71話 謎解きとドラゴン
とある賑やかな夏祭りにて。
水龍「お、あそこにいるのはフローナちゃんじゃないか!おーい!フローナちゃーん!」
人混みをかき分けながら手を振る水龍。
フーライとユーエンも一緒にいる。
呼ばれて振り返ったのはイカ焼きを両手に持つフローナとシェル。
水龍「・・・って、君たちイカ焼き食べてんの!?」
フーライ「あらあら」
ユーエン「ふふ、可愛いらしいですね」
イカ焼きを食べているシェルとフローナを見た二人は、思わず笑みを溢した。
フローナ「もぐもぐ・・・ごくん。あ、すいりゅーくん、ふーらいさんと、ゆーえんさん」
フーライ「お久しぶりです」
ユーエン「お久しぶりです」
シェル「もぐもぐ・・・よぉ、すいりゅー、
ふーらいとゆーえんも」
水龍「君たち、口の周りタレだらけだよ?どんな食い方したらそうなるんだ・・・」
二人「「?」」
水龍(なんちゅー色気のないカップルだ)
そこへ、メリサとレン、コキアが追いついてくる。
メリサ「ほらフローナちゃん、動かないでね。
口の周りすごいことになってるよ。」
メリサはフローナの頬に付いたタレを優しくティッシュで拭う。
フローナ「ありがとうございます!」
レン「隊長。あなたもです。」
メリサからティッシュを受け取り、レンは無言でシェルの口に“ぐいっ”と押し付けた。
シェル「ぶっ!・・・さんきゅ、レン」
レン「まったく。」
拭き終わると、
フローナ「は〜!イカ焼き美味しかったぁ!!」
シェル「だよな!!めっちゃ美味かったな!!」
二人の屈託ない笑顔。
周りの夜店の灯りがぱぁっと明るく見えるほどだ。
水龍「フッ」
水龍(ま、フローナちゃんが幸せそうならなんでもいいか。)
シェル「それで、何で水龍がここにいるんだ?」
水龍「あ、そうそう、隣町で謎謎やっててさ。
フーライとユーエンがやりたいって言うもんだから。」
その言葉に二人は少し照れた様子だ。
シェル「謎謎??」
水龍「参加券もらったんだ。商品が植物園のチケットなんだってさ。フローナちゃん見かけてちょうどいいかなと思ったんだ、どう?」
フローナ「行きたーい!」
シェル「彼氏の前で堂々と誘うかね普通」
水龍「何言ってんの、君たちも来るだろ?」
シェル「え?」
水龍は手に持っていた参加券をスライドさせた。
水龍「俺たちも見たんだけど、てんで分からなくてね。
こういうのはフローナちゃんとシェル君なら解けるかなと思ってさ」
シェル「なんで俺とフローナなんだ?」
水龍「こういうのは純粋な心の目を持った人の方が解きやすいんだよ」
フローナ「私って純粋?」
シェル「俺って純粋か?」
二人は顔を合わせて首を傾げた。
メリサ「この二人に純粋さで勝てる人なんていないさね」
レンとコキアは静かにうんうんと頷く。
水龍「まぁ、とりあえず参加券に書かれた謎謎を見てみてよ」
「空を見上げてごらん赤い星が沢山見えるよ
赤い星と星の間から見えるのは四つの白い流れ星
待ち合わせの時間は鳩が知らせてくれるよ
美味しい料理を作って待っている」
シェル「なんじゃこりゃ・・・」
レン「分かりやすいような分かりにくいような絶妙なラインですね」
水龍「シリアスな感じじゃなかったから気難しく考えないでいいと思うよ」
メリサ「赤い星か・・・。絵を描く場合、星っていうと黄色だし、実際見ると白色だよね」
レン「赤い星・・・人の名前とか建物の名前でしょうか?」
水龍「うーん、俺たちもそう思って街の人に聞いてみたんだけどそんな名前の人も建物もなかったよ」
レン「なるほど・・・」
フローナ「んー、あ!」
フローナは何やら思いついたらしく目の前の並木通りに走った。
シェル「フローナ、どしたー?」
フローナが上の方を指を差しながら言う。
フローナ「赤い星がいっぱい」
シェル「え?」
シェルたちもフローナの後に続く。
フローナ「ほら、上」
並木通りは紅葉で彩られている。
シェル「あ!赤い星って紅葉のことか!!」
フローナ「いや、分からないよ?ただ、何となくそう見えて」
水龍「いや、こういうのは案外そのなんとなくが重要だったりするんだ。もしかしたらもしかするかも」
シェル「じゃあ、とりあえず赤い星が紅葉だと仮定して
次は白い四つの流れ星と鳩だな」
フローナ「うーん」
レン「四つの流れ星と鳩・・・」
メリサ「鳩がいる場所・・・」
レン「四つの流れ星はともかく、鳩がいる場所で美味しい料理というと鳩を飼っているカフェとかレストランですかね?」
シェル「けど、カフェとかレストランで鳩って衛生的にどうなの」
フローナ「でも、猫カフェとか犬カフェがあるくらいだから飼ってる鳥を看板としてっていうのはありそう?」
シェル「野生じゃなきゃありうるか」
メリサ「鳩、はとねぇ・・・」
その時、一人のおばあさんが話しかけてきた。
通りすがりの老婆「おや?あんたち鳩を探してるのかい?」
レン「ああ、いえ、鳩がいる飲食店を探しているんですが・・・」
シェル「おばあちゃん知らない?」
老婆「そうだねぇ。猫カフェなら旦那と行ったことあるけど鳩はないねぇ・・・
あぁ、でも鳩時計があるカフェなら友人から聞いたことがあるよ。場所は確か空港の近くだったかな?
