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53話 キリュウとココア


夜。

キャンピングカーの中はすっかり静まり返り、

聞こえるのは、遠くの虫の声と、エンジンの微かな余熱音だけ。


フローナは布団の中で、何度目かの寝返りを打った。


フローナ(眠れない・・・)


喉が渇いたのか、胸の奥がざわざわするのか、

理由はよく分からないけれど、どうしても目が冴えてしまっていた。


何か飲もう。そう思って、そっと部屋を抜け出しキッチンに向かう。

そこにはキリュウが座ってコーヒーを静かに飲んでいた。

たまにこうしてキリュウがシェルたちに加わって移動することがある。


 

フローナ「あ、キリュウ君」

キリュウ「なんだ、眠れねーのか?」

 

キッチンで二人は顔を見合わせた。

 

フローナ「うん」

キリュウ「・・・何か飲むか?」

フローナ「うん、ココア飲もうかなって」

キリュウ「そうか、それなら俺もコーヒーをもう一杯飲もうと思っていたところだ。待ってろ」

フローナ「え、いいよ、それくらい自分でやるよ」

キリュウ「いいから座ってろ」

フローナ「う、うん・・・」


カタンと音がして顔を上げる。

レンの作る様子を見ていたキリュウは大体の物の位置は把握していた。


フローナ「え、インスタントじゃなくて粉から作ってるの?」


キリュウ「まあな」


♦︎少しして。


キリュウ「ほら」

フローナ「ありがと、ん!美味しい!!」

キリュウ「そうか」


フローナ(レンさんが作ってくれるココアは甘めだけどキリュウ君のはほろ苦だ・・・苦めなのも好きかも。)


フローナ「なんか意外」

キリュウ「なにがだ」

フローナ「キリュウ君がココアの作り方知ってたなんて」

キリュウ「ああ、ミネが好きだったからな。よく作ってたんだ」

フローナ「へぇ、キリュウ君ってほんと優しいんだね」


キリュウ「俺は優しくない」

フローナ「もー素直じゃないんだから」



♦︎

・・・。

フローナ「ん、眠くなってきたかも、今なら寝れそう」

キリュウ「部屋まで送る」

フローナ「え?そんな大丈夫だよ」

キリュウ「貧血なんだろ」


じっとアーモンド型の鋭い目を見られ降参する。

しかし、その目の中に優しい光が差していることをフローナは知っていた。


フローナ「わ、分かった、お願いするよ」



♦︎

・・・。


フローナ「あの、もう部屋着いたから大丈夫だよ?

ありがとう」

キリュウ「おー」

 

フローナ「お休みなさい」

キリュウ「お休み」


パタン、と扉を閉めてベッドに座り込む。


フローナ(貧血とはいえこれは・・・キリュウ君って結構過保護なのかな?)


ココアと、キリュウの優しさで心が温まったフローナは

ゆっくりと目を閉じ、静かな眠りへと誘われていった。

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