54話 水龍とフーライとユーエン
♦︎昼
チューリップ畑に来た時の話。
フローナ「わぁ、チューリップ綺麗〜!」
シェル「ほんとだな。持って帰って飾るか?」
フローナ「・・・ううん。せっかくここに咲いてるのに摘んだらかわいそう。
それに、この子たちの居場所はきっとここなのよ。」
シェル「フローナってほんと花好きだよな」
フローナ「うん」
シェル「俺、フローナのそーゆーとこ好き」
フローナ「え」
シェル「ははは、顔真っ赤!」
フローナ「誰のせいよ」
♦︎夕方
半妖たちが集まる広場。
夏の日差しが照りつける中、シェルたちは休憩をしていた。
すると。
フローナを見るなり、知らない男が声をかけてきた。
「ねぇねぇ君」
青い長髪がさらりと揺れ、尖った耳が日差しを反射する。
整った顔立ちにスラリと伸びた背、その姿はどこか涼しげで見る者を惹きつけるほど美しい。
水龍が軽く手を挙げると、
後ろにいた二人の女性も歩み出る。
水龍「俺は水龍、あ、ちなみにこの二人は俺のガールフレンドたちだ」
と言ってはいるが、二人は水龍の纏う朗らかな空気とは違いどこかかしこまっていた。
フローナに対し、敵意を持っている感じもない。
ガールフレンド、とは少し違うようだ。
フーライ「フーライです、よろしくお願いします」
ユーエン「ユーエンです、よろしくお願いします」
♦︎二人は幼馴染
フーライ。20歳は黒髪ポニーテールに尖った耳。瞳は黒。
礼儀正しく、言葉遣いが丁寧な女性だ。
防御魔法の使い手で水龍のボディーガード役を務めている。
ユーエン。20歳は銀髪ポニーテールに尖った耳。瞳は黒。
礼儀正しく、言葉遣いが丁寧な女性だ。
防御魔法の使い手で水龍のボディーガード役を務めている。
二人は数年前、タチの悪い奴隷商人に捕まり、売られそうになったところを水龍に助けられた。
それ以来、二人は水龍を慕い、ボディーガード役を買って出た。
♦︎過去
山間にひっそりと存在する小さな集落。
澄んだ川が流れ、霧の多い朝が当たり前のように訪れる土地だった。
フーライとユーエンは、その集落で生まれ育った幼馴染だ。
フーライは昔から慎重で、周囲をよく見て行動する子だった。
ユーエンもまた同じく礼儀正しく、真面目で少し後ろをいく子だ。
フーライ「ユーエン、早く行きますよ」
ユーエン「フーライ、足元が滑りやすいと言っているでしょう」
言葉遣いも態度もよく似ていて、
違うのは歩く速さくらい。
幼い頃から、二人の関係は変わらない。
一歩前を行くフーライと、それに並ぶユーエン。
互いを気に掛け合いながら、自然と隣にいる存在だった。
二人には共通点があった。
尖った耳を持つがゆえ、外の世界では“珍しい存在”として見られることが多かったことだ。
集落の中では守られていたが、外へ出ることは滅多に許されなかった。
運命が狂ったのは、二人が十代半ばの頃。
物資不足に悩む集落に、外から商人を名乗る一団がやって来た。
人当たりの良い笑顔、丁寧な物腰。
「仕事を手伝えば、きちんと報酬を出しますよ」
「外の世界も、少しだけ見せてあげましょう」
疑うには、二人はあまりに真面目過ぎた。
――そして、それは罠だった。
気づいた時には、手首に冷たい枷。
馬車の中、揺れる床、下卑た笑い声。
「この耳、やっぱり珍しいな。二人とも可愛いし、高く売れるぞ。」
フーライは必死に声を上げた。
フーライ「離してください! 」
ユーエン「私たちは!」
言葉は途中で遮られ、二人は殴らた。
「おい、大事な商品だ。傷を付けるな。」
「ああ、そうだったな。」
フーライは歯を食いしばり、そっとユーエンの手を握った。
フーライ「大丈夫です。必ず、抜け出しましょう」
