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聖母

『さあ、姫♪ 作りましょう』


「OK スノウに言われた食材も買ったことだし…先生、お願いしますよ」


原田朋美34歳 ひょんなことから一緒に暮らすようになった白い鳩のスノウとキッチンに立っているのだが…


いや、その…正式に言えば…今、スノウは鳩、というより私とほぼ同じ身長のピンクのエプロンをつけた鳩人間だ


10分ほど前


買い物から帰った私を玄関で出迎えてくれたのは普通の鳩ではなく155cmほどの真っ白い鳩がニコニコして立っていたのである


トタトタトタ


『おかえりなさい。姫、お寒かったでしょう? 手を洗って温かいココアを飲んでくださいな』


「え…あ、あなた…スノ…ウ…なの? 着ぐるみじゃないよね?」


スノウは頬を少しばかり染めて照れくさそうにコクリと頷く


『驚かせてごめんなさい。あのままではお料理出来ませんから本来の姿に戻っただけなんですの』


ほ、本来??


じゃあ…昨日会った時が変身してたってこと…か…?


『いきなりこの姿で話しかけたら逃げられてしまうと思って…でも、わたくし、精霊ですってお伝えしたつもりですが…くるるるる』


見た目はまるでぬいぐるみみたいに愛らしくてモフモフで雪のような真っ白な羽根は恐る恐る触れてみるとなんともいえない柔らかさだった


「わぁ…なに、このマイクロファイバーの毛布を10倍心地よくした肌触りは…」


思わず我を忘れてうっとりしてしまう


『お気に…召しませんか?』


不安げに尋ねるスノウを私はそっと抱きしめて答えた


「ううんうん、その逆よ、あまりに気持ち良くて顔をずっと埋めていたいくらい…」


『よかった、嫌われてしまったのかと…』


「何を言うの…私があなたを嫌うなんて例え地球がさかさまになってもあり得ないわ!」


あれ…なにキモいこと言ってるんだ…私…



『嬉しいです♪ 姫、やはり少しも変っていらっしゃらないのですね…』


スノウはエプロンから取り出したハンカチで涙を拭っている



可憐だなぁ…私より女子力高い…



でも


何故か自分でも自然と口をついて出る言葉にとまどってしまう



「とにかく手を洗ってくるね」


手早く消毒と手洗いを済ませて着替えるとテーブルにマショマロ入りのココアが置かれていてキュンとする



『お好きかと思って…冷えた手も温まりますわ』



そういえば


嫁いだ眞子も低体温の私をよく心配していたっけな…


両手でマグカップを包み込んでコクリ…


やだ…涙が…


『まぁ、どうなさいました? お口に合いませんか? 甘さが足りなかったかしら…』


心配そうに泣いている私を覗き込んでオロオロするスノウ


「ごめんごめん、すごく美味しいよ。甘さもちょうどいい…誰かにココア淹れてもらったの久しぶりだから…」


ふわっ…



大きな翼が私をすっぽりと包み込んで抱きしめてくれる


あたたかい…なんかすごく…安心する…



『妹さんと離れてお寂しかったのね…スノウは姫を独りには致しませんわ…亮様ともヒロ様ともずっとご一緒です…』


「う…うう…うっ、うおお~ん、ううう…」


涙が止まらなくなり気づけば慟哭していた


私は物心ついた時からクールでほとんど泣いたことがなかった


父が再婚して家を出たときも妹が嫁いだ時も寂しかったけれどこんな風に声をあげて泣くことは一度もなかった



どれくらい時間がたったのか


鳴いている間、スノウがずっと抱きしめながら頭をいい子いい子してくれてなんだか気分がスッキリしてきた



『時には声をあげて泣くことも必要ですわ』


「ありがとう…なんだかママンみたいだね。私が妹としていた妄想遊びに出てくる優しいママンってキャラがいるの。スノウはその人に似てる…」


『まぁ、光栄ですわ、お嫌でなければスノウママンと呼んでくださいな』


