第19話 これはもしかしてノーベル賞を受賞できるんじゃ……
現在俺たちはC級の依頼を受け、旅をしている。
このパーティーエイペックスは、
パーティーメンバーの8割が
A級の冒険者で構成されているため
A級パーティーとなるようだ。
目標は全員でS級になって、このパーティーを
S級パーティーにすることらしい。
正直その目標は夢物語と言える。
S級パーティーなんて、100年前に存在した
勇者のパーティーしか存在しない。
S級冒険者自体、
現在は数えるくらいしかいないのだ。
S級のハードルはそれ程までに高い。
それでもこの人たちは本気でそれを目指し、
進み続けてる。
だから俺は尊敬するし、不可能に近くても
可能性はあると思っている。
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正直なところ、
この人たちはかなり強い方だと思う。
リーダーのクリスは騎士。
赤毛ツインテちゃん、もといアネットは魔術師。
長い金髪ちゃん、もといセシルは神官。
大男さん、もといガルドは戦士。
バランスは取れてると思うし、A級なだけあって、
みんな個人でも高い戦闘力をもっている。
そしてみんな人格者なのだ。
優しいのよ、まじで。本当ならC級といわず
A級の依頼を受ければいいのに、
俺に配慮してのC級なのよ。
とはいえ、依頼を決めるときに
俺のできることを聞かれたのだが……
冒険者は一応命懸け。
嘘をついたり隠すのは良くないと思って
正直に、何でもできますS級でもOK
と言ったのだが、笑って「それは頼もしい」と流されてしまったのだ。
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依頼の内容は古い遺跡の調査。
遺跡を目指して俺たちは平原を越え、
林を抜け、ようやく目的地に辿り着いた。
「着いたわね、イバーヤ遺跡」
「あぁ。みんな、準備はいいか?」
アネットがそう言って、
次にクリスがみんなに問い、遺跡に入る。
中は薄暗いが、アネットが魔術で常に
火球を灯りとして出しているから視界は良好だ。
慎重に罠の有無を確認しながら進んでいく。
「アルくん、大丈夫? 怖くない?」
セシルがそう聞いてくる。自分の方が3歳上と
知ってから、よく気に掛けてくれるのだ。
「大丈夫だよ」
俺は一言答える。
――ドサ、――ベチャ。
「ッやだもー、びちゃびちゃ!」
「あははッ、アネットは相変わらずドジだな。
大丈夫か?」
アネットがコケて水溜りに突っ込み、
膝から下が濡れた。クリスは笑いながらも
それを心配する。
――シュ。
「アネットさん、これ使って」
「ありがとう! 助かるわ!」
俺はタオルを取り出してアネットに手渡す。
「アルくん……、今それどこから出したの?
何もないところから出てきたように
見えたんだけど……」
「「「え?」」」
セシルがそう言うと、
クリス、アネット、ガルドがハモる。
「どこ、って言われると説明が
難しいんだけど、別の場所にある物を
取り出してる感じかな」
自分のできることを隠していて、
後になってそのせいで万が一怪我人でも
出たら大変だ。そう思って正直に答える。
「ど、どゆこと?」
アネットがポカンとした様子で言う。
「見てもらった方が早いかな」
――シュ、シュシュン。
俺はポーションや剣を
しまったり出したりして、実際に見せる。
「す、すげえ!」
「これは……」
ガルドがそう言って、クリスが声を漏らす。
「あ、アルくん、それは魔術なの?」
「もちろん!」
セシルの問いに答える。
「あたし、そんな魔術しらない!
というか見たことも聞いたこともない!」
「そうなんだ……、
じゃあ俺のオリジナルなのかな」
「オリジナルって……」
アネットに告げる。
似たような魔術があると思ってたけど、
存在しないのかな? これはもしかして
ノーベル賞を受賞できるんじゃ……
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そんなやり取りを終えて、
更に奥へと進むと人型の魔物が現れる。
「――ッ! アネット援護を!」
「了解!」
――バッ!
クリスがそう言って
魔物へ真っ直ぐ突っ込んで行く。
――ブン!
――ザッ。
――ッボンボン!
1度斬り掛かって牽制し、
魔物が後退したところをアネットの火球が襲う。
――ダッ! ザシュ!
爆風が引いて、相手の姿が見える。
クリスはすかさず踏み込んで、
相手の胴体を斜めに斬る。
――ザッ、ダッ!
「ギィィィィ!」
斬られた魔物は血を流しながら、
再び後退して、今度はクリスに飛び掛かる。
――グサッ!
「ギィ、ギィ……」
それに対しクリスは冷静に、
魔物が自分の間合いに入ってきた瞬間、
剣先を魔物の方に向ける。すると魔物は
飛び掛かった勢いでそのまま串刺しになって
絶命する。
凄いな。遺跡の内部という
狭い空間の一本道を活かした
コンパクトな戦闘。そして素早い連携。
A級なだけはあると納得できる。
「みんな怪我は無いか?」
クリスは全員に問う。
念の為の安否確認、リーダーとして完璧だ。
「なあ、この魔物って
最近噂のやつじゃねぇか?」
「ああ、俺もそう思った」
ガルドとクリスがそう話す。
「噂ってなに?」
少し気になったので俺は聞いてみた。
「最近、未確認の人型の魔物の出現が
トータスで話題なんだ」
「そして、この遺跡の調査はC級の依頼。
本来ならこのくらいの魔物でさえ滅多に現れない」
「なるほど」
なんか物騒だな。
「…………」
クリスが黙り込む。
「どうかしたの?」
俺はクリスに問う。
「……遺跡の調査は切り上げよう。
こんな魔物が居る地点で、この依頼は既に
C級じゃない。ランクがわからない依頼を
続けるのは危険だ」
「アル、わるいがそれでいいか?」
クリスが俺に問う。
「いいに決まってるよ、
元々御一緒させてもらってる身だしね」
俺はそう答える。
俺以外のみんなも同意見のようだ。
「ありがとう、じゃあ引きか――」
「キィャァァァ!」
クリスがそう言いかけると直後、
遺跡の奥から女性の声のような悲鳴が聞こえる。
全員が反応して、声の方向を見る。
クリスは一瞬動揺した後、
瞬時に状況を判断して俺に告げる。
「アル、君は先に外に出ていてほしい。
大丈夫、出口までの道は安全だ。
ここへ来るまでにしっかりと調査済みだ」
「僕たちは声の正体を確かめてから脱出する」
そう言うクリスの目は至って真剣だ。
「……わかった、気をつけて」
俺がそう告げるとクリスは
「ありがとう」と言ってほかのメンバーと
一緒に奥へと進んでいった。