それは祈りに近い言葉だった。
夜。
檻の中で、二人は肩を寄せ合った。
フーライ「私が、もう少し慎重に行動してさえいれば・・・」
ユーエン「いいえ。私も、男たちの本性を見抜くべきでした」
恐怖の中で、二人は初めて“死”を意識した。
売られ、引き離される未来。
ユーエンの手が、小さく震える。
ユーエン「フーライ、私、怖いです」
フーライ「私もです、ユーエン。ですが」
フーライは静かに息を吸う。
フーライ「生きて、二人でここを出ましょう」
数日後。
奴隷市場へ向かう途中、馬車は大きな湖の前の道を通った。
その瞬間、空気が変わった。
水面がざわめき、踊り始めた。
商人たちがざわついた、その時・・・。
向こう側から誰かが来る。
水龍だ。
水龍「女の子たちにずいぶん酷いことするじゃないか」
次の瞬間、商人たちは悲鳴を上げ、
武器を構える間もなく水の奔流に飲み込まれていった。
水龍は剣で檻を砕いた。
水龍「大丈夫か?」
フーライ「は、はい・・・」
ユーエン「あの、あなたは・・・?」
水龍「俺は水龍だ」
その後、二人は水龍の看病のもとで殴られた傷、鎖の傷跡を癒した。
体を癒すうちに心の傷も癒えていく。
フーライ「水龍さん、どうして私たちを助けてくれたのですか?」
水龍「俺さ、ここの湖好きなんだよね、
景色が綺麗でさ。
そんな俺のお気に入りの場所で女の子が鎖で繋がれてるのなんて気分悪いじゃん。それだけの理由。」
それから数年。
二人は水龍のもとで魔法を学んだ。
防御魔法を中心に、基礎から徹底的に叩き込む。
水龍「はい、もう一回。今のは惜しい」
フーライ「はい!」
水龍「お、今のはいいな。ちゃんと集中できてる」
ユーエン「ありがとうございます!」
褒める時は素直に、
叱る時もどこか明るい。
攻撃ではなく、守るための力を。
フーライ「誰かを守れる力でありたいです」
ユーエン「私も同じです」
フーライ「いずれは水龍様を・・・」
ユーエン「私もそう思います」
水龍「君たち・・・ありがとう」
やがて、
フーライとユーエンは、水龍の隣に並んで旅をするようになる。
湖の水面には、三つの影がゆらゆらと揺れている。
♦︎そして現在
フローナ「フローナです、よろしくお願いします」
フローナが二人に向かってペコリとお辞儀をすると
フーライとユーエンもお辞儀をする。
水龍「フローナちゃんか、可愛いね。」
フローナ「それはどーもありがとうございます。フローナです」
フローナは特に動じた様子もなく、指先をピッと上げて返事をした。
すると、水龍は目をまん丸くしながら笑った。
水龍「ははは、フローナちゃんって面白いね。ねぇ、俺とデートしない?」
フローナ「えー、どうしようかなぁ」
レン「あれ・・・意外とフローナさん満更でもなさそうですね」
メリサ「フローナちゃんってなーぜか半妖にモテるよねぇ。隊長とかキリュウ君とか」
レン「うーん・・・(否定できない)」
水龍「いいじゃん♪ 行こうよデート」
シェル「良いわけないだろ」
シェルが後ろからズイッと割って入る。
フローナ「シェル!」
水龍「なに君。ひょっとしてフローナちゃんの彼氏?」
フローナ「あ、いえ、シェルは・・・」
シェル「違うよ」
水龍「じゃあ別にいいじゃん。俺が今フローナちゃん口説いてんだから、邪魔しないでくれない?」
シェル「いーや。隊長として、仲間が変な男に引っ掛かるのを黙って見てるわけにはいかないな」
水龍はじとっとシェルを見ると口角を上げた。
水龍「ふーん、隊長としてねぇ・・・(ニヤリ)」
二人の視線がバチバチとぶつかる。
フローナ「やめて二人とも! 私の為に争わないで! ・・・きゃ!なんちゃって!」
