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49話 ハヤテ


♦︎小さな出会い


昼下がりの公園。

木陰に寝転がったキリュウは、片腕を額に乗せて空を仰いだ。

すぐ近くには、獣が出る森が広がっている。


人の世界に馴染む気はない。

そう思っていたはずだった。

 

 

キリュウ(はー・・・腹減ったな、また森に行って食料調達するか)


ハヤテ「お兄ちゃん、お腹空いてるの?僕のたい焼きあげる!」


突然、澄んだ声が落ちてきた。

そこには、小さな男の子が茶色い袋を抱えて立っている。

話しかけてきたのは小さな男の子だ。


キリュウ「・・・お前、俺が怖くないのか?」

ハヤテ「怖くないよ!はい!これあげる!」



ハヤテが持っている袋の中にはホカホカのたい焼きが二つ入っている。

その中のひとつをキリュウに差し出しているのだ。

 

キリュウ「それ、お前のだろ?」

ハヤテ「うん、僕とママの分。

でも、お兄ちゃんの方がお腹空いてそうだから僕の分あげる。

あとで先に食べちゃったって言うから大丈夫!」


キリュウ(こいつ、飛んだお人好しだな)

 

キリュウ「俺は森の中で食い物を見つけてくるからいい」

ハヤテ「えー、だったら余計にお腹空いてたら危ないよ!」

キリュウ「はぁ・・・分かった」


包みを受け取ると、ほんのり湯気が立っている。

一口かじる。

外はカリッと中はふんわり。

 

キリュウ(参ったな、甘いもんは苦手なんだが・・・

ん?甘さ控えめか、これなら食べれる甘さだな)



食べ終わった後。

 

キリュウ「おいガキ」

ハヤテ「僕の名前はガキじゃないよ、ハヤテだよ」

キリュウ「そうか、ハヤテ美味かった、礼を言う」


ハヤテはお礼を言われたのが嬉しいのかニコニコしている。


キリュウ(あいつに似てる)


ハヤテ「お兄ちゃんの名前は?」

キリュウ「キリュウだ」

 



♦︎火事現場


数日後。

焦げた匂いが風に混じった瞬間、キリュウの足が止まった。


炎と叫び声。

黒煙の向こう、4階の窓に小さな影が見えた。

ハヤテだ。


母「ハヤテ!!」


母親らしき人が中に入って行こうとするのを他の人達が必死で止めている。


ハヤテ「ままぁ!熱いよぉ!」


母「ハヤテ!!」

キリュウ「おい、あんた、ハヤテの母親か?」

母「え、ええ、あの、あなたは?」

キリュウ「今はそんな事どうだっていい」

 

キリュウは脚に血液を集中させ地面を蹴ると、

一気に4階の窓までたどり着いた。


タンタンタンッ!!


ハヤテ「うわぁんお兄ちゃん!!」


ハヤテがキリュウに駆け寄る。

 

キリュウ「もう大丈夫だ、心配すんな」

ハヤテ「うん」


燃え盛る熱気の中、キリュウはハヤテを抱き上げ、

そのまま飛び降りた。


人々の悲鳴が上がる。

 

キリュウはハヤテをすぐに腕から下ろす。

ハヤテはすぐに母親の元へ駆けてく。


ハヤテ「ママぁ!!」

母「ハヤテ!!良かった、無事で!ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

キリュウ「俺は借りを返しに来ただけだ」

ハヤテ「ありがとうお兄ちゃん!!」

キリュウ「あぁ」


母「ねぇ、借りって何のこと?」

ハヤテ「僕とお兄ちゃんとのひみつー!」

母「あらあら」


ハヤテ「お兄ちゃーん!また今度遊びにきてねー!」

 

キリュウは手をひらひらとさせながら歩いて行った。


ハヤテ「僕、またお兄ちゃんに会いたいな!」

母「ふふふ、また会えるわよきっと」




♦︎再会


隣町。

人通りの少ない路地。


ハヤテと母親は妖怪に虐げられていた。


母「ハヤテ!早く逃げなさい!」

ハヤテ「やだ!ママは僕が守るんだ!」

 

「死ねガキ!!」


キンッ!!

刃と刃がぶつかり合う音。

キリュウの刀が敵の攻撃を防御する。

 

ハヤテ「!!・・・お兄ちゃん!」

キリュウ「怪我ねーか?」

ハヤテ「僕はないけどママが!」

 

見ると、母親の腕から血が滲んでいる。

 

キリュウ「・・・傷は深く無さそうだな、下がってろ」

ハヤテ「わ、分かった!お兄ちゃん死なないでね!」

キリュウ「安心しろ、俺はこんなクズにやられたりしねーよ」


「クズだとぉ!?貴様ぁふざけやがって!」

 

キリュウ「こんな小さいガキ相手に剣振り回す奴なんかクズだろーが。

やるんなら自分と互角かそれ以上の奴にしろよ。」

 

「それはお前の都合だろぉ!?俺は弱い奴を痛ぶるのが好きなんだよ!」

 

キリュウ「救いようのないクズだな」

 

「うるせぇ!!」

 

キリュウ(感情に任せた攻撃、隙だらけだな)


ザンッ!!!


「ぐああ・・・」


一瞬だった。



♦︎

キリュウ「あんた、血は?」

母「止まりました」

キリュウ「そうか、だが念の為病院に行って診てもらえ」

母「は、はい・・・」


ハヤテ「お兄ちゃん!ありがとう!ママを助けてくれて・・・ひっく、ひっく・・・」


堪え切れずに涙が溢れ、声が震える。


母「もうハヤテはほんとに泣き虫さんね」

 

キリュウ「いや、ハヤテは強い、こんな小さな体で母親を守ったんだからな、勇敢だった」


ハヤテ「!ありがとうお兄ちゃん!・・・でも、どうしてまた助けに来てくれたの?たい焼きの恩返しは火事の時に返してもらったよ?」


純粋な目で言われ、キリュウは言葉に詰まる。


キリュウ「そうだったか?俺は頭が悪いからな。忘れた。」


母(優しい方なのね・・・。)


母「でも、良かったわねハヤテ、お兄ちゃんにもう一度会えて」

キリュウ「何の話だ?」

母「この子、お兄ちゃんに会いたいってずっと言ってたんですよ」

キリュウ「そうか・・・」


母(あら、ひょっとして照れてるのかしら?意外と可愛らしい一面もあるのね。)


♦︎

ハヤテ「ほらママ、お兄ちゃんに言われたでしょ、病院行くよ」

 

そう言ってハヤテは母親の背中をぐいぐいと押す。

どうやら自分の気持ちを暴露されてハヤテも照れているらしい。


母「あらあら、お兄ちゃんとお話ししなくていいの?」

ハヤテ「いーのー。でもお兄ちゃん、次会った時はいっぱいお話ししようね!」

キリュウ「頼むから次会う時は妖怪に捕まらないでくれよ」

ハヤテ「うん、気を付ける!お兄ちゃんじゃーねー!」


ハヤテが母親の背を押しながら顔だけキリュウに振り返る。

ブンブンと片腕を振るハヤテに対し、キリュウは小さく手を上げるのだった。


 

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