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67話 リト


フローナ「私、リト君助けたい」


明水と出会った街にある森の中でフローナは迷いなくそう言った。


リト。

肩まで伸びた癖のある赤髪、翡翠色の瞳、尖った小さな耳が特徴の半妖の男の子(8歳)だ。

リトは大人しい性格で距離を取って話すような子だった。

この街の森の中で出会ったのだが・・・フローナにだけは心を許したのかよく懐いていた。

彼の中で自分と同じ"何か"を感じ取ったのだろう。


しかし滞在していた街で、

“半妖を売り物にする貴族たち”にリトが捕まったという情報が入った。


その名が出た瞬間、最初に立ち上がったのがフローナだった。


 


シェル「初めて聞いたな。フローナが仲間以外を助けたいなんて・・・子ども苦手じゃなかったか?」


フローナ「リト君は特別よ」


シェル「このーツンデレ♪」


フローナ「そんなことないもん」


フローナが頬をぷくっと膨らませ、照れ隠しのようにそっぽを向く。


 


シェル「よし分かった。リトを助けに行くぞ。

フローナのボディーガードは俺に任しとけ!」


仁王立ちのまま親指で自分を勢いよく刺すシェル。


フローナ「一緒に来てくれるの?」


シェル「当たり前だろ。仲間が助けたいと思った相手は、俺にとっても助けなきゃならない相手だ。」


フローナ「シェル・・・」


シェル「だがフローナ、約束して欲しいんだ」


フローナ「?」


シェル「一人で突っ走らないこと。絶対に俺から離れないこと。

今回は本当にヤバい場所に潜入するからな」


フローナ「うん。分かった。シェルありがとう」


メリサ「当然、僕も行くよ」


メリサが腰に手を当てながら言う。


レン「隊長はともかく、フローナさんを危険に晒すわけにはいきませんからね。」


コキア「僕も行きます」


フローナ「みんな・・・ありがとう」


と、その時何やらシェルが荷物置き場から取り出した。


ガサガサッ。


レン「隊長、それ例のガスマスクですか?」


シェル「おー、念の為にな」




◆倉庫

囚われたリト。


薄暗い倉庫。

リトは鎖で繋がれ、ケシアと呼ばれる毒煙を“死なない程度”に吸わされていた。

小刻みに震える肩。浅い呼吸。


リト「う・・・ぅ・・・」


ガシャアアン!!!

シェルが扉を盛大にぶっ壊す。

目線の先には捕らわれたリトの姿。弱々しくうなだれている。


フローナ「リト君!!ちょっとあんた!!」

 

フローナが指を指す。


「な、なんだお前らは!?」


シェル「こりゃ酷いな・・・フローナ、行っていいぞ」


看守よりもフローナの方が強いと判断したシェルは、

猟犬を放つかのようにGOサインを出した。


看守「な、何だ貴様は!!」


ドッ!!!


フローナの強烈な跳び膝蹴りが男の鳩尾に突き刺さった。


「ぐえぇ!?」


ドサッ!!!


 

しーーん・・・。



シェル「フローナ、鍵!」


倒れた男の懐から鍵を奪い、すぐにフローナに渡す。


フローナ「ありがとう。リト君、もう大丈夫だからね」


リト「フローナさん・・・?」


震える声が、フローナの胸に刺さる。




♦︎リト奪還後


無事に連れ帰った後。


メリサに解毒剤を打ってもらい、治療を終えたリトはすっかり元気になっていた。


そして、フローナの両手をぎゅっと握った。


フローナ「へっ!?」


リト「あなたは・・・僕の女神様だ・・・」


メリサ「女神様!?」


リト「シェルさんから聞きました。

“フローナが助けたいと言わなかったら助けに行かなかった”って。

・・・あなたが、一番最初に僕を助けたいと言ってくれたから。僕はこうしてここにいられるんです。」

 

フローナ「私は言っただけだよ?助け出せたのはシェルや皆がいたからで・・・」


リト「謙虚なあなたも素敵だ・・・」


レン「これは・・・」

シェル「リト!なにちゃっかりフローナの手握ってんだよ!」


メリサ「まぁまぁ、リト君まだ子どもなんだから」


メリサが宥めに入る。


レン「隊長、大人気ないですよ」


レンにも冷静に言われ、渋々納得しようとする。


シェル「むぅ・・・」


そんなシェルを横目で見るとリトはフローナに思い切り抱きついた。

その勢いでフローナが少しよろける。


ぎゅーーっ!!


フローナ「わたたっ・・・リト君どうしたの?」


リト「フローナさぁん!!」


シェル「あんにゃろ!!」


メリサ「はいはい落ち着いて」




リト「僕、怖かったです・・・ケシアは苦しいし、鎖は痛いし・・・男の人たちは酷いことばっかりするし・・・ぐすっ」


フローナ「リト君!!」


ひしっとフローナがひしっと抱き締め返す。


フローナ「もう大丈夫だよ。悪い奴らはシェルが全部やっつけてくれたからね」


リト「はい・・・」


フローナの肩越しにリトはシェルを見ると

べぇーっと舌を出し、人差し指で目尻を下げて見せた。


レン「おや・・・これは、なかなか侮れないですね。」


メリサ「隊長、これは強敵が現れたねぇ」


シェル「ぐぬぬっ・・・リト!言っとくがな、フローナは"俺の恋人"だからな!!」


メリサ「隊長、子ども相手になに張り合ってんのさ・・・」


リト「確かに今は子どもですけどあと6年で今のシェルさんと同じ歳ですよ」


シェル「リト、お前・・・最初の頃と性格全然違くねーか?」


リト「そんなとこないです、同じです。」


大人気ないシェルと、無邪気なようで謎に落ち着いたリト。


空気がバチッと弾けた後、

リトはくるっとフローナへ向き直る。


リト「フローナさん。

僕はあなたの側にいられるのであれば側室でも構いません」


シェル「な、ななな!!!」


フローナ「そ、側室ってリト君・・・」


メリサ「リト君、どこでそんな単語を・・・ちゃんと意味分かって言ってるのかい・・・」


レン「恐ろしい子だ・・・」


 

♦︎そして・・・。


リトは修行の為、明水のところでしばらく預かることとなった。

リト本人が修行をしたいと申し出たのだ。


リト「フローナさん、また会いましょうね。」


フローナ「うん。会おうね。またね、リト君」


リトは再びフローナの手を取り、甲にそっとキスをした。


シェル「あっ!!リト、てんめっ!!」


メリサ「まーまー、リト君はしばらく会えないんだから。多めに見てあげようよ。」


シェル「分かったよ・・・」



リト「フローナさん・・・いえ、僕の女神様。

どうかお気を付けて。」


フローナ「は、はい・・・」


最初の時とのギャップに加えて情熱的で紳士的なリトの対応にフローナはドキドキさせられながらも

無邪気で可愛いらしいリトの笑顔が戻り安堵する。



こうして、

シェルにまた新たなライバルが誕生したのだった。

 

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