メリサ「フローナちゃん、君は呑気だねぇ」
フローナ「一度言ってみたかったんですこの台詞」
レン「隊長が少し気の毒な気がしますね」
コキア(近くを飛んでいた蝶々を眺めている)
水龍「まぁまぁ。夜までにはちゃーんと返すからさ」
そう言って水龍はある“写真”をシェルに見せる。
シェル「あのなぁ・・・なるほど、そういうことか」
水龍「ね!」
シェル「だが、俺も隊長だ。見ず知らずの奴にフローナを連れてかせるわけにはいかないだろ」
するとフローナが、シェルの服の裾をクイッと引っ張った。
フローナ「この人、悪い人じゃないよ」
水龍「お、フローナちゃん話が分かるねぇ」
シェル「え、何でそう思うんだ?」
フローナ「感?」
シェル「感か・・・で、フローナはどうしたい?」
フローナ「私はデートくらいならしてもいいよ」
水龍「やったー! ありがとうフローナちゃん!」
水龍がフローナの手を取り、ブンブンと降った。
その間、フーライとユーエンは二人のやり取りを黙って見守っている。
妹に似ていることは、出会ってすぐに気付いていた。
メリサ「いや、水龍君、ガールフレンドがいるのにさすがにそれはまずいんじゃない?」
フーライ「それならば大丈夫です」
ユーエン「ガールフレンドと可愛いらしく言って下さっていますが・・・
私たちは仲間であり、水龍様のボディーガードですから」
フーライ「事情も分かっていますので」
メリサ「え、事情?」
レン「先程の写真のことですか?」
フーライ「はい」
ユーエンもゆっくり頷く。
シェル「ま、俺はフローナがいいって言うなら何も言わない。けど、手だけは出すなよ!」
水龍「分かってるって。てか今までも遊びで手出したことないけどねぇ」
メリサが二人を見る。
フーライ「私たちも、ずっと旅をしてきていますが
そのようなことは一度もありませんでした」
ユーエン「水龍様は紳士的でお優しい方ですから」
見た目や話し方とは違い、水龍は真面目で誠実な人のようだ。
レン「へぇ・・・意外と真面目なんですね」
水龍「でしょー?」
♦︎
フローナ「じゃあちょっと遊んでくるね」
シェル「くれぐれも気を付けてな! 危なくなったらすぐ叫ぶんだぞ?」
フローナ「うん、分かった」
♦︎少しして
街を並んで歩く二人。
フローナ「水龍さん、どこ行くんですか?」
水龍「あー、タメ口でいいよフローナちゃん」
フローナ「うん、分かった」
水龍「じゃあまずは街中お散歩しよっか」
フローナ「うん」
♦︎カフェの前。
カフェの玄関付近には美味しそうなケーキのイラストが書いてあるメニュー表が置いてある。
フローナ「わぁ、ケーキ美味しそう!」
水龍「気になる?」
フローナがこくこくと頷く。
水龍「じゃあここにしよう」
フローナ「いいの?」
水龍「うん。俺はフローナちゃんと話したかっただけだから。場所はどこでもいいんだ」
その柔らかい声色にフローナはふわりと微笑んだ。
カフェに入るフローナの後ろ姿を水龍が見つめる。
水龍は昔のことを思い出していた。
♦︎過去。
ミリア「お兄ちゃん!私、ケーキ食べたい!」
水龍「分かった、一緒に食べに行こうな」
ミリア「うん!お兄ちゃん大好き!」
お店に入り、テーブルに座った。
メニュー表を見る。
フローナ「うわぁ、どのケーキも美味しそう〜!」
水龍「どれでも好きなもの頼みなさい」
フローナ「・・・」
フローナ"やっぱりこの人・・・"
フローナ「じゃあいちごタルトとアイスティにする!」
水龍「了解、そこの可愛い店員さん、いちごタルトと紅茶二つずつお願いね」
店員「は、はい」
(イケメンに可愛いって言われちゃった!半妖みたいだけどイケメンだから何でもいい!!)
