第30話 庭の花たちが、あなたを嫉妬の目で見守っていますよ?
なんだか最近マンネリ化してきた。
ただ玉座に座って、ただ学園で過ごして、
ただユージーンの話を聞く。
毎回やってることが同じなのだ。
ユージーンの話に関しては最近どこの
ラーメンが美味いとかそんなのばかり。
たまには変わった話をしてほしい。
「なーアル!」
ほら来たよ、どうせまたラーメンの話だ。
「知ってるか!
最近異世界から勇者が召喚されたらしいぜ!?」
面白そうなのキタコレー!!
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ユージーンの話によると、
王国は最近頻発しているハーヴェスの被害に
対抗するために、異世界から勇者を
召喚したらしい。
実に興味深い。
転生ではなく召喚。つまり転移というわけだ。
どうやって別の世界へ渡るのか、
その方法がわかれば俺も別の世界に行って
更なる高みへと登れるかもしれない。
というか、なんで王国がハーヴェスという
名称を知っているのか。
俺が付けた名前が世間に定着しているのだ。
まあたぶんアシェルあたりが
なんか上手いこと何かしらやったんだろう。
そんなことより今は勇者くんだ。
どうやら国王主催のパーティーで勇者くんに
会えるらしいので、今回はそれに忍び込む予定だ。
さて今夜、城に忍び込むとするか。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
――ザワザワガヤガヤ。
めっちゃ簡単に忍び込めた。
警備はもちろん居たけど、
そもそも城の屋根を通り抜けてしまえば
造作もない。
中に入ったらあとは、
ピシッとスーツを着ておけば
ふつうに怪しまれない。
さて、勇者くんはどこでしょうか……。
「おぉ……、あれが異世界から来た勇者か」
近くに居たおじさんの言葉聞いて、
辺りを見渡すと――、居た!
黒髪に黒い瞳。慎重は170半ばくらいか?
めっちゃふつうの少年だな。
歳も16、7くらいだろう。
顔つきは、あれは日本人だな。
「勇者の少年、彼の名前はなんと言うだ?」
近くのおじさんたちの話を盗み聞きする。
「ああ、彼の名前は確か……、
イセ・カイト……、といったか……」
へぇ、イセ・カイトね。カイトくんか。
今1人っぽいし、
ちょっと挨拶してみようか。
俺は手に持っていたグラスの中身を
ぐびっと飲み干して、彼のもとへ向かった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「こんばんは、勇者様!」
俺は満面の笑みを浮かべて
元気よく挨拶をする。
そして手を差し出す。
「……どうも」
無愛想に勇者が答える。
手、握らねぇ。握手してくれねぇ。
なんこいつ、あれか?
親戚の集まりのとき、隅っこで無愛想に
スマホいじってるタイプか?
まあいい。いきなり異世界に召喚されて
イライラしてるのかも知れないよな。
「キャッ!」
――パリン!
どうやら向こうで女性がグラスを
落としてしまったらしい。
―ダッダッダッ!
すると、勇者が彼女のもとへ向かう。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「どうしましょう……」
「大丈夫ですか? 手伝います」
困った様子の彼女な手を貸す勇者。
なるほどね、女性に『だけ』は
優しくするのが勇者なのか。憶えておくよ。
クソガキが……。おっといけない。
でもムカつくしちょっと教育してやるか。
「俺も手伝いますよ!」
「お前はさっきの…………」
あからさまに嫌そうな顔すんなよ。
あれだれ? 自分だけが手を貸して
カッコつけたかったんだろ?
わかるよ。俺も中学の時妄想してたもん。
俺は床に落ちたグラスの破片を集める。
「いけない! 怪我をしてしまいます!」
女性が俺を心配する。
「あはは! 心配ありませんよ!」
俺は笑顔で答える。
勇者は俺を睨んでいる。
「よし……」
俺はそう呟いて集めたグラスの破片に
ハンカチを掛ける。
「あの……、一体なにを……」
「見てのお楽しみです」
不思議そうな女性にそう告げる。
そして次の瞬間、ひらりとハンカチを取ると
割れたグラスが元通りになっている。
「うそ!」
女性が驚く。
一連の光景を見ていた周りの人たちもざわめく。
勇者だけは不満そうだ。
だが、これで終わると思うなよ?
「どうぞ」
俺はそう言って、まずはグラスを手渡す。
「ありがとう……」
女性が礼を言う。
「あともう1つ、
こちらは俺から貴方に……」
そう言って先程のハンカチを見せる。
「……ハンカチ?」
「ふふ、これだけでは足りませんよね?」
俺はそう言って手に持ったハンカチを
ブンと振る。
するとあら不思議! そのハンカチで
ラッピングされた小さなバラの花束が!
ハンカチだけでも充分っちゃ充分なんだが、
安物なのでもう1つおまけをね。
「どうぞ」
そして今度こそ女性に手渡す。
「あはっ……、あら……、やだもう……」
いいね照れてる照れてる。
そして勇者のお坊ちゃんは
すんげぇ悔しそうな顔してやんの。
最後にもう1押し。
俺は女性に告げる。
「庭の花たちが、あなたを嫉妬の目で
見守っていますよ?」
「は……、はい……」
女性が顔を赤くして呟く。
はい決まったー! ガチ照れー!
「いいぞー!」
「やるじゃないか少年!」
周りの人たちも騒ぎ出す。
あれれ? 勇者くんどしたの怖い顔して?
顔真っ赤だよ?
こちとら15年男爵やってんだ。
現代っ子で女性の扱いもわかんねえような
ガキが相手にしてもらえるわけねーだろ。
俺はあえて勇者を横切ってその場を去った。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
あ、どうしよ当初の目的を忘れてた。
勇者と接触して世界の渡り方とか
異世界パワー的なのがないのか探るつもりが……。
ま、いっか。疲れたし帰ろ。
にしても、やけに寒いな?
来た時こんな寒かったっけ?




