66話 明水
フローナがまだ旅に慣れていなかった頃。
フローナ「・・・あ、れ・・・?」
シェル「フローナ、大丈夫か!?」
メリサ「フローナちゃん、どこかで休もう。」
レン「そうしましょう」
コキア(黙って付いていく)
視界が白く霞み、膝が折れかけたその瞬間。
落ち着いた男性の声が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
一切の揺るぎのない静かな水面のような声の主・・・それが明水だった。
フローナ「あなたは・・・?」
明水「ここの寺で僧侶をしてます、明水と申します」
目の前に立派な寺が見える。
明水「もし、よろしければ中に入って休憩をしていって下さい」
シェル「それは助かるが・・・」
メリサ「フローナちゃん、たぶん低血糖だよ」
シェル「そうか、なら甘いものを買いに行ってキャンピングカーに戻るか?」
明水「安心して下さい。甘いものをすぐにご用意します。」
シェル「そうか、それなら頼んでもいいか?」
シェルは仲間に危害を加える相手でないと判断すると
明水の力を借りることにした。
明水「どうぞこちらへ」
♦︎寺の中
カポーーン。
和室で差し出されたのは、きな粉がふんわり香る柔らかいわらび餅。
さらに湯気の立つ温かいお茶をそっと出された。
甘さが舌に触れた瞬間、ふらついていた身体がじんわりと軽くなっていく。
フローナ「ふぅ・・・明水さん、ありがとうございます・・・」
ようやく絞り出せた声に、明水は優しく微笑んだ。
明水「困った時はお互い様ですから。
でも、無理をしてはいけませんよ。旅は体力勝負ですからね。」
シェル「俺がフローナの許容範囲を超えさせちまったんだ。ごめんな。」
フローナ「ううん・・・私の方こそ体弱くてごめん」
その時、明水が微笑んだ。
レン「?どうかしましたか?」
明水「ああ、いえ・・・お互いがお互いを大事に思い合っている、素敵な仲間がいるのだなと感心しまして。」
メリサ「隊長は優しいからねぇ、仲間には」
シェル「仲間あっての旅だからな」
明水「少しペースを落とされては?」
シェル「ああ、そうするよ」
シェルが肩をすくめる。
フローナが心配そうにシェルを見つめる。
シェル「大丈夫だよ、俺たちの旅は先を急ぐ旅じゃないから」
メリサ「そうさね。今回はちょっと予定を詰めちゃったけど、僕らは戦いの時以外はの〜んびり行けばいいよ。ね、コキア君。」
コキア「はい」
レン「まぁ、我々は旅よりも隊長の暴走の方が体力いりますがねぇ・・・青い蝶々を見かけては走り出し、赤い鳥を見かけては走り出す。」
シェル「ごめん気を付ける。」
明水「おやおや、シェルさんは感受性が豊かなのですね」
レン「この人はただの子どもですよ」
フローナ「皆んな、ありがとう・・・」
そんな柔らかな雰囲気を感じ取った明水はふわりと微笑んだ。
優しい陽だまりのような空間だった。
それ以来、メリサはバッグに飴や氷砂糖を入れて持ち歩くようになった。




