第1話 車で轢かれたくらいで死ぬのは弱者
『圧倒的な力』が欲しかった。
走馬灯を見て最初に思い出したのがそれだった。
17歳の冬、俺は車に轢かれて死んだ。
だけどそんなことはどうだっていい。
大切なのはこの後どうなるかだ。
無か? それとも幽霊? もしくは、――転生?
この中なら転生がいい。
なぜなら俺には未練があるからだ。
それは小さい頃の夢。
単純な話、強くなりたかった。
少年漫画のキャラクターは、
大岩を刀で斬ったり、パンチ1発で敵を倒したり、
ジャンプで建物を飛び越えたりできる。
小さい頃は、鍛えればそうなれると
本気で信じていた。
でも世の中は残酷で、そんなのは
あくまでも漫画の中だけ。
そして結局俺は、
車に轢かれたくらいで死ぬ弱者だ。
魔力でも呪力でも、霊力でも気でも
なんだっていい。必要なのは力だ。
現実ではあり得ないような力。
そしてそれを手に入れて
辿り着きたいものがある。
それは絶対王者だ。
抽象的だけど、一言で伝わる圧倒的な存在感。
俺はそれに憧れている。
だってかっこいいから。
俺にとって世の中なんて、
かっこいいか、かっこ悪いかの2択なのだ。
そしてそれに辿り着く過程で、
何が起きようと構わないのだ。たとえ、
人間を辞めることになっても本望だ。
これを誰かに話したとき、
頭のおかしい奴みたいに言われたっけ。
それもどうだっていいことか。
だって『圧倒的な力』の前では
すべては無意味なのだから。
次の人生。
2度目の人生。
セカンドライフ。
胸が躍るじゃないか、
まあ、もう心臓は止まってるだろうけど。
とにかく転生できたなら次は
『圧倒的な力』を手に入れ、
そして絶対王者を目指したい。
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――結局、なんやかんやで転生できた。
現在の俺は2歳頃だと思う。
子どもは2歳頃から自我が芽生え始めると
聞くし妥当だろう。
Q 死後どうなるのか。
A 転生。
というのが答えらしい。
転生先はいわゆる異世界だろう。
ヨーロッパ風の建物に文化、そして価値観。
街には時計塔や機関車、街灯がある。
19世紀初頭くらいだろうか。
タイムスリップの線は、……たぶんないだろう。
でもまあ、ここがどんな世界だろうと
どうでもいいか。強くなれるならそこが
どんなところだろうと構わないのだ。
死んだら転生なのもわかったし、
今回がダメならまた死んで何度でも
転生すればいいしね。
そんなことより今気になっているのはこの、
自分の周りになんかこう、ふわふわっと、
もわっとした感じで存在する。何だろうねこれ。
魔力かな、呪力かな、霊力? 気?
それとも未知の力?
なんか危ない感じ?
とにかく何かの力。
人を超越するにはそれだけで充分だ。
「そんなところで何をしてるんだ?」
姿見の前で自分の容姿を確認していたところ、
声をかけて来たのは俺のパパ。
ちなみにパパの周りにもふわふわがある。
「えっと……」
「はあ……、セレナはどこにいるんだ?
また『魔術』の訓練をサボって……」
回答に困っていると、
パパがまさかの単語『魔術』を口にする。
ちなみにセレナというのは俺の姉だ。
「ま、魔術?」
「ん? 魔術に興味があるのか? どれ……」
2歳児のまだ拙い言葉でそう問うと、
パパは手のひらを上に向ける。
すると、パパの周りのふわふわが
手に集まり、そして――。
――ッボㇷ。
手のひらの上に火がついた。
そして俺にも火がついた。
「魔術というのはこういうものだ。
練習すればもっと凄いことだってできるぞ」
ふつうじゃあり得ない圧倒的な力。
今まで空想でしかなかったそれが目の前にある。
その美しさに見惚れて、
思わずそれに手を伸ばす。
……ジュ。
「――危ない! 触っちゃダメだろう!」
指先が焼かれ、パパが慌てた様子で火を消す。
だが俺はその確かな熱さに確信する。
パパが何か言っているが、
全く耳に入ってこない。俺はそれどころでは
なかったのだ。
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俺の確信、それは力への確信だ。
この世界には確かに魔術が存在するようだ。
そして、俺の周りをふわふわしてるこれは、
恐らく魔力的なものなのだろう。
魔力……、そして魔術。
どちらも転生前の世界では、
あり得なかったもの。
パパは「練習すればもっと
凄いことだってできる」と言った。
この力を扱えるようになればどうなる?
車なんてただの鉄屑だろう。
たとえトラックが来ようと、
戦車が来ようと、戦闘機もミサイルも。
1国家ですら敵ではないだろう。
この世界でなら単なる夢や憧れではなくなる。
常識も倫理観も人間性も、俺の全てを捧げよう。
そして俺は手に入れるのだ、
圧倒的な力を。目指すは絶対王者ただそれだけだ。