名前までは分からなくてごめんね」
シェル「いや、充分だよ!おばあちゃんありがとう!」
フローナ「ありがとうございます!」
老婆「なんだかよく分からないけど見つかるといいねぇ、気を付けて行くんだよ」
フローナ「はーい!」
シェル「ところでレン、鳩時計ってなんだ?」
レン「昼の三時、おやつの時間になると時計から鳩の人形が出てくるんですよ」
メリサ「でも、今どき珍しいね」
レン「俺も母に写真で見せてもらっただけなので実物は知らないんですが」
水龍「紅葉と鳩は分かったけど、昼の3時だと流れ星は見えないよね」
キーーン!!
その時、音がして空を見上げる。
シェル「ん?飛行機、空港・・・あ、そうか、飛行機雲のことか!」
レン「飛行機雲ですか?」
シェル「たぶんな」
水龍「確かに4本の線が見えるね。四つの流れ星ってそういうことか」
メリサ「じゃあ、まとめると空港付近で鳩時計のあるカフェかレストランに3時でいいってことかね」
シェル「ああ、とにかく空港に行ってみよう。あと2時間しかない」
水龍「空港なら二つ隣の街にあるよ、行こう」
フローナ「うん」
空港で聴き込みをしていると一件だけ鳩時計があるカフェを見つけた。
カランカラン。
店主「やぁ、待っていたよ。どうやらたどり着いたのは
君たちだけのようだ」
シェル「じゃあ俺らの推理は合ってたんだな」
フローナ「良かった」
店主「料理を用意してある。好きなものを好きなだけ食べてくれ」
シェル「やったー!!お腹ぺこぺこだよ」
食べ終わった後。
店主「さぁ、商品の植物園のチケットだ。受け取ってくれ」
水龍「ありがとう」
店主「それともう一つ」
水龍「あれ、商品は植物園のチケットと料理だけじゃなかった?」
店主「秘密にしていたんだ。これを受け取る人を見極めたくてね」
シェル「卵?」
フローナ「変わった柄ね」
店主「これはドラゴンの卵さ」
シェル「ドラゴン!?」
店主「ああ、あれは雷がこの家の近くに落ちた時のことだった。
雷が落ちた場所にこの卵が落ちていたんだよ。
だが、ワシが持っていても一向に割れる気配がない。
これはこの子が飼い主を選びたいんだろうなと思ってな」
水龍「ほんとにドラゴンなのか?」(ヒソヒソ)
シェル「さ、さぁ・・・」(ヒソヒソ)
と、その時、店主の手から卵がフローナの手へふわふわと宙に浮いて届いた。
フローナが思わず両手を広げるとその手の中にぽすっと入った。
水龍「え?」
シェル「マジか」
フローナ「あったかい・・・」
店主「ふむ、どうやらこの子は君を選んだようだね」
と、その時。
パキッ。
卵に小さなヒビが入り始めた。
シェル「え、卵割れ始めた!?」
パリィン!!
中から勢いよく出てきたのは・・・。
「キィー!!」
赤い体で両耳の後ろにチクチクと黄色いツノが生えてる。お腹と尻尾の裏側も黄色。
小さなドラゴンだった。
目がクリクリとしていて可愛いらしい。
水龍「ほ、ほんとにドラゴンの子どもだ・・・」
フローナ「か、可愛い〜!!」
店主「どうかな?ぜひこの子を育ててやってくれないか?この子も君を気に入っているようだし」
フローナ「シェル、この子連れてってもいい?」
シェル「おー、いいぞ」
レン「だ、大丈夫なんですか隊長、ドラゴンを飼うなんて危険過ぎますよ。」
シェル「俺たちがいればなんとかなるだろ。見たところ害はなさそうだし」
「キィー!キィー!」
レン「確かに、見た目はそうですが・・・」
メリサ「名前どうしようかね」
フローナ「キーちゃん!」
水龍「なんて安易な・・・」
キー「キィ♪キィ♪」
シェル「ん?名前ほんとにキーみたいだぞ」
水龍「正確にはKey(鍵)みたいだね」
二人は動物の言葉が分かる。
フローナ「え、ほんとに?じゃあやっぱりキーちゃんだね!」
店主「二人とも、ドラゴンの言葉が分かるのかい?」
シェル「まぁね」
水龍「ちなみに俺ら動物の言葉も分かるよ」
店主「そりゃあすごいな」
メリサ「キーちゃんこれからよろしくね」
フローナ「よろしくねキーちゃん」
キー「キィ!!」
メリサ「ほわぁ・・・可愛いね」
フローナ「可愛い過ぎる〜!!」
それから。
店主「じゃあ、ここまで来てくれて感謝するよ。しかし、よく謎が解けたね?」
シェル「フローナが最初に紅葉に気付いてくれたおかげなんだ」
フローナ「シェルだって飛行機雲に気付いたじゃない」
店主「これは子どもの心を忘れないようにと作られた謎謎なんだ。二人は子どものように純心なんだね」
フローナ「そうかな?」
シェル「そうなのか?」
二人はまた顔を見合わせて首を傾げる。
水龍「ね?だから言ったでしょ?二人なら解けるって」
そんな二人に水龍が腰に手を当て、誇らしげにそう言った。




