでも楽しいけどな。


 こうして、ヘンゼルとグレーテルは、新しい街で、楽しく幸せに暮らしました。


──これは、逞しすぎるヘンゼルとグレーテルのお話

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!


現在は長編ファンタジー 【妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む 】も毎日連載中です。


亡国の王女が少年として身分を隠し、軍で生き抜く物語です。

姉弟の成長、仲間との絆、恋物語を描いた長編作品となっていますので、 ぜひお立ち寄りください。


改めまして、本当にありがとうございました。

ブックマークやいいねしていただけると励みになります!

応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