フローナ「水龍君、私と同じもので良かったの?」
水龍「うん」
ケーキを食べ終わった頃、フローナが話を切り出した。
フローナ「ところで水龍君」
水龍「なんだい?」
フローナ「そろそろ教えてくれない?」
水龍「え、何を?」
フローナ「どうして私を誘ったのか」
水龍「ん?だから君が可愛かったからだって」
フローナ「私より可愛いコなんていくらでもいるでしょう?それに、水龍君モテるし、女の子には困ってなさそうなのにどうしてだろうって思って」
水龍「フローナちゃんって意外と鋭いんだね・・・
可愛いって言われても全然自惚れないし。
うん、分かった。ここまで付き合わせておいて本当のこと言わないのはフェアじゃないしね。
話すよ、俺がなぜ君を誘ったのかその理由をね。」
フローナがふわりと微笑む。
フローナ「うん」
水龍「その理由はこれさ」
水龍は一枚の写真を懐から取り出し、フローナに見せた。
髪は水龍と同じ青色だがショートヘア。
年齢差は多少あるものの、笑った顔がフローナにそっくりだった。
フローナ「この子は?」
水龍「俺の妹さ、ミリアって言う名前でね。
生きていたらちょうど今の君と同くらいの歳になるかな」
フローナ「生きてたらってことは・・・」
水龍「亡くなったんだ、7年前に。
妹は体が弱くてね、長年患っていた病である日突然
治療したり俺の血を分けたり、手を尽くしたけどダメだった。」
フローナ「そっか・・・それで似てる女の子を探してたの?」
水龍「いや、それは単純に俺が女の子大好きなだけ」(しれっ)
フローナ「あ、そう・・・」
水龍「でもフローナちゃんは違うんだ。
一目見て妹に似てるなって思ったら体が勝手に動いて・・・気付いたら声をかけてた」
フローナ「なるほどね」
♦︎会計時。
フローナ「あの、お金・・・」
水龍「女の子はそんな事気にしなくていいの」
フローナ「ありがとう・・・」
店員「2000円になります・・・良かったらこちらどうぞ」
水龍「ん?チケット?」
店員「はい、このお店から少し離れたところに植物園があるんです。
このチケットを持っていくと半額で見られるのでぜひ」
水龍「そうなんだ。ありがとう」(ニコッ)
店員「キューン・・・」(イケメン・・・イケメンが過ぎる・・・)
♦︎店の外。
フローナ「水龍君、ごちそうさまでした」
水龍「どういたしまして」
フローナ「植物園のチケット・・・もらっちゃったね」
水龍「うん、植物園か、ミリア、花が好きだったなぁ・・・」
チケットを見つめ、水龍が瞳を揺らす。
そんな水龍を見てフローナが言った。
フローナ「水龍君、行こう!植物園」
水龍「え、でも・・・いいの?」
フローナ「私も花好きだから」
水龍「そっか・・・妹が生きていたらフローナちゃんと話が合っていたかもしれないね」
♦︎植物園へ向かう途中。
水龍「フローナちゃん!危ない!」
フローナ「え」
立てかけてあった鉄パイプがフローナの方へ倒れてきた。
ガシャーン!!!
水龍「大丈夫?」
フローナ「うん・・・!水龍君、手!怪我!」
見ると水龍の手の甲が擦り切れて血が出ていた。
水龍「あー、ただのかすり傷だよ。
これくらい放っておけば大丈夫。それにほら、俺、半妖だから。」
フローナ「ダメだよ、ちゃんと手当しないと!
