第10話 殺さずに、生かして捕らえればいいものを。
――カキカキ、ホリホリ。
「ッん……、あっ……」
「アシェル、変な声出さないで」
「すみませ、ん。……でもッ、
痛くはありませんが、くすぐったくて……」
俺の目の前には、
上裸のアシェルがうつ伏せで寝ている。
何をしているのかというと、俺は現在
アシェルの背中に組織のシンボルマークを
彫っているのだ。
組織の一員であることの証でもあり、
ファッションでもある。
そして、これはただのタトゥーではない。
このタトゥーは魔術式。特別なインクで
彫ることによってその効果は発揮される。
魔力運用の効率アップ、肉体が受ける
衝撃の緩和などの効果がある。
インクの素材は高純度の魔石。魔物の核で
あり、魔道具の作成なんかに使用される。
魔術式というのも、本来は魔道具を作る際、
物に刻むもの。だが、俺は肉体に刻んだ場合
どうなるのかを魔物を使って検証して、
正常に効果が得られることを確認した。
そして自分の肉体にも、
複数の魔術式を刻んでいる。
現状は俺しか魔術式タトゥーを
彫れないので、組織の構成員すべての背中に
俺が1人で彫った。そしてアシェルが最後なのだ。
――ギシシ。
タトゥーを彫り終わって、
アシェルが起き上げる。
「これは……」
そう呟くアシェルが纏う魔力は、
以前とは別物、単純に質がいい純度が高い。
「アル様、感謝します!」
「うん」
ちなみに構成員たちには、
プライベートの時は名前で呼ぶことを
許可している。
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カテドラル・オブ・アビス
という組織を結成してから2ヶ月。
組織のシンボルマークだったり制服だったり、
規律だったりがしっかりしてきた。
そしてその全ては俺が考えたものだ。
シンボルマークは天体をイメージして。
制服は星空と規律と、一応深淵をイメージした黒に。
規律なんて元々無かったので
考えるのはこれが1番大変だった。
こればっかりは1人では考えきれなかったので、
組織のみんなと話し合って決めたのだ。
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組織が立派になってきた今だからこそ、
ハッキリさせたいことがある。
勢いで潰しちゃったけど、
ぶっちゃけロイマン、アビスの福音の
目的は何だったのか。
魔力を支払うとか、ある程度貯まったとか
意味ありげなことを言っていた。
大体いくら貯まったところで、
使ってしまえばすぐに無くなるだろうに
なぜ信徒たちを殺すという考えに至ったのか。
殺さずに、生かして捕らえればいいものを。
…………そもそも使わないからとか?
言葉通り貯蓄することが目的だった?
どこへ? 何に? 何の為に?
もう1つ気掛かりなのは、奴のあの異質な魔力。
どこかで見た気がするし、何よりあれは
人間というより…………
――ガチャ!
「おいアル大変だぞおい!」
なんて寮の部屋で考え事をしていたら、
ユージーン、こいつはまた……。
「お前の姉ちゃんがやべぇ!!」
「え?」
俺はユージーンに連れられて姉の元へ向った。
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ユージーンの話によると、
正体不明の魔物とやらの討伐に向かった姉が、
大怪我をして戻って来たとのこと。
最初の魔物自体は簡単に討伐できたらしいが、
その後に現れた謎の男にやられたらしい。
「……来ちゃったの? アル」
「お姉ちゃん……」
ベッドの上に横たわる姉の体は、
切り傷や痣、1部皮膚が紫に変色している。
痛々しい。
姉が弱々しく口を開く。
「そんなに心配しなくても大丈夫。
死にはしないわ」
「……でも、『かっこわるい』姿を
見られちゃったわね。アルは昔から、
かっこいいか、かっこわるいかを
気にしていたから」
「アルの前では、いつでもかっこいい姉で
ありたかったんだけど……」
姉は笑顔でそう話すが、
心配させない為に強がってるだけなのだろう。
周りにいる姉の同僚の表情が、
姉の手の震えがそれを物語っている。
「何言ってんだよ。お姉ちゃんはいつも、
もちろん今だってかっこいいよ?
その怪我だって、王国軍の騎士として
国民を守る為に戦った証だろ?」
「自慢のお姉ちゃんだよ。俺の憧れだ」
俺は震える姉の手を握りながらそう告げた。
「…………ありがとう。アル」
姉は笑顔でそう言った。
今度の笑顔は強がりではなかったと思う。
そして俺は姉の元を後にした。
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「弟さん、来てくれましたね」
「ええ、私にとっても自慢の弟なの」
同僚の言葉に対してセレナはそう答える。
「――ん?」
違和感を感じるセレナ。
「どうかしましたか?」
「少し体が楽になった気がして……」
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姉は俺より3歳上で18歳だ。
小さい頃から魔術に剣術にと、英才教育を
受けて育っている。
だから、一緒に過ごした時間は
そんなに長くないのだが、顔を合わせた時は
いつも笑顔で優しく接してくれて、長い時間を
一緒に過ごしていなくても、姉は姉だった。
俺が生まれるまでは、よく魔術の練習を
サボったりしていたらしい。俺の為に一生懸命、
良い姉でいてくれたんだろう。
――ギチィ。
強く拳を握り込んだ。
「……不愉快だな」
謎の男、話を聞く限りだと
魔物を使役でもしていたんだろうか。
……正体も関係性も直接聞き出せばいいか。
俺は姉の敵の元へ向かった。




