64話 人質無意味
敵に捕まったフローナを奪還しようと、シェルは全速力で崖道を駆け抜けていた。
仲間たちは遠く後ろから追いかけていく。
その行く手を阻もうと、一人の男が作戦を決行していた。
ザク。
センターパートの緑色の髪に赤いメッシュ。
瞳はグリーン。尖った耳が特徴。
シェルと同い年で、
何かとシェルに突っかかっては軽くあしらわれている。
崖には、木に紐で括り付けられた人間の子どもがぶら下がっている。
ザクが勝ち誇ったような顔で呟く。
ザク「ふ、これで奴を足止めでき・・・」
ダダダダダッ!!(無視)
ザク「あっさり無視しやがったーー!!」
シェルは完全に聞こえてない。
シェル「あんのやろー!!フローナに手ぇ出してたらマジで許さん!!待ってろフローナ、今行くからな!!」
ザク「いや、違う!奴は周りが1ミリも見えてないんだ!
人間達と連んでるから、この手が効くと思ったのに・・・くそ、足止め失敗だ!!」
仕方なく男は崖から少年を引き上げ、道にぽんと置いてシェルを追いかける。
ザク「待てコラー!!」
少年「・・・」
怯えるどころか、少年はただ黙ってその背中を見送っていた。
ザクが全速力で走るシェルに追いつき、話しかける。
ザク「おいコラ」
シェル「・・・」
ザク「おいコラ、シェル!!てめぇシカトこいてんじゃねーよ!!」
シェル「・・・」
ザク「こいつ・・・マジで周り見えてねぇのかよ・・・」
♦︎
戦いが終わり、フローナを無事に奪還できた後のこと。
シェル「さっきは助けてくれてありがとな」
ザク「うるせぇ!あんなの不可抗力だ!
てめーが邪魔だったから俺が斬っただけだ!!」
シェル「はいはい」
そこへ、とととっと少年が近づいてきた。
ザク「ん?なんだ、お前もここまで来てたのか」
少年「僕も連れてって」
ザク「はぁ??お前もう忘れたのか?
俺はお前を崖に吊るしたんだぞ!!」
メリサ「えぇっ!?そうなのかい!?
ちょっと君、そんな男のそばにいたら危ないよ!」
少年「でも、僕・・・帰る場所ないし・・・」
ザク「知らねーよ!俺はガキの面倒なんか見てる暇ねーんだよ」
少年「あっ・・・怪我・・・」
少年がザクの腕の血に気付く。
ザク「あ?あー、こんくらい、ただのかすり傷だろーが、唾でも付けときゃ治る。」
少年はそっと手をかざす。
すると光が溢れ、傷が一瞬で消えた。
ザク「・・・は?お前、今何した?」
少年「僕、傷を治せるんだ。でもそのせいで気味悪いって言われて、親から見放されて街から追い出されちゃったんだけどね」
ザク「・・・」
(数秒の沈黙)
ザク「仕方ねぇ。そんなに言うならお前を俺の下僕にしてやってもいい!」
ザクが上からビシィッ!!っと少年を人差し指で指刺す。
シェル「はは、現金なやつ」
ザク「うるせぇ!!・・・んで、お前名前は?」
ユハ「ユハ」
ザク「ユハだな、俺はザクだ。」
ユハ「ザク・・・連れてってくれるの?」
ザク「ああ、連れてってやる。
た・だ・し!何度も言うが“下僕として”だからな!!」
ユハ「うん!」
下僕と言われているのにも関わらず、ユハは純粋な瞳で頷いた。
ザク「ついて来いユハ」
ユハはとてて・・・とザクの後ろを付いていく。
シェル「優しくしてやれよザク〜!!」
シェルが声を掛けるとザクが不機嫌そうな顔で振り返る。
ザク「うるせぇ!俺に指図すんじゃねえ!!」
去っていく二人の背中を見送った後、メリサが話しかける。
メリサ「隊長、本当にあの子、大丈夫なのかい?」
シェル「ああ。ザクはああ見えて根はいい奴だからな」
メリサ「そうかい?それならいいけどさ」
こうしてザクとユハは、新たな旅へと踏み出したのだった。