ばい菌が入ったらどうするの?怪我にね半妖とか関係ないの。はい、絆創膏!」
フローナはカバンから絆創膏を取り出し、水龍の手の甲にぺっと貼った。
水龍「ありがとう・・・」
♦︎過去。19年前。水龍3歳。
ミリアが産まれてくる少し前。
水龍が腕に怪我をして帰って来た時の事。
水龍の母(人間)「水龍は強い子だからこれくらいの怪我ヘーキよね?痛かったら自分で手当てしてちょうだいね」
水龍「うん」
水龍の父(妖怪)「お前は人より体が強いんだから妹を守ってやれよ」
水龍「分かったよ、父さん」
自分の部屋。
水龍「いたた・・・まだ血出てる、自分で手当てしよう」
水龍は利き手じゃない左手で右腕の消毒を終え、たどたどしく包帯を巻き始めた。
水龍「ちょっとガタガタだけどないよりはマシか」
その後ろ姿はまだ小さく、幼かった。
それから3年後。
水龍は修行中に怪我をして帰って来た。
ミリア「お兄ちゃん!怪我したの!?大丈夫?」
水龍「ちょっと指が切れただけだよ」
ミリア「血が出てるじゃない。すぐに手当てしないきゃ!!」
水龍「これくらい放っておけば治るよ。兄ちゃん人より体強いから大丈夫だよ。」
ミリア「ダメだよ!体が強くたって怪我は怪我なんだから!強いとか弱いとか関係ないの」
ミリアは絆創膏をバッグから取り出して水龍に貼った。
水龍「・・・ありがとうミリア」
今まで俺の心配をしてくれる人なんていなかった。
半妖だから。人より体が強いから。
周りの大人達には俺が怪我をしても熱を出してもお前なら大丈夫だろうと言われて放置されることが多かった。
でもミリアだけは違った。
自分の方が体が小さいのに。自分の方が体が弱いのに。
いつも俺の心配をしてくれた。
水龍「なぁ、ミリア、兄ちゃんは大丈夫だから。
ミリアは自分の体の心配をしてくれよ」
ミリア「私のことはいいの」
水龍「いや、そういう訳にはいかないんだよ」
ミリア「だって、私のことはお兄ちゃんが心配してくれるから。
だから私はお兄ちゃんの心配をするの!」
水龍「!ミリア・・・」
水龍はミリアを抱き締めた。
ミリア「お兄ちゃん?よしよし」
ミリアは水龍の頭を初めて撫でた。
水龍「・・・」
水龍は黙ったまま、しばらくミリアを抱き締めていた。
それから一年後。両親はたまたま遭遇した強い妖怪に殺された。
両親が最後まで俺とミリアを守ってくれたおかげで何とか二人生き残る事ができた。
水龍の母「ミリア、あなたは体が弱いんだからお兄ちゃんにしっかり守ってもらいなさい」
ミリア「うん・・うん・・・」
ミリアは涙を必死で堪えていた。
その震える肩を水龍が支えた。
水龍の父「水龍」
水龍「何?父さん」
父「水龍、お前は妹に守ってもらいなさい」
水龍「え?・・・」
母「私達は体の弱いミリアのことばかりであなたのことを放置し過ぎたわ、ごめんなさい」
水龍「そんなのいいんだよ母さん。俺は人より強いんだから」
母「あなたは体は強いけれど心はそう強くはないでしょう?だからこれからは二人で支え合って生きていってちょうだい」
水龍の父「水龍、ミリアを頼んだぞ、ミリア、水龍を頼んだぞ」
水龍「母さん、父さん・・・」
♦︎現在。
フローナ「水龍君、どうしたの?」
水龍「ちょっと昔のことを思い出したんだ」
フローナ「昔のこと?」
水龍「うん」
その壊れそうなほど綺麗な微笑みに
フローナはそれ以上の事は聞けなかった。
フローナ「植物園、行こっか」
水龍「そうだね」
♦︎植物園
午後の柔らかな光が差し込む大きな温室。