「スノウ…ママン…」


『どうなすった? モミ様…』


なんて暖かな心地いい響きだろう



「姫よりモミちゃんって呼んで…そのほうが嬉しい」


バ、バカ、なんつー恥ずかしいこと言ってるんだ! 私は…


スノウは聖母のように優しい笑顔でコクリと頷いて


『ええ、ええ。モミちゃん、わかりましたわ』と答えてくれた



グ~キュルルル…


『まぁ、モミちゃんのお腹が空いたって騒いでいますわ。ふふふ、一緒に作りましょうね』



「うん、ママン♪ シチューとお鍋のいいとこどりって何を作るの?」



『スノウ特性シチュー鍋です』


ママンはそう言うとキッチンに立ち手際よく玉ねぎ、しめじ、コーン、キャベツをバターで炒めて鶏ひき肉と面豆腐の肉団子、水と牛乳、生クリーム、コンソメ、塩コショウ、砂糖で味付けし、


仕上げにバター、茹でたペンネとピザ用のチーズを入れて素晴らしく美味しいシチュー鍋が出来上がる


『出来ましたわ、モミちゃん、お味見、お願いします』


小皿によそったスープと肉団子をパクリ…


うっ…!!


お、お、美味しい~!!


ふんわりしたジューシーな肉団子、口の中でとろける野菜にコクのあるミルキーなスープが絡んでめっちゃ美味で癒される~



「ただいま~、お? いい匂いだな」


「へぇ、シチュー風の鍋か♪ こりゃ楽しみだぜ、ほい、お土産のミートパイ」


ナイスタイミングで亮とヒロがお土産つきで帰ってきてふと、スノウママを見ると…彼女はいつもの小さな白い鳩に戻っていた



い、いつの間に…


『うふふ、二人の秘密ですわ』


テレパシーで脳内に話しかけてくる声に呆然とする私にスノウはパチリとウインク



「さて、風呂は後回しで飯にすっか♪」


「あ、う、うんっ、二人ともお帰りなさい。お土産、ありがとう~、手を洗ってきてね」



『スノウもお手伝いしましたの』


「そうかそうか、偉いぞ、スノウ」


ヒロくんに頭を撫でられ少しいやそうにするスノウ


『あまり触れないでくださいまし…紳士らしくありませんわよ』


「あはは、ヒロくん、嫌われちゃったね~」


「まいったねぇ、つれないこと言うなよ、お前さんにもお土産のサバランあるんだぜ」


サ、サバラン??


「ちょ、サバランってラム酒がすっごい入ってるよね?」


ツンデレのスノウがバサバサと嬉しそうに飛んでヒロの肩に止まるとペコリと首を垂れると頭を差し出した


『大好物ですの、ヒロ様、ありがとうございます♪撫でてもよろしいですわ』


亮は苦笑いしながら優しくスノウの頭を撫でる


「現金な奴だなぁ、ま、いっか(笑)」


「スノウ、大好物って…食べても大丈夫な…」


言いかけて口をつぐんだ


そうだった…鳩人間のような本物の精霊だもんね


『モミちゃん、心配いりませんわ、スノウは何でも食べられますよ』


「そっか、よかった」



「あれ、いつの間にか姫からミモちゃんになってるぜ」



「うん、私がそう呼んでって言ったの」


「そうか、モミらしいな…それよかはやく食べようぜ~」


「僕もお腹ペコペコだよ~」


「うまいな~ペンネとチーズがとろけて最高だぜっ」


「僕、このふわふわな肉団子が好きだなぁ」


「でしょでしょ♪スノウって天才だよね~」


『うふふっ、たくさんありますからおかわりなさってくださいね』



「おかわり」が何度も飛び交い、ずんどうで作ったスノウのシチュー鍋は一滴も残らず完食された







『気持ちいいこと…広くて素敵なお風呂ですわ~ルルル~♪』


夕食後、スノウと浴槽に浸かっていると彼女は気持ちよさそうに鼻歌を歌いだす


「父がお風呂が好きでね、広めに作ってくれたの。妹とよく一緒に入ったよ、二人して漫画読んでアイスとか食べながら長風呂してた」


亮とヒロと暮らすようにはなったけど流石に混浴は出来ないもんね(笑)


