69話 隊長の苦手なもの
森の中は、昼間だというのに薄暗く、木々の隙間から差し込む光がまだら模様に地面を照らしていた。
湿った土の匂い、どこか遠くでギャー!ギャー!と鳴く鳥の声、そして風に揺れる葉擦れの音だけが静かに響いている。
フローナは周囲をきょろきょろと見渡しながら、少し楽しそうに言った。
フローナ「わー!なんかこの森、お化け出そう〜!」
その瞬間、隣を歩いていたレンがハッとしたようにフローナの袖を引く。
レン「フローナさん、いけません。隊長の前で幽霊の話をしては」
声を潜めて、こそっと耳打ちする。
フローナ「え? どうしてですか?」
フローナがキョトンとする。
レン「あれを見て下さい」
レンが視線で示した先。
そこには、少し離れたところで屈み込んで尖った両耳をぎゅっと丸めて塞ぎ、背中を小さく丸めているシェルの姿があった。
フローナ「え?」
フローナは思わず目を瞬かせた。
フローナ「もしかして・・・シェルって幽霊が苦手なんですか?」
レン「ええ」
メリサ「まぁ、僕もあんまり得意じゃないけどね」
メリサが肩をすくめて苦笑する。
フローナ「私も得意じゃないですけど・・・でも皆んながいればヘーキかなぁ」
メリサ「僕も僕も」
フローナはくすっと笑って、最後にコキアの方を見る。
フローナ「コキア君は・・・」
コキア「??」
相変わらずの無表情で首を傾げている。
メリサ「コキア君はこのまんまだよ」
フローナ「ですよね!」
そして、もう一度シェルを見る。
フローナ「でも、シェルの方はダメみたいですね」
メリサ「自分は半妖のくせにねぇ。
大体、隊長は妖怪とか猛獣とだってよく戦ってるじゃないか」
その言葉に、シェルがぎゃっと顔を上げた。
シェル「妖怪は生きてるからいいんだよ!!
幽霊は死んでるんだぞ!!」
必死な叫び声を上げる。
しかし、その威力の無さ。
フローナはくすっと笑ってシェルの前へ一歩進み出る。
フローナ「シェル、大丈夫だよ!
もし幽霊が出てきたら、私がやっつけるから!」
(※本人の中では完全にナイトのつもり)
どやっと胸を張るフローナ。
シェル「ほ、本当に・・・?」
不意にしゃがんだ状態から上目遣いで見つめられ、
ドキッとする。
フローナ「(ズッキューン)うん! 私が付いてるから大丈夫だよ」
シェル「フローナ、ありが・・・」
その時。
ガサガサッ!!!
突然、すぐ近くの草むらが激しく揺れた。
シェル「わぁっ!?」
反射的に、シェルはフローナの背後に回り込み、ぴったりと張り付いた。
が。シェルは身長198cmでフローナは153cmだ。
どう見ても、頭も肩も完全にはみ出している。
「にゃあ?」
草むらから現れたのは、一匹の黒猫だった。
フローナ「シェル、猫だよ?」
シェル「はー・・・なんだ、猫か・・・」
恐怖によっていつもの感知能力もどこ吹く風。
安堵のため息をつくシェル。
レン「隊長、あんた恥ずかしくないんですか。
自分より小さいフローナさんを盾にして」
レンからの冷たい視線を浴びるシェル。
シェル「だって・・・」
メリサ「隊長。幽霊なんてアトラクションくらいでしかいないって。」
レン「そうですよ。幽霊なんてこの世にいるはずないんですから。」
その時、コキアがちょんちょんっとフローナの裾を掴んだ。
フローナ「ん?どうしたのコキア君」
コキア「ひとだま」
コキアは森の奥を指差している。
その一言に空気が一瞬で凍りつく。
フローナ「あー、やっぱり気のせいじゃなかったんだ」
フローナがけろりと言う。
シェル「え・・・」
皆がそっと、コキアの指差す先を見る。
そこには、
ふわり・・・ふわり・・・と、青白い不気味な光が二つ宙に浮かんでいた。
レン「・・・・」
メリサ「・・・・」
シェル「わああ!!!」
一番遅れて、シェルが叫んだ。
シェル「ほら!やっぱりいるじゃんか!レン!! メリサ!!」
メリサ「いや、確かに言ったけどさぁ・・・」
レン「論理的に否定したはずなんですが・・・」
二人とも、目だけは完全にひとだまに釘付けだ。
シェル「論理的も物理的もあるか!実際に見えてるじゃん!!」
わーわーと叫ぶシェルの隣でフローナとコキアが冷静に会話をしている。
フローナ「ほんものかな?」
コキア「さぁ、でも、絵本で見たものと似てます。」
フローナ「コキア君、絵本読むの?」
コキア「昔・・・スラに読んでもらいました」
フローナ「優しいんだね、スラ君」
コキア「どうなんですかね」
シェル「なに雑談始めてるの君たちは!」
青白いひとだまは、ふわりと高度を上げ・・・
ゆっくり、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
レン「風もないのにあの動きは・・・」
メリサ「否定材料が消えていくね・・・」
フローナ「とりあえず水、ぶっかけたら消えないかな?」
コキア「ああ、火ですもんね」
フローナ「でしょでしょ〜?」
シェル「君たち、なんか楽しそーだね」
シェルがちょっぴり冷静になった次の瞬間。
ひとだまがふわっと急接近した。
シェル「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
ついにシェルは大パニック。
「キィー・・・キィー・・・」
しかし、奇妙な鳴き声と共に光の中から現れたのは・・・。
メリサ「フクロウ?」
レン「・・・みたいですね」
フローナ「可愛い〜!!」
どうやら、火の玉のように見えていたのはフクロウの目らしい。
数秒の沈黙の後。
シェル「ふく、ろう・・・?」
フクロウはこちらを見て一度だけ首を傾げると、バサッと羽ばたいて森の奥へ消えていった。
完全な静寂が五人を包む。
フローナ「幽霊じゃなかったね」
レン「ええ。隊長、生きててよかったですね」
シェルはその場にへなへなと崩れ落ちるのだった。




