68話 懺悔の青い炎
古い歴史を持つ街。
真っ直ぐな石畳みの道が伸びている。
街の中心には巨大な時計塔がそびえ立っていた。
レン「この街は懺悔の青い炎で有名な街らしいですね」
シェル「ああ」
メリサ「なんだい?懺悔の青い炎って」
シェル「ああ、それはな・・・」
この街には罪人を焼くための青い炎が存在する。
鎖で繋がれている為、炎から逃れることはできない。
しかし、その炎は痛みや苦しみを感じない。
一方で体は徐々に焼かれて灰になり少しずつ崩れ落ちていく。
痛みも苦しみも感じないこの青い炎に焼かれた罪人達は何故か全員が体が無くなりかける途中で
懺悔をするように手を合わせて頭を下げるそうだ。
理由はいまだに解明されていない。
そしてその懺悔を見届けた後、執行人が薔薇の鞭で粉々に壊すという。
フローナ「どうして痛みがないんだろうね」
メリサ「ガスか何かで麻痺してるのかね?」
コキア「あ」
コキアの声に4人が同じ目線の先に振り返る。
その少し向こうに処刑台があり、今まさに執行されようとしていた。
処刑台の上には鎖で縛られた男がいた。
青い炎はまだ灯っておらず、静かに揺らめく準備をしているようだった。
フローナが息を呑む。
フローナ「ほんとにやるんだ・・・」
レン「ここは見せしめの街でもありますからね。
観光客も多いみたいですし。」
メリサ「うわぁ・・・僕はあんまり見たくないタイプだよ・・・」
フローナ「私もですよ・・・でも、懺悔の青い炎気になるかも」
メリサ「僕もそれは気になるけどさ・・・」
メリサは頭を抱えている。
シェルは無言で処刑台を見つめていた。
眉間には深い皺が刻まれている。
コキアがぽつりと口を開いた。
コキア「泣いてる」
確かに。
罪人の男は処刑が始まる前から震えており、必死に涙を堪えているようだった。
それはそうだ。今から殺されるのだから。
執行人が青い炎を灯すために歩み寄る。
その姿は黒いローブをまとい、背中に薔薇の棘を模した鞭を携えていた。
ゴーン・・・ゴーン・・・。
時計塔の鐘が、やけに重く響く。
■ 青い炎が灯る
シュウゥ・・・と低い音をたてて、青い炎が罪人の足元から立ち上がった。
最初はただの光だったが、徐々に男の体を包み込む。
メリサ「痛くないって本当なのかね・・・」
フローナ「でも、なんか見てるのが苦しくなるね」
レン「痛みじゃなく、何か別の感覚があるのかもしれませんね。」
コキアはじっと罪人を見つめている。
罪人の体は徐々に透き通り、骨が淡く浮かび上がる。
皮膚が崩れ落ちても、男は叫ばない。
ただ。
「・・・っ・・」
音にならない嗚咽を零し、
やがてゆっくりと膝をついた。
シェル「・・・」
男は震える手を胸の前に合わせ、
深く、深く頭を下げた。
それは命乞いではない。
悲鳴でもない。
ただの懺悔だった。
レン「・・・これが、青い炎に焼かれた者が必ず取る行動」
メリサ「何を見てるんだろうね、炎の中で」
フローナ「きっと・・・その人にしか見えない何かですね」
メリサが頷く。
身体がほぼ灰となった瞬間。
執行人が静かに鞭を抜いた。
ザァッ・・・!!
