番外編 キリュウが恋人⑦いつから・・・
キリュウは抱えていたフローナをそっと地面に下ろした。
夕方の柔らかい光が二人の影を長く伸ばす。
キリュウ「怪我してねーな?」
フローナ「うん、ありがと」
そう返した瞬間、キリュウの視線がフローナの足に吸い寄せられる。
キリュウ「!おい、足怪我してんじゃねーか」
フローナ「ただのかすり傷だよ。ちょっとぶつけただけ」
キリュウは小さく息をつき、しゃがみ込んで背中を向けた。
その動きは乱暴ではなく、妙に慣れている優しさがあった。
キリュウ「ほら」
フローナ「えっ、ほんとに大丈夫だからってば!」
キリュウ「いいから黙って乗れ」
フローナ「う、うん」
仕方なく背中に手を添えた瞬間、
フローナはキリュウの肩越しに吸い込むような深呼吸をしてしまった。
フローナ(わっ、キリュウ君の背中大きい・・・あったかい・・・
それに、なんかいい匂いがする・・・)
筋肉の起伏、肩越しに見える赤髪。
距離が近すぎて、フローナの心臓はしっちゃかめっちゃかだった。
キリュウ「ん?おい!ちびすけ鼻血出てる!」
フローナ「うわ、ほんとだっ!?」
慌てて顔を押さえるフローナに、キリュウは呆れた息を漏らす。
キリュウ「何かやましいことでも考えてたのか?」
フローナ「え、な、何で分かったの!?」
キリュウ「マジなのかよ・・・」
フローナ「だ、だってキリュウ君いい匂いするんだもん!」
キリュウ「クンクン・・・いや、何も匂いしねーけど? 香水もつけてねぇし」
キリュウが自分の腕を嗅ぐ。
フローナ「じゃあキリュウ君“自体”がいい匂いなんだね」(ドヤァ)
キリュウ「んな勝ち誇ったような顔されてもな」
軽口を言いながらも、キリュウはフローナを日陰の方へ連れて行く。
鼻血を気にして何度もポケットからハンカチを出し、
ちょいちょいと渡してくる仕草はどこまでも不器用な優しさだった。
キリュウ「その状態で直射日光は浴びねー方がいいだろ。ほら、こっち」
フローナ「う、うん。ありがと」
フローナ(キリュウ君ってなんだかんだ言って、すごく面倒見いいんだよね・・・シェルにもスケート教えてたし)
数分後、落ち着いたフローナを見てキリュウは腕を組む。
キリュウ「落ち着いたか?」
フローナ「うん、大丈夫」
キリュウは一瞬、フローナの頬に指を伸ばして触れそうになったが、
ふっと手を引っ込めた。
キリュウ(これじゃ、しばらく手出せそうにないな)
フローナ「なぁに?」
キリュウ「何でもねぇよ」
キリュウ(ま、それでも良いか)
軽くくしゃくしゃっと頭を撫でるようにして、キリュウは歩き始める。
キリュウ「行くぞ、ちびすけ」
フローナ「うん!」
歩きながら、ふとフローナは首を傾げる。
フローナ(あれ、いつからだっけ?
キリュウ君に“ちびすけ”って呼ばれても嫌じゃなくなったのって・・・いつからだっけ・・・。)
ふわっと胸が熱くなる。
キリュウ「何でそんな遠いとこにいんだ?」
フローナ「え、いや、その・・・」
カッと顔が熱くなる。
フローナはいつの間にかキリュウから距離をあけて歩いていた。
近付くとまた心臓がうるさくなるから。
キリュウはフローナの顔を見て、すぐに察したように笑う。
キリュウ「あー、なるほどな。
心配しなくても取って食ったりしねーよ」
フローナ「そ、そうだよね!私、胸も魅力も色気もないもんね!」
フローナ(うわぁ!ばかばか、何言ってんの私!!)
キリュウは一歩近づき、フローナの目線を逃さないように覗き込む。
キリュウ「別にそう言う意味で言ったんじゃねぇよ」
フローナ「え・・・?」
キリュウ「ちびすけに魅力がないなんて、思ってねぇ」
言葉は低く、短い。
でも、嘘をつかない声だった。
フローナ「・・・っ、(キュン)あ、ありがと・・・」
フローナの耳まで真っ赤になる。
キリュウはその様子を見て、ふっと笑った。
キリュウ「ほら、置いてくぞ」
フローナ「ま、待ってよキリュウ君!」
フローナ(ねぇ、私、
いつからこんなにキリュウ君の言葉一つで
胸がいっぱいになるようになったんだろう)
ドキドキして顔が赤いのか、夕陽に照らされて赤いのか。もう、どっちか分からない。
けれどフローナの中には確かな想いが溢れていた。