ガラス越しに見える高い木々は、まるで森がそのまま閉じ込められたかのようだ。
フローナ「わぁ!!あの木すご〜い!花綺麗〜!!」
水龍ははしゃぐフローナを見つめる。
♦︎
ミリア「お兄ちゃん見てみて!この花、すっごく綺麗だよ!!」
水龍「ほらミリア、はしゃいで転ばないように。
足元気を付けるんだよ。」
ミリア「はーい!!」
♦︎
水龍の瞳に涙が滲む。
フローナ「水龍君ー!!こっちのも綺麗〜!!」
水龍「今行く」
水龍がフローナが見ている場所へ来る。
水龍「俺さ、フローナちゃんと来れて良かったよ」
フローナ「私もだよ!」
水龍がフローナを見る目はどこまでも優しかった。
♦︎帰り際。
水龍「今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかったよ」
フローナ「うん、私も楽しかった、色々とありがとう」
水龍「フローナちゃん」
フローナ「何?」
水龍「またデートしてくれる?」
水龍の瞳が再び揺れる。
フローナ「うん、いつでも!」
水龍「ありがとう」
水龍はそう言って切なげに微笑みながらフローナの頭を優しく撫でた。
フローナ(優しい撫で方だなぁ・・・本当に妹さんのことを大切にしていたのが伝わってくる。
そして今も大切に思ってる。)
水龍「じゃ、俺はそろそろ行くよ」
フローナ「うん、またね」
♦︎
フローナに挨拶した水龍はシェルに近寄り、耳元で囁いた。
水龍「じゃあね、チェリー君♪」
シェル「その呼び方辞めろっ」
シェルは耳を手で押さえ、顔を赤くしながら小声で反論する。
水龍「フローナちゃんに好きって言えたら呼ぶの辞めたげるよ」(ニヤニヤ)
水龍も小声で話を続ける。
シェル「な、なんでお前にそんなこと言われなきゃならないんだよ」
水龍「へぇ、好きって言わないってことは君の気持ちも大したことないんだね」(煽)
シェル「あのなぁ、俺はちゃんと好きだっつーの」
水龍「あのねぇ、恋なんてただでさえ曖昧なんだから
好きなら好きって伝えないと、好きじゃないのと同じなんだよ?」
シェル「う、そ、それは・・・」
♦︎カフェ
水龍「フローナちゃん、あの半妖君が好きなんでしょ?」
フローナ「え!?な、何でそれを・・・」
水龍「だってフローナちゃん分かりやすいんだもん」
フローナ「///」
水龍「その様子だと告白はまだって感じか」
フローナ「言えないよ」
水龍「どうして?」
フローナ「私には眩し過ぎて・・・」
♦︎
水龍「あんまりのんびりしてるとフローナちゃん、他の男に取られちゃうよ?」
シェル「でも、フローナは恋愛興味ないって言ってたし・・・」
水龍「はぁ、これだからチェリー君は・・・。
それはね、現段階ではってことなの。ある日突然恋に落ちることだってあるんだからさ、
明日フローナちゃんのタイプの男がひょっこり現れて連れ去っちゃうかもしれないよ?
本当に好きならちゃんと捕まえときなよ」
シェル「う・・・」
水龍の正論に何も言い返せないシェル。
水龍「じゃ、とにかく次会う時までに告白しときなよね」
そしてフローナに再び近付き、小声で伝える。
水龍「あ、そうだ」
フローナ「?」
水龍「シェル君、耳弱いみたい」
フローナ「耳?」
シェル「水龍ー!!」
シェル「あはは、じゃあまたねー!」
水龍はそう言うとシェルの返事も聞かずに手を振りながら去っていく。
フーライとユーエンがペコリとお辞儀をすると水龍の後ろに付いていく。
フローナにとって本当のお兄ちゃんができたような
温かい一日だった。