『そうでしたの。スノウはお風呂好きですから嬉しいですわ、モミちゃん、お背中流しましょうね』


痒い所に手が届くように丹念に洗ってくれる


気持ちいいな…こうして背中を流してもらうの久しぶり


「ねぇスノウママ、明日は薔薇の入浴剤にしよっ♪私も背中洗ってあげる」


『まぁ、嬉しいこと!』


スノウの背中はふんわりして真っ白だ

お湯に濡れても貧相にならずほんのりいい匂いがする


「クンクン、石鹸と…ハーブみたいな匂いがする」


『わたくしが作ったハーブソープかしら、お好きならミモちゃんに作りましょうか?』


す、すごっ! 料理だけじゃなくハーブソープも作れるなんて…やっぱり女子力高い…


「もしかして化粧水とかも作れるの?」


『ええ、乳液にシャンプー、香水にお茶も御作りしますよ』


「すっごい、流石はハーブを司る魔女さんね」


あれ? なんかまた変なこと言ってるよ…私ってば…


『どうなさいました? 』


ううんうん、なんかついおかしなこと、口走ってて…自分でも不思議なの


『大丈夫、何にも変じゃありませんよ。さぁさぁ、そろそろ出てデザートのサバラン頂きましょう、くるっ』


お土産を買うのが趣味の亮とヒロは毎日、私の好きそうなスイーツやわ肉まんやら買ってきてくれる


双子の彼らは霊感が強いせいか、一度話した相手の好みがわかるらしい


私の場合は長い付き合いなんだけどね…



「なんか不思議だな、こうやってるとずっと前から一緒にいるみたいだ」


熱いフルーツティーを飲みながらヒロがぼそりと呟いた


『わたくしが…ですか?』


「うん、僕もそんな気がする、ミモちゃんは?」


「そうだよね、ずっとずっと昔からこうして一緒にお茶を飲んでご飯食べてた気がしてならない」


私は気を付けて言葉を口にする


そうでないと無意識におかしなことを言ってしまいそう…


『ありがとうございます。嬉しいですわ、わたくしも皆さんと同じですもの』


「あっはは、不思議な縁だよね」


本当に不思議だ


昨日会ったばかりなのにスノウはすんなりと我が家に溶け込んでいて今まで離れていたのが不自然なくらいに思える


「ねぇねぇ、新作のホラー観ない?」


「俺たちはいいけどスノウちゃん大丈夫かい?」


『心配いりませんわ♪ 怪談好きですの』


パチパチパチ


スノウの言葉に一斉に拍手が起こり私たちは新作のホラー映画をお菓子をつまみながら堪能した




あったかい…


毛布にくるまれながらスノウの大きな翼に抱きしめられているとまるで赤ちゃんになったみたいに安心する


大きなスノウに抱き着いて寝てみたくなり、照れながらリクエストしたら彼女はにっこりして頷き羽根を広げて


「思った通り、ううんうん、想像以上だ…ふわふわして暖かくて癒される~」


「ママンの羽根、あったかい…こうしてると何にも怖くないや…」


いつもなら亮たちといても心霊ものを観ると眠れなくなるのだがスノウに抱きしめられていると絶対に大丈夫だという無敵な安心感がある


え? 眠れなくなるなら怖いモノなんか見なきゃいいって?


それが怖いもの好きの悲しい性なのでわかっちゃいても新作が出ると気になってついつい観てしまうのだ


『スノウがお守りしますわ、ミモちゃんに悪いものは近づけませんから安心して…』


「毎晩、こうやって寝たいな…すごく気持ちい…い…」


『うふふ、』




スゥ…



『お可哀そうに…お独りで心細かったでしょう。もう大丈夫。スノウがついていますわ。ゆっくりおやすみなさい…』


優しく頭を撫でられながら その夜 私は一度も起きることなく翌朝までぐっすり夢のなかだった








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