48話 おやつの時間
昼下がり。
キャンピングカーの中には、甘く香ばしい匂いがふんわりと漂っていた。
シェル「レン!おやつの時間にしようぜ!」
ソファに寝転びながら、シェルが元気よく声を上げる。
レン「ええ、今ちょうどクッキーを焼いているところです」
キッチンの奥から、カタカタと天板を動かす音が聞こえてくる。
キリュウ「おやつって・・・
お前らって、戦う時以外はいつもこんな調子なわけ?」
少し呆れたように腕を組み、キリュウが言う。
シェル「ああ。だいたいこんな感じだぞ。
けど、“おやつの時間”作ったのはフローナが来てからだな」
キリュウ「へぇ、やっぱ“ちびすけ”は“ちびすけ”なんだな」
フローナ「むっ、それどーゆー意味?」
フローナが頬をぷくっと膨らませてキリュウを睨む。
キリュウ「そのまんまの意味だ」
フローナ「むむーっ!」
♦︎
レン「焼けましたよ」
オーブンを開けた瞬間、さらに甘い香りが広がる。
フローナ「わーい!レンさんありがとー!!」
パタパタと駆け寄るフローナ。
キリュウ「やっぱちびすけだな」
フローナ「だってレンさんのクッキー、美味しいんだもん!」
キリュウ「はいはい」
レン「そう言っていただけると、作った甲斐がありますね」
フローナは、レンに満面の笑みで「にこーっ」と返した。
♦︎
テーブルの上に、こんがり焼けたクッキーが並ぶ。
メリサ「は〜、いい匂い。
キリュウ君は食べないのかい?」
キリュウ「俺は甘いもの苦手なんだ」
メリサ「あら、それは残念だねぇ」
フローナ「ん〜!おいしー!!」
幸せそうに頬張るフローナ。
キリュウ「・・・はぁ。こんなんじゃ気が抜ける」
シェル「抜いちゃえ抜いちゃえ」
キリュウ「ったく、相変わらずヘラヘラしやがって」
そう言いながらも、キリュウは不思議とその場を離れなかった。
レン「キリュウさん。
甘くない、無糖のココアクッキーもありますが食べますか?」
キリュウ「・・・ああ」
ぱくっ。
キリュウ「ん、美味いな」
レン「俺も甘いものが苦手で、自分の分はこうやって砂糖を使わずに作っているんですよ」
キリュウ「てことは、これ、自分の分なんじゃないのか?」
レン「いいんですよ。今日はいつもより多めに焼きましたから」
キリュウ「そうか。なら、ありがたく頂く」
もう一枚、静かに手を伸ばす。
♦︎
その様子を見ていたフローナが、ふふっと小さく笑った。
シェル「フローナ、なーにニヤニヤしてんの?」
フローナ「え? ううん、なんか、ほのぼのするなって」
シェル「あー、確かに、そうだな」
ほのぼの〜!
キリュウ(さすがに気抜きすぎだろこいつら・・・)
そう思いながらも、
キリュウの手は無意識に三枚目のクッキーに伸びていた。