薔薇の棘が光を生み、
灰の塊に音もなく振り下ろされる。
粉々に砕かれた灰は細かな光となり、
ゆっくりと空へ散っていった。
フローナ「終わったんだね」
レン「この街では、これが日常なんですよ」
メリサ「慣れたくない日常だねぇ・・・」
シェルは最後まで目を逸らさなかった。
そして、執行人がこちらへ視線を向けたような気がして、
他の誰より先に気づいたのは・・・コキアだった。
執行人の瞳は、青い炎と同じ色をしていた。
♦︎処刑後
処刑が終わり、罪人の灰が風に溶けた後。
街には再び日常のざわめきが戻っていた。
だが、
仲間の胸に、ひとつずつ小さな違和感が残っていた。
フローナがふと耳に手を当てる。
フローナ「ねぇ、さっきの聞こえなかった?」
メリサ「ん?鐘の音じゃなくて?」
フローナ「違うんです。炎が揺れた時、何か・・・声みたいな」
レンは眉を寄せた。
レン「僕も、微かに聞こえた気がします。
誰かが泣いてるような、そんな音」
メリサ「やめてよ、そんな怖いこと言わないで!」
シェルは黙っていたが、視線は処刑台から外れない。
シェル「あれは“音”じゃない」
フローナ「え?」
シェル「心だ。あの炎は焼いてるんじゃない。
見せてるんだ。罪人の過去を」
その言葉に、皆んなはハッとした。
妙に納得せざるを得ないものがあった。
■ 時計塔に向かう影
突然。
ゴーン・・・ゴーン・・・。
まだ夕刻にもなっていないのに、
時計塔が不自然に鐘を鳴らし始めた。
レン「え?先程鳴ったばかりでは?
決まった時間以外で鳴ることなんてあるんですか?」
通りがかった杖を付いた老人が振り返り、
短く答えた。
老人「青い炎が、揺らいだんだよ。
あの炎は不安定になると、塔の鐘を勝手に鳴らすのさ」
メリサ「炎が鐘を鳴らすのかい?」
老人「ああ」
老人はそれ以上語らず、去っていった。
シェルは深く考え込む。
シェル「炎が感情を持っているのか?誰がそんなものを作ったんだ」
コキアがぽつりと呟いた。
コキア「あの炎、誰かを呼んでるみたいでした」
フローナ「呼んでる?」
コキアが頷く。
コキア「まだ終わってないって、そんな感じで」
その瞬間、
全員の背筋に冷たいものが走る。
レンが処刑台の跡をもう一度見る。
レン「あれ。誰か、立ってません?」
そこには、処刑が終わったはずの台の上に
青い炎の色をした瞳の女が立っていた。
黒いローブに包まれ、表情は見えない。
メリサ「執行人・・・?さっきの人とは違うよね」
シェルは低く呟いた。
シェル「あいつは執行人じゃない」
フローナ「じゃあ、誰?」
コキアは、彼女から目が離せなかった。
女はゆっくりとこちらへ顔を向けた。
青い瞳が光り、何かを語りかけてくるような静かな圧を放つ。
そして、
女の背後に、一瞬だけ“もう一人の影”が重なった。
その影は、処刑されたばかりの罪人の輪郭と同じだった。
レン「今のは・・・」
シェル「見えたか?」
フローナ「え、じゃあもしかして・・・」
シェル「あの青い炎は罪人を焼いてるんじゃない」
メリサ「じゃあ、何してるっていうのさ・・・」
シェルはゆっくりと視線を上げた。
シェル「たぶん、導いてる。
罪人の魂をどこかへ連れて行ってる、そんな気がする」
沈黙が落ちた。
街の上空で、
時計塔の鐘がもう一度、重く響く。
ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・。
その音はまるで、
真実に近づく者への警告のように。
青い炎のカケラが揺らぎ、ひゅおーっと風が吹いた。
皆んなが目を閉じて開けると・・・コキアが居なくなっていた。
し・・・ん・・・。
シェル「!?コキアがいねぇ!!」
レン「バカな・・・」
フローナ「今の一瞬で?・・・」
メリサ「近くに人、いなかったよね?」
シェル(ありえねぇ、誰かが近付けば必ず俺が気配で気付くはず・・・俺でさえ感知できない何かがコキアを攫ったっていうのか?)
その時、先程の老人が再度こちらへやって来た。
老人「そうだ、言い忘れていたけどアンタたち、静寂の森に呼ばれるよ」
シェル「な・・・静寂の森、だと・・・?」
レン「あなたは一体何者です?」
老人「ほっほっほ、ワシはただのしがない占い師じゃよ」
そう言って老人は曲がった腰を杖で支えながら去っていった。




