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50話 ソード


雨が降りしきる夜。

地面を叩く水音と、遠くの方で落雷が聞こえる。


雨の中を傘を差して歩いていると

道端に置かれた小さな箱を見つけた。

その中で、雨に打たれながら震えている一匹の子犬がいた。

骨ばった体、濁った瞳、息も浅い。

 

キリュウ「なんだ、お前も捨てらちまったのか?」

子犬「クゥン・・・」

 

キリュウ(僅かだが妖気を感じる。見た目も普通の子犬とは違うし、おそらくそれが原因で捨てられたんだろうな)


キリュウ「何も悪いことしてないのにな」

 

ほんの一瞬、キリュウの表情が曇る。

それを感じ取ったのか、子犬は弱々しくも前足を伸ばし、キリュウの濡れた手をぺろりと舐めた。

 

キリュウ「何だ、俺を慰めてんのか?」

 

キリュウ(こんな小さな体で、こんなに弱ってんのに俺の心配してんのかこいつは・・・)


キリュウはそっと子犬を抱き抱えて歩き出した。



♦︎

洞窟の奥。

焚き火の火がぱちぱちと音を立て、赤い光が岩壁を照らしている。


キリュウは狩ってきた獣の肉を焼き、

短剣で細かく刻んで、葉の上に乗せた。


キリュウ「ほら、食え」


すると子犬はふらつきながらも匂いに誘われたのか肉を少しずつ食べ始めた。


キリュウ(体もやせ細っててかなり衰弱してるし体温も冷たい。

食ったら温めてやらねーとな。)

 

キリュウはご飯を食べた子犬を足の上に乗せると

自分の体温を分け与えるように温めた。


キリュウ「いつまでもおいって呼ぶのもあれだな」

 

その声に反応したのか、

子犬はふらふらと立ち上がり、

キリュウの剣へと近づいていった。


くんくんと鼻を鳴らし、興味深そうに匂いを嗅ぐ。

 

キリュウ「フッ、名前決まったな」


子犬の名前は"ソード"。


その瞬間、

洞窟の外で雨が止み、雲の隙間から朝日が差し込み始めた。



♦︎敵と遭遇。


数日後。

森の奥深くで出会った突如現れた気配。

空気が張り詰め、殺気が肌を刺す。


今回の敵は明らかに格が違った。

かなりの強敵だ。


激しい攻防の末、キリュウは片膝をつく。

呼吸が荒れ、視界が揺れる。


その前に

小さな影が、震えながらも立ちふさがった。

膝をついたキリュウの前にソードが立って威嚇した。

 

ソード「ワンワンワン!!」

キリュウ「ばか!何してる、早く逃げろ!!」

 

「フン、子犬か、邪魔だどけ!」

 

敵がソードに刀を振り下ろされる。


キリュウ「くっ!!」

 

キンッ!!


キリュウは肩で息をしながら何とか相手の刀を受け止めた。


「貴様半妖だろう!たかが子犬を何故構う!

そんな何の役にも立たない子犬を」

 

キリュウ「てめーには関係のない話だ」


と、その時。

ゴロゴロ・・・ピシーアァン!!!


天から二人めがけて雷が落ちた。


「ぎゃははは!!運の悪い奴らだ・・・なに!?」


煙が晴れ、そこに立っていたのは先程までの小さなソードではなかった。


巨大な体。

毛並みから走る雷光。

全身から溢れる膨大な電気。


キリュウ「ソード、お前、雷獣だったのか・・・」

ソード「ガウッ!!」


金色へと変わったキリュウの髪が、雷光を反射している。


「雷獣か・・・貴様も髪の色が変わっている、雷属性だったか」

キリュウ「らしいな」


「属性は生まれつき使えるパターン。途中から使えるパターン。属性を持つ奴が隣にいて覚醒するパターンの三つだ。お前はどうやらそれに当たるらしい」

 

キリュウ「俺にとってソードがその相手だったらしい」

 

「面白い、覚醒したお前たちと俺、どちらが勝つか勝負するとしよう」

 

キリュウ「負ける気がしないがな」


「ほざけ!!」



雷と剣が交錯し、

大地を裂く轟音が森に響き渡った。


 

♦︎

そして、戦いは終わった。

キリュウとソードの圧勝だ。


ソードがキリュウの周りをくるくると駆け回っている。

キリュウが名前を呼ぶと、ピタリと目の前に止まり、座る。


ソード「わん!わん!」

キリュウ「ありがとな、助かったよ」

 

キリュウが撫でると心地良さそうにしている。


キリュウ「しっかし、この電気まさかずっとこのままじゃねーだろーな・・・」


ソード「わん!」

キリュウ「ん?」


ソードが短く鳴いたその直後、ソードに体が光に包まれ、元の小さな体に戻った。

すると、同時にキリュウの髪の色が金色から赤色に戻る。


キリュウ「へぇ、こりゃ便利だな」

 

小さくなったソードを肩の上に乗せる。


雨に濡れた地面の上を、

一人と一匹は並んで歩き出した。


敵との戦いの中、キリュウとソードが作り出した衝撃波によって雲は晴れ、落雷は止んだ。


見上げると、

そこには雲ひとつない青空が広がっていた。

 

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